米国筋強直性ジストロフィー財団から、Above and Beyond Awardを受賞しました
2025年5月3日、筋強直性ジストロフィー患者会(DM-Family)事務局長の妹尾みどりは、米国筋強直性財団(MDF)から「Above and Beyond Award」を受賞しました。
受賞発表は、米国インディアナポリスで開催された「2025 MDF Conference」で行われました。筋強直性ジストロフィーの患者と家族、研究者、製薬企業など700人以上が参加する大規模な会合です。
Above and Beyond とは、「期待や予想を大きく超える」といった意味で、日本の筋強直性ジストロフィーに関する意識向上をしてきたことをたたえていただきました。
発表時には会場の参加者全員が立ち上がり、大きな拍手に包まれた受賞となりました。発表後にはアメリカの患者・家族の方だけでなく、国際連盟に加わっている各国代表からお祝いをいただき、同じ病気にかかわる者として、ともに力を合わせることが大切と決意を新たにしました。
この賞は、妹尾みどり事務局長だけではなく、筋強直性ジストロフィー患者会の活動をともに行う全会員に与えられたものと考えます。
大きな賞を与えてくださったMDFのみなさまに、心からお礼を申し上げます。
期待に応えられるよう、会員とともにこれからも歩み続けます。
みなさまからのご支援とご鞭撻を、何とぞよろしくお願い申し上げます。


ビデオの日本語訳は下記をご参照ください
*DM:(Dystrophia Myotonica):筋強直性ジストロフィーを指しています。
【MDF CEO ターニャ・スティーブンソンさん】
ありがとうございます。MDFのAbove and Beyond賞を発表させていただく栄誉にあずかりました。
この賞は頻繁に授与されるものではありません。私たちの歴史の中で、これまでに2回しか授与されていません。そして、この病気に関するアドボカシー(権利擁護)と意識向上において、著しいリーダーシップを発揮した革新的で情熱的な個人に贈られます。
さて、私たちの物語は、日本にお住まいの籏野あかねさんという素晴らしい女性と、彼女の長く、時には非常に苦痛に満ちた診断に至るまでの道のりから始まります。
20歳頃から、互いに関連がないように思える症状が現れ始め、時間とともに進行しました。これには不整脈、白内障、生殖器系の障害などが含まれました。
そして2006年、39歳でようやくDM(筋強直性ジストロフィー)と診断されました。
彼女は20年近くもの間、自分の体に何が起こっているのかを理解しようと努めてきました。
翌年、お母様がピーター・ハーパー氏の著書『The Facts(邦題:筋強直性ジストロフィー 患者と家族のためのガイドブック)』を彼女に渡しました。多くの皆さんもお読みになったことがあるかもしれません。
DMは「単なる筋肉の病気ではなく、体の多くの部分に影響を及ぼす」と書かれているのを読んだとき、彼女は特に心を打たれました。
それで、これが実際に自分の経験していることを説明しているのだとようやく理解しましたが、症状は進行し続けます。
病院に行っても医師たちは筋強直性ジストロフィーについて全く詳しくありませんでした。必要のない、非常に痛みを伴う長時間にわたる筋電図検査が行われ、彼女は自分がモルモットのように感じました。逃げ出したいと思ったほどです。
医師たちは彼女にこう言いました。「もう病院に来る必要はありません。これは不治の病で、私たちにできることは何もありません。」
ですから、ご想像の通り、何が起こっているのかを特定するのに20年も待ち、治療法もなければ症状を緩和するわずかな治療法さえないと告げられた後、彼女はかなり深く落ち込みました。
しかし、姉のみどりさんはこれを受け入れませんでした。こんなことはあってはならないと、答えと支援を求めました。
みどりさんはあかねさんの通院に付き添い、理解しようと努めました。
彼女は少し調べてみましたが、医師が見せたCTスキャンで、あかねさんの体には筋肉がいかに少ないか、なぜ脚が思うように機能しないのかを知り、完全にショックを受けました。
そこでみどりさんはさらに調査を始めましたが、特に希望の持てるものは見つかりませんでした。
彼女はオンライン検索を英語で「myotonic dystrophy」と検索するように切り替え、そして当財団(MDF)を見つけたのです。
みどりさんは、私たちのウェブサイトで笑顔の人々を見て驚きました。それは日本では経験していなかったことだったからです。
彼女はMDFのウェブサイトが素晴らしい情報源であり、この病気にもっと明るい未来があるかもしれないことを示していると感じました。
さらにオンラインで調べた後、彼女はMDFのツールキットを申し込み、私たちの創設者であるシャノン・ロード氏について読みました。そして、シャノン氏が「どんな時もユーモアのセンスを保つように」と勧めていることに感銘を受けました。それが可能だとは思えませんでしたが、自分の考え方を変えたいと思いました。
2015年、DMに対する初の臨床試験、IONIS社の治験のニュースがありました。
それは米国で開始されましたが、日本ではこれに関するニュースはありませんでした。
そこで、より多くのDM患者さんとつながるために、彼女は日本語で「DM-info」というタイトルのFacebookページを立ち上げ、DMやその他の希少疾患の進歩に関するニュースを共有しました。
ある時、市民公開講座について投稿し、妹のあかねさんと一緒にその講座に出席しました。
この講座で、彼女たちは3つのことを学びました。
・治療法がなく、医師もあまり詳しくないため、多くの患者さんは病院に行かなくなり、通院をやめてしまうこと。
・しかし、薬は開発されていること。
・そして、日本で臨床試験が行われるためには患者さんが患者登録に登録する必要があること。 なぜなら、登録がなければ、誰が臨床試験に参加できるかを特定する方法がないからです。
そこで、あかねさんは考えました。「日本でこの病気と共に生きていると推定される1万人の人々に、どうやって患者登録が必要だと伝えればいいのだろうか。もし彼らが登録制度に参加せず、医師たちもあまり情報を伝えてくれないとしたら?」
そこで、あかねさんは「患者会を立ち上げよう」と言いました。みどりさんは「わかった、そうしよう」と答えました。
そしてみどりさんは、「事務作業なら少しできる。大丈夫、これは良い考えだ」と思いました。
2015年8月、彼女たちは患者さんとその家族10人を集めて患者会を結成しましたが、行政は正式に登録された非営利団体でなければ、このグループの活動、例えばポスター掲示などを認めないことがあります。
そのため、独立した非営利団体として認められなければ、認知度を高めることは困難でした。
多くの事務手続きと計画の後、2016年1月19日、東京都はDM-Familyを日本初のDMに特化した非営利団体として承認しました。
新しく設立された非営利団体DM-Familyは、DM患者さんとその家族がより良い未来のために共に働き、学ぶグループとして活動し、3つのことに尽力しました。
・患者として研究に貢献すること。
・患者さんとその家族の心を豊かにすること。
・病気に関する一般の認識を高めること。
あかねさんはDM-Familyの理事長を務め、みどりさんは事務局長を務めています。
DM-Familyのスタッフは全員ボランティアです。彼らは日中の仕事を持ち、家族がおり、その上でこれらすべての活動を行っています。
DM-Familyが現在行っている活動の一部は、患者と家族への知識提供や、互いにつなげることです。DMの研究やケアの多様な分野に焦点を当てたウェビナーやセミナーを主催し、学術会議に出展して認知度を高め、患者の視点を提供しています。
また、キャンペーンやアウトリーチ活動を通じて、病気との経験を世界と共有しています。
DM-Familyは実際に、日本の患者登録に参加する人々の数を増やすことに非常に成功しています。
左側は少し見えにくいですが、2016年にはDM患者登録には数百人しかいませんでした。しかし、彼らのアウトリーチ活動、チラシ、小冊子、ポスターが、日本の登録者数を1300人以上に増やすのに貢献しました。
DM-Familyはまた、筋強直性ジストロフィー啓発のための筋強直性ジストロフィー国際連盟の誇り高き設立メンバーでもあります。みどりさんは、本日ここにいらっしゃるDM-Familyの他のメンバーであるフィッシャー・直子さんと共に、国際連盟のすべての会議に必ず出席しています。(アメリカで)私が参加する時間は午前5時だとしても、みどりさんや直子さんにとっては長い一日の後の夜10時頃になります。それでも彼女たちは毎回そこにいます。その揺るぎない献身は非常に際立っており、感動的です。
ですから、みどりさんは今、あらゆる機会をとらえて、日本のDMコミュニティのためにより多く、より良いものを求めて提言活動を行っています。
昨日ご覧になったように、また医薬品開発パイプライン一覧表でご覧になったように、米国は幸運です。米国では10件の臨床試験が行われています。
日本には1件あり、始まったばかりです。これは非常にエキサイティングなことで、うまくいけばさらに多くの試験が見られるでしょう。
しかし、彼女は日本における治験の情報不足について定期的に公の場で発言し、専門家たちにその状況を変える手助けをするよう促しています。
DM-Familyの患者登録参加者を増やし、病気の認知度を高める努力が、現在日本で実際に臨床試験が行われ、さらに前進できるようになった大きな理由であることは間違いありません。
みどりさんとDM-Familyは今、何に取り組んでいるのでしょうか。
みどりさんは日本の法律を少し変えたいと考えています。米国では、製薬会社やバイオテクノロジー企業は、医薬品開発プロセスについて何ら困難なく話すことができます。私たちはここで彼らの話を聞き、彼らはプレゼンテーションを行い、本日後半にも同じことをするでしょう。
残念ながら、日本ではそうはいきません。
現在、日本政府は製薬会社に対し、政府によって正式に承認されていない医薬品に関する情報を提供することを禁止しています。
企業は、実際に直接情報を要求した人にのみ、医薬品開発プログラムの詳細を提供できます。そして、その情報が入手されても他の組織や患者と共有することはできません。
これが第68条です。これは何を意味するのでしょうか。これは、医薬品や医療機器を含む製品の品質、有効性、安全性の確保に関する法律(薬機法)の第68条であり、未承認の医薬品、医療機器、再生医療等製品の広告を禁止しています。これは、開発中の製品が実際に正式に承認されるまで、その効果や有効性に関する一般の混乱を防ぐ意図で設計されました。
この規制は、それらの製薬会社に代わって広告や販売促進を行う者を含め、すべての人に適用されます。これは日本のDMコミュニティにとっては受け入れられないことです。
そこで昨年12月2日、みどりさんは第68条がもたらす課題について公に発表し、患者が開発中の医薬品について知る必要があることを明確にしました。そうすることで、患者は実際に希望を持ち、参加登録することができるからです。彼女の12月2日のプレゼンテーションの後、他の多くの患者団体、記者、業界関係者が彼女の周りに結集しました。
他疾患の患者団体と団結して「薬機法68条ガイドラインプロジェクト」を立ち上げました。
その後、みどりさんは3月6日に内閣府規制改革推進会議に参加し、日本の厚生労働省に提言を行いました。
彼女は、未承認薬に関する情報は日本のすべての人々が利用できるようにすべきであると訴えました。
彼女には、全国がん患者団体連合会、日本経済団体連合会、日本製薬工業協会、そしてさまざまな医師も加わりました。
すべての利害関係者がいかなる禁止にも強く反対したため、同省は問題を検討すると述べ、発言した人々に対し、共感を示しました。
DM-Familyの活動は止まりません。
これは戦いが続く中でのほんの一歩に過ぎません。
みどりさんと彼女の妹、そしてDM-Familyの全員が、家族が生活の質を向上させるための治験や研究に関する情報にもっと簡単にアクセスできるように、第68条を変えることに専念しています。
そしてご想像の通り、彼女の妹に対する愛情が非常に強いことは明らかです。
あかねさんは現在、国立病院機構下志津病院の長期療養病棟に入院していますが、それでもDM-Familyへの関与をやめていません。彼女は今も理事長であり、積極的に活動しています。
そしてこのことが、DMがもはや人生を左右する力を持たないようにするというみどりさんの決意をさらに強くしています。妹の診断を初めて聞いたとき、彼女はほとんどの人がそうであるように、その深刻さを理解していませんでした。その後、調査を始め、病気に詳しくない医師による検査中に彼女が耐えたトラウマを理解するようになりました。そして、妹のCTスキャンを見たとき、すべてがより明確になり始めました。
当初、彼女はDM-Familyを立ち上げよう、簡単な事務作業なら問題ないと軽く考えていましたが、10年経った今、これが彼女のライフワークになったことは明らかです。彼女は治療への障壁を打ち破り、日本全国でより良いケアを提唱するために、たゆまぬ努力を続けています。
彼女の努力のおかげで、DM-Familyは世界中の何百人もの個人や専門家とつながり、不可欠な情報を患者と家族の家庭に、そして今では臨床試験さえも日本にもたらしました。
本当は、彼女はこれをする必要はなかったのです。彼女が立ち上がる必要はなかった。すでに多くのことを抱えていました。それでも彼女はこれを行うことを選び、その影響は並外れたものでした。
彼女は妹のためだけでなく、DM-Familyのすべての人々、この病気と共に生きる日本のコミュニティ、そして筋強直性ジストロフィーと共に生きる世界中の人々のために、期待以上のことを行うことを選んだのです。
皆様、この10年間、筋強直性ジストロフィーの未来を変えるために妹尾みどりさんが成し遂げたすべてのことに対し、盛大な拍手でお祝いください。
【筋強直性ジストロフィー患者会 事務局長 妹尾みどり】
皆様、おはようございます。DM-Familyの事務局長、妹尾みどりです。
ターニャさん、そしてMDFのみなさま、このような素晴らしい賞をいただき、本当にありがとうございます。
いつも私を支えてくださるみなさま、特にわたくしの妹、DM-Familyのチーム、そして筋強直性ジストロフィー国際連盟のみなさまに深く感謝申し上げます。
言葉や文化の違いがあっても、患者と家族は友人となり、力を合わせて多くの困難を乗り越えることができます。
共に。私たちはこの病気の未来を変える力を持っています。
みなさま、ありがとうございました。
