筋強直性ジストロフィーにおける筋萎縮の仕組みが解明。新たな治療法開発へ
2017年11月1日、大阪大学大学院医学系研究科の中森雅之先生のグループが、筋強直性ジストロフィーにおける筋萎縮の仕組みを解明したことが米国科学誌「Cell Reports」にて公開されました。
筋強直性ジストロフィーはRNA異常の病気
筋強直性ジストロフィーは、19番目の染色体にある遺伝子の末端で、DNAの塩基C(シトシン)、T(チミン)、G(グアニン)が異常な長さで繰り返すことによって起きる病気です。
DNAの繰り返しが長いと、DNAをコピーする際に使われるメッセンジャーRNAがヘアピン構造となって、ほかのタンパク質を吸着するようになる。それが筋強直性ジストロフィーで起きる多くの症状の原因です。
しかし、患者にとって重要な筋萎縮の仕組みはこれまで明らかになっていませんでした。
異常なRNAが増えて「インターロイキン6」が多く出ることが筋萎縮の原因
今回、中森先生のグループは筋強直性ジストロフィーの中でも重い症状を持つ先天性筋強直性ジストロフィーの患者さん10人を対象に研究をしました。
すると、DNAの繰り返しが長いほど、繰り返しの近くに特定の化学物質が付着する「CpGメチル化」という現象が起き、異常なメッセンジャーRNAがより多く出ることがわかりました。
そして、異常なメッセンジャーRNAが増えることにより、分泌型生理活性物質「インターロイキン6」が過剰に出ていました。
出典:大阪大学プレスリリースより
「インターロイキン6」が出続けてしまうと、筋肉に悪影響が出ます。
筋強直性ジストロフィーの筋萎縮の原因が「インターロイキン6」の過剰な発現であることが初めて明らかになりました。
今後、「インターロイキン6」を抑える新たな治療薬の開発などが期待できる研究です。
DM-familyでは、この研究論文の責任著者である中森先生に、質問にお答えいただく機会を得ました。中森先生との一問一答をご覧ください。
この研究を行うきっかけはどんなことでしょうか?
中森先生:筋強直性ジストロフィーでも特に重症な、先天性筋強直性ジストロフィーの患者さんの筋肉でみられる症状の原因を突き止めたいと考えました。
この研究は、先天性筋強直性ジストロフィーの患者だけに向けているのでしょうか?
中森先生:今回は先天性筋強直性ジストロフィー患者さんの筋肉を主に調べております。今後は成人の(筋強直性ジストロフィーの)患者さんの筋肉も調べてゆきたいと思っています。
関節リウマチの薬がインターロイキン6を抑える、という報道がありました。なぜこの薬を筋強直性ジストロフィーの患者に、すぐに処方できないのでしょうか?
中森先生:今回インターロイキン6の異常な産生がはっきり確認できたのは、先天性筋強直性ジストロフィー患者さんの、特に重症な方々の筋肉でした。成人の患者さんの筋肉でどのくらいインターロイキン6の異常があるかは今後の検討が必要です。
また、治療への応用という点では、まず疾患モデル動物で薬効の実証をする必要がありますが、現時点で筋萎縮とインターロイキン6の異常産生を示す、よい疾患モデル動物が存在しません。
このため、すでに関節リウマチの患者さんへ使われている薬剤の効果を動物で検証できない点がハードルとなっています。
研究を進める上でよかった点、苦労した点などがあれば教えてください。
中森先生:一にも二にも人手不足で、研究成果がでるまで時間がかかり苦労しました。そんな中、国立精神・神経医療研究センターの西野一三先生からは長年大事に保管されていた貴重な筋肉の検体をご供与いただき、また米国フロリダ大学のグループとも連携して研究を進めることができ、大変助かりました。
研究に協力するために、患者と家族はどんなことをすればいいでしょうか?
中森先生:まず申し上げないといけないのは、患者さんが検査の際にご提供いただいた筋肉組織のおかげで、今回のような研究の進歩につながりました。
最近では筋肉を実際にとる検査(筋生検といいます)は行われておらず、ほとんどが10年から20年前にとらせていただいた筋肉です。筋肉をご提供いただきました患者さんご本人、ご家族の方々に深く感謝いたしております。
また、今回の研究に限らず、有望な治療薬の候補が見つかり、臨床応用(普通に病院で患者さんへご処方できるようになること)へつなげるためには、「治験」という形で、まずは一部の患者さんでの薬効を証明することが必要不可欠です。
治験を行うためには製薬企業や国からのサポートが必要となりますが、これには患者さんが日本に多くいらして、今は治療薬がなくて大変お困りであることがしっかりと伝わっていることが重要です。
患者登録者数というのも指標のひとつですので、是非ご登録をお願いできればと存じます。
今後の展望についてお聞かせください。
中森先生:今後は成人の患者さんの筋肉でもインターロイキン6が悪影響を及ぼしているのか調べてゆきたいと思います。またよい疾患モデル動物ができれば、インターロイキン6を抑える治療薬の薬効も検証して参ります。
ありがとうございました。