コロナ禍を乗り越えて…今こそ、患者と家族が集まって声を上げるとき!:「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日 in 東京 2023」
2023年9月10日(日)、「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日 in 東京・大阪」を東京と大阪にて同時開催しました。
国際筋強直性ジストロフィー啓発の日(International Myotonic Dystrophy Awareness Day)とは?
2021年に「毎年9月15日を国際筋強直性ジストロフィー啓発の日とする」ことを筋強直性ジストロフィー国際連盟で制定し、世界各国の患者と家族が協力し、市民や医療従事者、製薬業界とともに同じ目標に向かって歩もう!という記念日です。
啓発の日を記念して交流会が復活
当患者会はコロナ禍の間、患者と家族の感染リスクを考慮して交流会や講演会はオンラインのみで行ってきました。
しかし新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことを受け、「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」を記念して約3年ぶりに会場のみでの講演付き対面交流会が復活。東京会場では50名が参加しました。
おいしいお菓子と飲み物で交流会参加者をおもてなし
本年度の「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日 in 東京」は明治大学中野キャンパスにて開催しました。
久しぶりのリアル交流会ということで、運営スタッフは参加者全員にカステラ、コーヒー、フルーツジュースなど用意し、おもてなししました。受け取った参加者の多くはやや緊張した表情をしていましたが、お菓子と飲み物を受け取ると表情が和らいでいました。
患者と家族ができることとは?日本と海外の違い
冒頭、当患者会事務局長の妹尾みどりが「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日 in 東京」の開会挨拶と、患者と家族の過ごし方について話ました。
未だ、治療薬のない筋強直性ジストロフィーについて、海外と日本では、患者の取り組みが違っています。
海外では患者と家族が集まって、みんなで幸せな時間を共有することが当たり前です。交流をはじめ、医師から医療について学んだり、製薬企業から治療薬について話を聞いたりなどが行われています。
海外では参加者が顔を出して製薬企業に「ここに筋強直性ジストロフィーの患者と家族が現実にいるんです!私たちは治療薬を望んでいます!」と積極的な活動によってアピールをしています。
しかし日本では、希少疾患ゆえに「自分の病気を知られたくない、顔を出したくない」と消極的な患者と家族が多いようです。
これでは、どの国の製薬企業からも「なぜ日本では患者がアクティブにならないの?病気に困っていないのでは?」と思われてもおかしくない状況です。
そこで事務局長から、「会の最後に、記念撮影のご協力と、啓発の日を記念して今回の交流会の様子をSNSに公開し、世界の患者会・製薬企業に向けて発信しましょう!」と熱く呼びかけをしました。
「子どものために…」、「パートナーのために…」患者家族も語りましょう
講演の前に、参加者一人ひとりが自己紹介をする時間を設けました。
日頃、患者を支えている家族や支援者からも、患者のために「できること」を知りたい!交流会をきっかけに参加された患者、家族とお友達になって交流を重ねていきたい!といった、普段の交流会では聞けない熱く、愛情にあふれた言葉も多くありました。
中でも「今年生まれたわが子が8月に先天性筋強直性ジストロフィーと診断された」という参加者一家は父として…母として、祖父、祖母として子どもの今後を案じ、「不安な思いを抱いているが、今回の交流会で少しでもこの病気の患者とも交流して情報を交換したい」と前向きにお話しされました。「娘のこの先…、辛いこともあるかもしれない。どんな苦境に立たされても、それでも世界は美しいんだと感じてくれるように名づけました。私たちはまだこの病気についての知識は初心者なので、私たちが何を知っていて何を知らないのか…何を知っていく必要があるのか現在、分からないため、この会をきっかけに学び、参加者の方たちとお話をしたいです」と涙ぐみながら愛娘の名前の由来を語る母の姿に涙を潤ませながら聞き入る参加者もいました。
ほかには「筋強直性ジストロフィー患者あるある」をお話しされて会場を和ませる自己紹介、「治療薬の情報がほしい」、「子どもが先天性のため、成長過程で様々な合併症を経験し、対症療法で今は元気に過ごしていますが、親亡き後の子どもの将来がどうなるか…心配事が絶えない」と、患者と家族が抱える共通の悩みを話される紹介が目立ちました。
中には、「私は、患者の中でも変わっている方だと自覚しています。この病気になって確かに体に不自由を感じることが増えてきましたが、自分はこの病気になれてラッキーだと思っています!誰でも体験できる病気というわけではないし、治験や治療の話に立ち合えている過渡期を楽しんでいます」と、この病気の明るい未来を信じて熱く語る参加者もいました。
自己紹介の後の休憩時間では、参加者同士が個別に交流し、会場はより一層にぎやかになりました。
小児科医からみた筋強直性ジストロフィー療養のコツ
自己紹介、個別歓談を終えるころには会場は熱気に包まれていました。
その熱気の中、東京女子医科大学 小児科 石垣景子先生から「筋強直性ジストロフィー療養のコツ」についてお話しいただきました。
軽症でも、自身のケアを置き去りにしてはならない
まず、石垣先生からは先天性筋強直性ジストロフィーの主な症状についてお話しいただきました。
先天性筋強直性ジストロフィーは筋強直性ジストロフィーの早期重症・重症型とされており、胎児期または乳児期早期からの全身性筋緊張低下、呼吸・哺乳障害など特有の症状があり、胎児・新生児死亡率は高いとされています。
しかし、新生児期を乗り越えると、多くの患児は独歩を獲得できます。ただし知的障害は重度で頻度が高いのが現状です。
そして、この病気をもつ子どもは95%以上の確率で母も同じ病気を持つ患者です。
先天性筋強直性ジストロフィーをもつ子どもの多くは成長とともに対処する物事が増えていくため、親はその対処で自身を顧みることが少なくなっていきます。
そこで、石垣先生は「子どものサポートで多くの親御さんは自身のケアがおろそかになっています。自分のことを置き去りにしていませんか?」と会場に問いかけます。
筋強直性ジストロフィーの遺伝と親の診断の現状
筋強直性ジストロフィーは※常染色体顕性(優性)遺伝形式をとっており、同一家族内での、症状の個人差が激しいと言われています。
※顕性遺伝とは両親のどちらかが罹患者の場合、50%の確率で子は罹患し、各世代に罹患者がいるということです。
代を重ねるごとに症状が強くなる表現促進現象が特徴で、先天性型は95%以上で母親が患者ですが、父親が患者のこともあります。
石垣先生は「稀ですが、先天性筋強直性ジストロフィーは父親由来もあり、お子さんが生まれたとき父は無症状であることが多いので、母だけではなく父もありうるということも理解してください」と理解と意識を持つことが重要と説明されました。
親の中には未診断の人がいることも確認されています。この場合、母親と父親のどちらが患者かわからないため、十分なケアを受けずに症状が悪化する可能性があります。
また、母親の妊娠・出産を契機に、自身の症状が重篤化し深刻なマタニティブルーを伴うことから、親に向けた十分な遺伝カウンセリングが必要です。
無頓着のままはダメ!医療管理をしっかりしよう
先天性筋強直性ジストロフィーの子どもの親は、子どもと比較して軽症であることから、親自身の医療管理が無頓着になる傾向が強いです。
これは、先天性筋強直性ジストロフィーの子どもがいる親だけではありません。現在、無症状または軽症で、症状を自覚していない患者にも同じことが言えます。
医療管理に無頓着のままでいると、加齢に伴う病状の進行や命に係わる合併症のリスクがあります。
しかし、命に係わる合併症のリスクの多くは定期検診を受けることで防ぐことができます。
石垣先生は医療管理について以下のことを推奨していました。
1.少なくとも年に一回の心電図、循環器科受診を!
不整脈・心伝道障害は突然死を含む予後に大きな影響を及ぼします。
心臓関連死は10~15%、突然死は10%と不整脈などが関与しており、CTG反復回数の多さ、または加齢に伴い、リスクが増大します。
これらのリスク予測は心電図検査が向いており、可能であればホルター心電図、心エコー検査も定期的に受けましょう。
2.少なくとも年に一回の血液検査を!
筋強直性ジストロフィーの合併症に糖尿病と高脂血症が多いことから年に一回の血液検査でHbA1c(糖尿病マーカー)、中性脂肪、コレステロール値の測定をしましょう。
- HbA1c5.6%以上や空腹時血糖90㎎/dl以上なら精査!
- HDL低値、LDL高値もあるが、中性脂肪の異常が多く見られている。
年に一回の特定検診の項目で数値に異常が見られたらすぐに対処していきましょう。
3.積極的ながん検診を!
筋強直性ジストロフィー患者の悪性腫瘍発生率は一般の2倍、死亡率は2.5倍といわれています。
海外では皮膚悪性腫瘍が最も多く、ほかにも大腸癌、婦人科腫瘍、精巣・前立腺腫瘍があります。
日本では特定の癌が多いか不明であるためがん検診(大腸、肺、胃、子宮、乳)を積極的に受けましょう。
- 甲状腺に異常がある場合は甲状腺がんの合併にも注意しましょう。
- 特に、貧血や血便、摂食障害などがあれば十分な検査が必要です。
4.症状がなくとも、年に1回の呼吸機能と嚥下機能検査を!
症状がある方はもちろんですが、40歳代以降からは自覚症状がなくとも呼吸機能と嚥下機能検査はしてもらいましょう。
呼吸不全や嚥下機能は症状の自覚がないことが多く、特に死亡原因ナンバーワンとされる呼吸不全に関しては、早期に睡眠時の呼吸異常が生じ、喀痰排出困難があると肺炎などを起こしやすくなります。
呼吸機能の異常は急性増悪以外に「呼吸苦」を感じないという、特有の症状があるため定期的睡眠時の呼吸状態の評価が重要です。
嚥下障害は筋強直性ジストロフィー患者の半数が合併しており、誤嚥性肺炎、窒息による死亡率が25%~36%と高く、筋強直がある場合は嚥下障害が強い傾向があります。
多くの患者がむせ、喉での食べ物の通りにくさを自覚していますが、症状として訴えることが少ないのが現状です。
症状の有無に問わず、定期的な嚥下造営検査または内視鏡で自身の嚥下状態をチェックしましょう。
大切な子どもを元気に育てるために、大切な家族を悲しませないために、患者自身も元気でいる必要があります。
症状がなくても年に一回の定期検査を必ず受けましょう!
ドラッグ・ロスとは何か?日本がかかえる問題
最後に国立精神・神経医療研究センター 中村治雅先生から「治療薬はどうなる?ドラッグ・ロスとは何か」についてお話しいただきました。
新しい薬が使えるようになるまで・・・難病の医薬品開発の課題
一般的に新しい薬が使えるようになるまでは基礎研究から始まり、非臨床試験、第1~3相の治験を経て国から承認されると使えるようになります。少し前まではこの過程が10~17年かかり、新薬を作ることは困難な道のりです。
とりわけ難病(希少疾患)の医薬品開発は、次のような課題があります。
- 原因・病態が分からず、治療のターゲット(どこを治すか)を同定することが困難
- 治療方法が確立していない
- 希少疾患の開発の困難
- 長期経過・慢性経過のため評価が困難
しかし、世界では状況が変わりつつあります。
世界で広がりつつあるオーファンドラッグ
2000年以降から海外ではオーファンドラッグ(希少疾病用医薬品)に取り組む製薬企業が増加し、開発が活発化しています。
以前は「オーファンドラッグは開発しても売り上げに貢献しない」とされていました。
しかし、今や世界ではそのオーファンドラッグが医薬品売り上げの20%を占めています。
世界中で進められている治療薬開発と日本が抱える問題
現在、筋強直性ジストロフィーの治療薬の開発も世界中で進められています。
以前は治療薬の国内承認には、「開発から治験、すべて”日本人”対象」とされていましたが、国際的な開発が進みブリッジング試験(ICH-E5)、国際共同治験(ICH-E17)が認められるようになりました。希少疾患である筋強直性ジストロフィーは、より日本人だけの治験では症例数が不足し実施が困難です。国際共同治験の実施数も増加して今後、オーファンドラッグの開発も国際的になり日本でも使える世の中になろうと考えられていました。
しかし、日本はドラッグ・ラグ/ドラッグ・ロスという問題を抱えています。
ドラッグ・ラグは「海外では承認されているが、国内未承認の場合、国内で開発・国際共同治験などの実績があれば遅れる形で海外の医薬品が国内承認される可能性がある」ことを指します。
一方、「ドラッグ・ロス」は「ドラッグ・ラグのうち、日本での開発に着手されていないため国内承認されない」ことです。すなわち、海外で開発中の医薬品の治験が進み、承認されても、国内で開発・共同治験などに着手されない場合、国内承認される可能性がないことです。
そして近年、日本では海外医薬品が国内にもたらされないドラッグ・ロスになる割合が増えてきています。
ドラッグ・ロスの要因。そして、私たちは「どう生きるか」
ドラッグ・ロスがなぜ日本で起きてしまうか?
中村先生は「臨床試験着手の遅れ、日本の中で臨床試験ができない・していない状況下で、世界では開発が進んでしまっているのです」と話されました。
日本国内での開発の着手が遅れる原因にはいくつかの複合的な問題がありますが、その一つには新興企業群(ベンチャー企業)により開発された薬剤の欧米での承認が増加しているため、開発が欧米からスタートすることが多くなっています。
海外から見た日本は、国際共同治験でも受け入れ率が低く、臨床試験環境、薬事制度、期待事業価値の低さが見受けられます。
これらの問題に中村先生から
「行政、研究者、企業に加えて患者も、医薬品開発・治験への理解と積極的な参画が必要不可欠です」
「また、日本の患者登録数は世界で第4位と多いことから、今後は『国際共同自然歴研究』などに患者さんがご協力いただくことで、国際共同治験に向けての準備を私たちと一緒にしていき、世界に日本でも治験ができます!開発ができるんです!とアピールしていくことも重要です」
と、患者だからこそできる治験・開発の参画を呼びかけました。
記念撮影後も続く交流の輪
先生方の講演が終了し、参加者の皆さんと記念撮影を行いました。
交流会終了後も会場のあちらこちらで交流の輪が広がっており、近郊に住まわれている参加者同士で連絡先を交換している場面も見られました。
今回、「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」を迎え、ここから私たち患者と家族、支援者が世界中の研修者、製薬企業、患者会に「日本にも治療薬を欲する患者はたくさんいる!」と発信し、大きな一歩を踏み出しました。
その一歩に参加してくださった皆様、講演をしてくださった先生方、この場を借りて感謝申し上げます。