筋強直性ジストロフィーと寄り添い人生を豊かに!:ハイブリッドセミナー「これから変わる、筋強直性ジストロフィー」

2023年7月29日(土)、岩手県盛岡市のマリオス(盛岡地域交流センター)での現地開催及びZoomを用いたオンラインウェビナーで、ハイブリッドセミナー「これから変わる、筋強直性ジストロフィー」を開催しました。

当日は2部構成で、第1部で患者と家族に必要な知識を知るための講演を聴き、第2部ではミニレクチャーと交流会を行うほか、県ごとに分かれ、各県の専門医、医療ソーシャルワーカーによる個別相談会が行われました。

本セミナーにご協力いただいた先生

本セミナーにご協力いただいた先生

・国立病院機構青森病院 院長 高田 博仁 先生
・国立病院機構青森病院 大平 香織 先生
・国立病院機構岩手病院 院長 堅山 真規 先生
・国立病院機構岩手病院 鳥畑 桃子 先生
・国立病院機構仙台西多賀病院 高橋 俊明 先生
・国立病院機構仙台西多賀病院 相沢 祐一 先生
・国立病院機構あきた病院 小林 道雄 先生
・国立病院機構あきた病院 戸沢 満 先生
・国立病院機構福島病院 院長 杉浦 嘉泰 先生
・国立病院機構福島病院 小林 律子 先生
・国立病院機構山形病院 院長 川並 透 先生
・国立病院機構山形病院 須貝 緋登美 先生
・大阪大学大学院医学系研究科 高橋 正紀 先生
・岩手医科大学医学部臨床遺伝学科 山本 佳世乃 先生
・就労移行支援/就労定着支援 Rickeyクルーズあすと長町 渡部 栄姫 さま
・国立病院機構大阪刀根山医療センター 松村 剛 先生

セミナーの冒頭では副理事長、佐藤美奈子が当患者会の説明をいたしました。

筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)の目的は、『患者と家族がともに協力し合い、未来に向けて知り、学ぶ』ことです。

この目的に向けた取り組みとして、「患者と家族が治療法開発に協力する」、「患者と家族への知識提供」、「広く一般に向けたこの病気の啓発」を行っています。

筋強直性ジストロフィーを持つ患者と家族がこれから幸せになるためにも、患者ひとりひとりができることがあります。みんなで力を合わせ協力し、ともに、治療できる日を目指しましょう。

なお、本セミナーは「田辺三菱製薬 手のひらパートナープログラム第8期」の助成金を得て実現できました。

会場では、ネスレ日本株式会社さまからのご厚意で、栄養補助食品のサンプル提供をいただきました。

また東北地方6県、7紙の新聞社から本セミナーのご紹介をいただきました。
この病気に立ち向かう患者と家族のために、多くのみなさまからご協力をいただきましたこと、心より感謝を申し上げます。

患者は症状を自覚しないことが多い!定期的な受診を

第1部、最初の講演は国立病院機構あきた病院 小林道雄先生からの「筋強直性ジストロフィー 基本のキ」です。

○「筋ジス」ではなく、「筋強直性ジストロフィー」と正しく言うメリット

筋ジストロフィーとは、「筋肉が、壊れやすく再生されにくい症状をもつ多くの病気をまとめた呼び方」であり、100種類以上の原因遺伝子が知られており、筋強直性ジストロフィーは筋ジストロフィーのひとつのタイプです。

自身の病名を言う際に、「筋ジス」ではなく、「筋強直性ジストロフィー」と言いましょう。

筋強直性ジストロフィーには特有の合併症や医療上注意すべき点が多くあります。医療者や支援者が適切な処置、支援を行えるようにするためにも正しく伝えましょう。

○いろんな年齢・いろんな症状。次にどうなるかは個人差がある

遺伝形式は常染色体顕性遺伝であり、患者の子には、50パーセントの確率で遺伝します。また、発症年齢による分類では、「先天性」、「小児型」、「古典(成人)型」、「軽症型」があり、同じ病気でも症状の程度は人によってさまざまです。

○筋肉の症状には、適時に適切な対処を

筋強直現象(ミオトニー)、筋力の低下が挙げられます。

筋強直現象は握った手が開きにくいことや筋を叩くと収縮が持続します。対処法としては準備運動やあたためることなどで軽くなります。

筋力の低下は、首、足、腕、顔など全身に現れます。頸椎カラー、短下肢装具、車いすを使用するなど、症状に応じた対処を行っていく必要があります。

○多くの臓器に症状が。とくに呼吸器にリスクあり

多くの臓器に症状が出ることも特徴です。呼吸器合併症で亡くなる方が最も多いです。

この病気は、患者が症状を自覚しないことが多く、定期的な受診と検査を受ける必要があります。

国立病院機構あきた病院 小林 道雄 先生

患者自身が協力しないと始まらない!治療薬の開発に向けて

続いて大阪大学大学院医学系研究科 教授 高橋正紀先生から「治療薬開発と患者登録・自然歴研究」の講演がありました。

○治験を受けると治療薬がもらえる?

現在、日本を含め、世界で治療開発が進められています。

治験に参加すれば、治療薬がもらえるのではと期待する人もいるかもしれません。
しかし、治験は薬をもらうことではなく、本当に効果があるかどうか、安全かどうかを調べる試験研究です。

治験に参加する場合は、普段の診療とは異なり、決まった時間に何回も通院する必要があり、筋力の厳密な評価、筋生検(筋肉を取って調べること)などの各種検査を行います。

どのくらいの治療薬開発が行われているのかは、「筋強直性ジストロフィー治療薬開発状況一覧表」をご覧ください。

○患者だけができることがある

では、患者は今、何をしたら良いのでしょうか。
例えば、患者登録です。

希少疾患の臨床試験を行うためには、
① どれくらいの患者が
② どのような状態で
③ どうやって募集するのか
など、多くの課題があります。

そのような患者の情報を知るために、患者登録(レジストリ)、自然歴データが必要です。

○患者登録のメリット

患者登録をすることは、患者自身にとっても、診療・医療の情報と最新の研究情報が伝えられるほか、世界・研究者とつながることや臨床試験から取り残されないなど、さまざまなメリットがあります。

患者登録数が多くなることは、みなさんの存在を開発企業・医師・研究者・社会に示し、関心を持ってもらう方法のひとつです。

日本ではRemudy(Registry of muscular dystrophy):神経・筋疾患患者登録で登録を行っています。1年に1回の更新があり、症状の変化などを確認しています。そして治験を行う際には、その研究の条件に合う患者で、希望している方に直接参加のお誘いをすることがあります。

Remudy事務局では毎年、更新のお知らせを患者に送っています。更新のためには受診が必要ですので、合併症チェックなど、ご自身の健康管理にも役立ちます。

大阪大学大学院医学系研究科 高橋 正紀 先生

社会サービスは豊富、社会資源は使わないと損!

第1部、最後の講演は「幸せな生活のための、社会サービス」として国立病院機構仙台西多賀病院 相沢祐一先生とRickeyクルーズあすと長町 渡部栄姫さまからのお話しを聴きました。

まず先に、相沢先生から制度や手当、そして病気があっても働ける社会が来ていることが話されました。

○いろんな制度を組み合わせ、出費を減らせる!

筋強直性ジストロフィー患者が受けることができる社会サービスには、指定難病医療費助成制度や障害年金、特別障害者手当、身体障害者手帳、障害者総合支援法など、さまざまあり、その役割は非常に大きいです。

指定難病医療費助成制度は全国共通の制度ですが、障害者医療費助成やこども医療費助成等の各市町村で規定される制度を組み合わせ、医療費や食事療養費の節減をしていくことが理想的です。

○患者と家族を助ける、訪問介護で負担軽減を

筋強直性ジストロフィーは厚生労働大臣が定める疾病等(別表第7)にある疾病に該当し、週4日以上かつ1日に複数回の「難病等複数回訪問介護」の利用ができます。

○年金、払っていますか?介護が必要になると、年金がもらえる

障害年金とは、病気やケガで仕事や生活が制限を受けた場合に受給できる年金であり、「障害基礎年金」と「障害厚生年金」があります。

申請をする際のポイントとしては、
・初診日の特定に気を付けること
・額改定請求の可能性を探るために現状の障害と年金の整合性をチェックする
・更新の診断書は前回提出分と比較する
などが挙げられます。

また、支給期間についても5年前までなら遡及申請により遡れる可能性もあります。

特別障害者手当とは、20歳以上で重度の障害があり、日常生活に常時特別な介護を必要とする在宅の方に支給されます。

○病気になっても、仕事は大切。病気をオープンにするメリット

身体障害者手帳を取得することで、自治体によるさまざまな施策を受けることができます。手帳の種類、等級により細かく区分されているため、各自治体に問い合わせるようにしましょう。就労支援の一面もあります。

一方で、身体障害者手帳をとれない場合の就労方法として「難治性疾患患者雇用開発助成金」の利用が挙げられ、筋ジストロフィー患者はこの制度を利用することができます。

事業者には、あらかじめ難病についてオープンにし、理解してもらった上での就職となるため安心です。

○筋強直性ジストロフィー患者の就労支援例

次に、Rickeyクルーズあすと長町の渡部さまから、就職支援を受けて見事に働いている筋強直性ジストロフィー患者の例が語られました。

Aさんの事例
診断名:筋強直性ジストロフィー
障害者手帳:身体障害者 2種2級

Aさんは筋強直性ジストロフィー患者で、身体障害者手帳2種2級を持っています。

これまで、学校を卒業してから接客業についていましたが、症状が進み国立病院機構仙台西多賀病院を受診。相談支援事業所を紹介され、就労移行支援をする渡部さんとつながりました。

Rickeyクルーズで取り組んだこと

AさんはRickeyクルーズでさまざまなことを学びました。

例えば、職業の振り返りでは、過去の職場を退職した理由を聞きながら、今後どのような職場であればパフォーマンスを維持しながら働けるのかといったことを把握しました。
学んだ内容を踏まえ、職場見学・体験などを重ね、就労へとつなげていきました。

Rickeyクルーズでの様子
接客業のワークシート

話し方もトレーニングしました。
ワークシートを用い、ワークショップを行うなど、自己理解を重ね自身の強みを伸ばし、強みとマッチする企業を探していきました。

Rickeyクルーズでの様子

グループ面接を行ったり、ロールプレイングで面接官の役になり、面接官の気持ちになったりと実践的な模擬面接もしました。

職場定着支援

そして、このような職場定着支援を受けて、現在のAさんは、国立病院機構仙台西多賀病院で仕事をしています。

Aさんは、今回のセミナーで紹介されることについて「人とつながりたくて就労移行や仕事を探しました」「自分だけではないですよ、と伝えたい」と話したそうです。

国立病院機構仙台西多賀病院 相沢 祐一 先生
就労移行支援/就労定着支援 Rickeyクルーズあすと長町
渡部 栄姫 さま

第2部 交流会ミニレクチャーは、家族に大事な遺伝カウンセリング

第2部、交流会ではミニレクチャー「みんな知っておきたい、遺伝カウンセリングって何?」を岩手医科大学医学部臨床遺伝学科 山本佳世乃先生からお話しいただきました。

遺伝カウンセリングでは、遺伝に関わる悩みや不安を持たれている方に、臨床遺伝専門医、認定遺伝カウンセラー、看護師など複数の専門職がチームとして相談を行い、意思決定の支援を行います。

遺伝カウンセリングは古くからのものであり、はじめて用いたのは1947年にも遡ります。遺伝学的知識が他者からの強制ではなく、当事者の自由意思によって活用されることを支援する機会としているため、指導や教育ではなく、「カウンセリング」の用語が使われています。

山本先生から、次のような遺伝カウンセリングの事例が話されました。
 ・出生前検査を行うにあたり遺伝カウンセリングを受診
 ・家系図を作成したところ、筋強直性ジストロフィー患者が親族にいることが判明
 ・相談した本人たちは遺伝については知らなかった

筋強直性ジストロフィーのことが明らかになったタイミングで本人の疾患に対する知識、子どもへの影響など、ひとつひとつ説明を行いました。 この事例では、出生前検査についての遺伝カウンセリングであり、予約時の主訴とは異なる予期しないケースとなりましたが、情報を正しく整理し伝え、意思決定の支援を行っています。

岩手医科大学医学部臨床遺伝学科 山本 佳世乃 先生
〇交流会と個別相談は、これまでのことを話し、わかりあえる機会

会場のみなさんとの交流会が行われました。それぞれの方々の立場、想いや悩み、今回このような会に参加できて良かったなど、多くが語られました。

個別相談では東北各県の専門医、医療ソーシャルワーカーが患者と家族の相談に対応。一般的に、医師とソーシャルワーカーが一緒に相談できる機会はほとんどありませんが、患者と家族の悩みは症状だけでなく多岐にわたります。 遠方から来ている高齢の家族もおられ、会員が支え、勇気づけていました。

セミナーをとおして:病気があっても、幸せな人生を

本セミナーは、各先生方のご講演により、正しく病気の知識を身につけ、患者自身が病気と向き合い、幸せな人生を歩んでいくためのセミナーであったと感じました。

わたしも筋強直性ジストロフィーの患者であり、言葉が発しにくく病名や症状を伝えるなかで、「筋ジス」と言ってしまうこともありました。しかし、自分の病気を正しく伝えなければ、適切な処置、支援につながらない、その責任は自分自身にあると感じ、今後もこの病気について学び続けていきたいとも思いました。

また、本セミナーの直前には新型コロナウイルスの影響により行えていなかった、検査入院を3年ぶりに行うことができました。本セミナーの中でも、定期的な受診の重要性をあらためて知り、主治医に感謝しています。

治験に期待を持つのは、患者なら誰しもですが、その治験を受けるためには、患者自身がただ待つなどといった受け身では成り立たず、また、治験は試験研究であるため、覚悟を持って行動していく必要があると感じました。

わたしも筋強直性ジストロフィーと付き合いながら、就労をしております。同じく努力している患者がいることに共感しました。

本セミナーをとおして患者は一人ではないと改めて感じました 。


なお、本セミナーの開催にあたり、各新聞社さまにご紹介いただきましたこと、心より感謝申し上げます。みなさまのご紹介があったからこそ、多くの患者と家族が参加しました。
重ね重ね、御礼申し上げます。

秋田魁新報 様
掲載先:秋田魁新報 電子版
https://www.sakigake.jp/news/article/20230701AK0009/

朝日新聞デジタル 様
掲載先:朝日新聞デジタル 医療サイト「朝日新聞アピタル」
https://www.asahi.com/articles/ASR745J9BR73UTFL00Z.html

河北新報 様
掲載先:河北新報 紙面
https://dm-family.net/wp-content/uploads/2023/07/8cf98c3af9daba1b9f1ae995a481125b.pdf

デーリー東北新聞社 様
掲載先:デーリー東北 紙面
https://dm-family.net/wp-content/uploads/2023/07/26946b8deaa08f9610bc12ac70abd034.pdf
掲載先:デーリー東北 デジタル
https://www.daily-tohoku.news/archives/174427

福島民友新聞社 様
掲載先:福島民友 紙面
https://dm-family.net/wp-content/uploads/2023/07/738ecaa5f693060930843b2ebfa7eee9.pdf

山形新聞社 様
掲載先:山形新聞 紙面
https://dm-family.net/wp-content/uploads/2023/07/yamagata_news20230712.pdf

岩手日報社 様
掲載先:岩手日報 紙面
https://dm-family.net/wp-content/uploads/2023/07/2b7decaa751b6b4c5a3feb499f9cd2a5.pdf

福島民報社 様
掲載先:福島民報 紙面
https://dm-family.net/wp-content/uploads/2023/07/fukushimaminpou_20230725.pdf