療養には、相談が大事!:「筋強直性ジストロフィー患者セミナー in 福岡」レポート(1)

2025年10月5日(日)に「筋強直性ジストロフィー患者セミナー in 福岡」を、福岡県中小企業振興センターにて開催しました。
2019年に「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 福岡」を行って以来、久しぶりの九州での開催となり、さまざまな講義・ワークショップに加えて交流会も行う、一日がかりのセミナーとしました。本稿は、当日午前中の講演についてレポートします。
目次
筋強直性ジストロフィーの療養の基本
最初の講義は、国立病院機構大牟田病院の荒畑創先生から、成人の患者に向けて療養の基本についてお話しがありました。

ここがポイント
- 急な変化でなくても放っておかない
- 病院は、船にとっての港。検査入院をしましょう
- 療養は「家族会議」が決め手
- お金は大事:障害年金の申請
- 患者の自己決定、意思決定には「みんなで話し合う」
病気としての体の変化:ゆっくりと変化するから、大事なこと
筋強直性ジストロフィーは、筋力の低下だけでなく、さまざまな臓器に症状が出る病気です。
生活をいつも通りする上で、次のことを見落とさないことが大切です。
我慢できない(かな)、ということ。
我慢しない方がいい(かな)、ということ。
急な変化が起きたら、まず近くの病院へ!時間との勝負です
以下のような症状が起きたら、ためらわずに近くの病院に連絡したり、救急車を呼んだりしましょう。
- 息ができない、しにくい/のどがつまる:①窒息?
- 立ちくらみが出る/急に歩けなくなった:②脳卒中?③心不全?④貧血?
- 胸が痛い、しめつけられる:⑤心筋梗塞?
- 意識が無い:①~⑤のどれも重症の場合に起きます。
もちろん、違っていることもあるでしょう。「それでもいいです。違っていれば、次に生かされます」と荒畑先生は言います。
違っていたとしても、急いで対応すべきことと、急がないけれど放置してはいけないことなどを理解できるようになりましょう。
急いで対応しなくてはいけないこと
下記の症状は放置すると命にかかわります。
- 嚥下障害
- 心伝導不全
- 不整脈
- 痰呼吸不全、無気肺
急がないけれど、放っておいてはいけないこと
過眠、食道拡大、胃食道逆流、末梢神経障害など
すぐには生活に影響がなくても、放っておくと命にかかわること
認知症、腎機能障害、便秘・イレウス、巨大結腸、悪性腫瘍(諸臓器)
短期検査入院で、放っておかずに対応
そうは言っても、何が「放っておくと困ること」なのかはわかりにくい・・・。
そのため、「短期検査入院」をすることがオススメです。早いうちであれば多くの症状が治療できます。
たとえば、自由に航海している船でも、安全な航海のためには港に戻って検査をします。大牟田病院では、それになぞらえて短期入院を「筋ジスポートサービス」としています。
日常生活でさまざまな事情があると思いますが、時間を見つけて短期検査入院をすると、命にかかわることに対応できます。検査入院ができないときには、医師と相談してみてください。
療養は、どこでする-家族会議で話し合おう
どんな人でも、自宅で暮らしたい。施設や病院では・・・。しかし、自宅での療養には次の4つすべてが必要です。
A:在宅サービスの確保
B:病状の安定
C:家族の協力
D:本人と家族の強い希望
「AとBは医療従事者が対応しますが、CやDには対応できません。とくに、自宅での療養はご家族の協力が重要。家族会議を持って、患者さんとご家族で話し合うことが大事です。」と荒畑先生は話します。
療養の場所は変わる?「わかっているはず」のことを考える
さてA~Dが難しくなったとき、どうしますか?ご家族も歳を取り、十分な介護ができなくなるかもしれません。患者も、家族も、そうなることはわかっているはずです。
患者への虐待が起こる原因は、「介護疲れ・介護ストレス」が半数以上です。根性だけでは長くは続けられません。在宅生活を快適に過ごすには、介護をしているご家族のみなさんが自分を大事にすること。患者と家族で、よく話し合い、考えましょう。
お金の話-障害年金を考える
療養にはお金がかかります。タクシー代、検査代、毎日の食事・・・だからと言って、検査しないと急ぐべきことが見過ごされるかもしれません。そこで、障害年金を考えてみませんか。
申請には医師の意見書が必要ですが、主治医から「障害年金は難しい」と言われる場合があります。そんなときは簡単にあきらめないように、障害年金の申請に協力してくれる人を見つけていきましょう。ほかにも特別障害給付金制度など、さまざまな公的支援があります。
*後半の「社会サービスで良い暮らし(成人編)」でも説明があります。
自己決定、意思決定って?―シェアード・ディシジョン・メイキングとは
以前は、「医療の意思決定は医師」とされていました。荒畑先生がまだ医学生だったころは、「インフォームド・コンセントで患者の意思を確認する」という方向に変わってきたそうです。しかし、「インフォームド・コンセントとして説明されても、わからない・腑に落ちないことがあるでしょう」と荒畑先生は話します。
そこで、「シェアード・ディシジョン・メイキング」という新しい考え方が登場しました。
これは、「医療従事者や関係者、ご家族、患者がみんなで話し合って意思決定をしていく」ことによって、患者が意思決定をしやすくなります。
「もちろん、急なときにはできません。しかし症状が落ち着いているとき、この後どうしていきたいのかは医師が押しつけることではなく、患者さん自身がいろいろな人との話し合いで決める方がいいでしょう。」
「わたしにはわからない、先生にお任せします、という方も、中にはいらっしゃいます。それでもいいのです。」
状況や年齢、病気との向き合い方など、患者を取り巻く背景や環境はさまざまです。
「よく知り・利用して・時に考え直して。」話し合いをすることは大切です。
先天型、小児型の子どもが大人になるまで
熊本大学病院小児在宅医療支援センター・熊本県医療的ケア児支援センター副センター長の小篠(おざさ)史郎先生から、先天型・小児型筋強直性ジストロフィーを持つ子どもを育てていくときに欠かせないことをお話しいただきました。

小篠史郎先生
ここがポイント
- キーパーソンは、訪問看護師、保健師、相談支援専門員と医療的ケア児等コーディネーター
- キーパーソンに相談し、児童発達支援などの福祉サービスを検討
- 「学びの場」を決めるには、早めに学校見学を
- 18歳になったら成人の制度を利用する
- 防災に備えるために、いつ逃げるか「マイタイムライン」を作る
最初に小篠先生から、先天型筋強直性ジストロフィーについて2024年にまとまった、セルビアでの論文をもとに説明がありました。成長とともに良くなるものの、年齢が上がると筋力低下や関節がかたくなることがあります。

まずは、保健師、訪問看護師、相談支援専門員に相談
子どもに対してはさまざまな法律に基づく支援があります。医療的ケア児は2021年に法律が施行されました。人工呼吸器や痰を取ることがいつも必要という子どもが支援を受けられます。
一方、重度の知的障害と重度の肢体不自由が重複している子どもは、児童福祉法に基づいて「重症心身障害児」とされ、認定されると重症心身障害児だけが通える通所サービスなどを受けられます。
重い病気の子どもを抱える親御さんに、まず頼りになるのは保健師・訪問看護師・相談支援専門員です。特に訪問看護師は「例えば、お子さんを見てあげているから、お母さんは美容院に行ってきたら?とか、カラオケに行ってきたら?というように、お母さんがひとりで外出できる機会を作ってもらえます。」と小篠先生。「とにかく、どんどん頼りましょう!」と親御さんを励ます言葉がありました。

相談支援専門員は使えるサービスを熟知しており、放課後のデイサービスやヘルパーの紹介もしてくれます。保健師は医療とつながり、退院後のフォローアップも行います。最近は「医療的ケア児等コーディネーター」も登場し、さまざまな支援が用意されています。

受けられる支援と法律との関係
小篠先生は丁寧な図解を使って説明されました。障がいを持つ子どもには、実に多くのサービスが用意されています。生活と法律の関係を知っておきましょう。


子どもへの医療費助成や制度を知っておきましょう
医療費助成として、まずは「小児慢性特定疾病医療費助成制度」があります。日常生活で必要な用具への助成や、自治体によっては人工呼吸器の購入に向けた助成もあります。
ただし、20歳になったら指定難病制度に切り替える必要があります。子どもは、いつまでも子どもではなく、大人の一人として医療を受けていけます。
障害者手帳は「身体障害者手帳」「療育手帳」「精神保健福祉手帳」の3種があり、知的障害が重いと「療育手帳」が発行されます。
そのほか、地域ごとに障害福祉サービスの受給や手当があり、国や自治体が子どもを支える体制になっています。
退院してから大人になるまで-さまざまな局面で相談することが大事
先天型筋強直性ジストロフィー児は生まれたときから重症ですので、多くの医療が必要ですが、そんな子どもたちも退院できるようになります。退院時のカンファレンスは、親子だけでなく主治医、病棟看護師、病院の連携室や訪問診療医だけなく、これから親子と相談していく保健師、訪問看護師、相談支援専門員、市区町村コーディネーターなど、多くの専門家が揃い、親子を囲んで話し合います。
成長し、どこで学ぶか考える時に、特別支援学校では「5つの障害種」があり、「小中学校の特別支援学級で教育を受けられる7つの障害種」があります。小篠先生がまとめたスライドをご覧ください。


手続きの流れについて、図解すると下記のようになります。
小篠先生は、一番左側にある「就学に関する事前の相談・支援が大事」と話し、「できれば入学2年前くらいから、学校見学に行ってみて相談してください」と示されました。

障害のある子どもが、大人になるまで
子どもが育ち、成人になっていくと、それまでの小児科の医師から、成人を診察する脳神経内科へ「移行期医療」を受けることになります。子どもたちそれぞれに合うことを考えていきましょう。3パターンの移行を意識した医療体制整備があることを、図解でご覧ください。

障害がある子どもと災害-マイタイムラインを作ろう
2018年に起きた西日本豪雨で、岡山県倉敷市真備町の犠牲者は8割が「避難行動要支援者」でした。子どもをどのように避難させるか、平時から考える必要があります。
国が防災基本計画に位置付ける「防災行動計画(タイムライン)」について、熊本県では「くまもとマイタイムライン」を提供しており、自宅のハザードマップを確認しながら、「こうなったら避難する」タイミングを明確にする取り組みをしています。
すぐにできなくとも、たとえば訪問看護の時間を使って訪問看護師と一緒に歩いて5分程度の公園に散歩してみるのもいいでしょう。日常の中で自然災害に備えることは、子どもであっても大人であっても大事なことです。
また、国が防災基本計画に位置付ける「避難行動要支援者名簿」への搭載と「個別避難計画」の作成も大切ですのでお住まいの市町村の保健師や担当の相談支援専門員に相談してみましょう。


