第13回 筋ジストロフィー市民公開講座レポート:せっかちに食べると人生もセッカチになる
2016年7月2日(土)、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターの医師・研究者による「第13回 筋ジストロフィー市民公開講座」が東京都小平市の同センター内ユニバーサルホールにて開催されました。当日は定員200名の会場が満席となる盛況で、さまざまなタイプの筋ジストロフィーの患者と家族が集まり、病気に関する知識を深めました。
患者と家族の声を製薬企業や研究者に伝えよう
冒頭、小牧宏文先生から、筋ジストロフィーの医療には「今できることを確実に行い、レベルアップしていく“Care”」と「新しい挑戦をして治していく“Cure”」の両方を行うことが欠かせないとのお話がありました。国立精神・神経医療研究センターはこれまでも多くの治療法の治験を行ってきた実績があり、今もさまざまな治験を実施しています。
小牧先生からは、治療法開発は医師だけではなく、製薬企業や国の機関、誰よりも患者と家族が協力していくことが大切で、「製薬企業や研究者を勇気づけるために、患者と家族からビデオメッセージや手紙で声を伝えよう」と呼びかけられました。
ひとりで抱え込まず、遺伝カウンセリングで相談を
竹下絵里先生と杉本夏立先生による講義「筋ジストロフィーと遺伝」では、遺伝に関する言葉について丁寧な説明がありました。
「遺伝」と「遺伝性疾患」は同じではありません。遺伝は特徴などが親から子どもへ伝わっていく現象、遺伝性疾患は染色体や遺伝子の変化によって起こる病気で、親由来の場合と突然変異の場合があります。そのほか染色体、DNA、遺伝子、遺伝子変異や遺伝形式の種類などについても解説されました。
「遺伝カウンセリング」に関しては、代表的な4種類の例を使い、相談内容の確認や家系図を作るなど、相談者が最善の選択ができるよう支援されることが具体的に示されました。
将来発症するかどうかを調べる「発症前診断」については、優性遺伝疾患の血縁者の場合のみ、判断能力のある成人が自発的に希望していることなどが要件となっています。国立精神・神経医療研究センター病院では、発症前診断の際には4回以上の遺伝カウンセリングに加え、神経内科、精神科の診察を行うなど慎重を期して対応しています。
「遺伝は難しい、話しづらい」と感じる患者と家族に向け、杉本先生は「ひとりや家族だけで抱え込まず、遺伝カウンセリングで一緒に考えましょう」と話されていました。
遺伝性疾患は多くの人が発症しうる、すべての人にとっての問題
青木吉嗣先生の講義「最新の治療」では、細胞と核、その中にあるDNA・RNAの説明から始まりました。
先生は遺伝性疾患について「人間の一生の間に、約60%の人が何かしらの遺伝性疾患を発症するとされています。遺伝性疾患はすべての人にとっての問題なのです」と話されました。
遺伝性疾患の治療に取り組む先生は、最近の研究事例として福山型先天性筋ジストロフィー、縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーの治療法研究の紹介に続き、先生が研究されているデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬NS-065/NCNP-01について解説されました。
この治療薬はモルフォリノ化合物で合成されたアンチセンス核酸と呼ばれる核酸医薬品です。DNAやRNAに似せて作ったモルフォリノ化合物は、人体にとって異物を取り除こうとする「免疫応答」が少なく、安全に使えることがわかりました。昨年度までに対象となる患者10名による早期探索的臨床試験(第1相)を行い、ジストロフィンタンパク質の発現を確認したとのことです。
この薬は日本国内での治療薬開発を促進するための「先駆け審査指定制度」を受け、日本発のデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として期待されています。
筋強直性ジストロフィーには、日ごろの積み重ねが欠かせない
「筋強直性ジストロフィーについて」の講義では、大矢寧先生から患者と家族に向けて、多くの注意点が挙げられました。
先生がもっとも強調されていたのは「誤嚥なくとも窒息しうる」という点です。
筋強直性ジストロフィーは、噛み切る力、飲み込み、痰を出す咳の勢いが低下していきます。そのため、誤嚥をしなくても窒息する場合があり、実際に50歳代の患者がミートボールで窒息した例が示されました。「せっかちに食べると人生もセッカチになる。食べ物の丸呑み・詰め込み、噛みきれないものを避け、口に入れる前に食べ物を小さくして、水分をとりながら食べましょう」。
また、歯並びが悪いと丸呑みで窒息する、口の中の衛生状態が悪いと誤嚥で肺炎が起きやすい、歯磨きが不十分だと40歳~50歳代で歯が抜けたり欠けたりすることがあるとのことで、日常の歯科受診が欠かせません。
呼吸が悪化することから「猫背にならないように。猫背では深呼吸ができない。少なくともわたしにはできない」。日ごろから姿勢に気をつける必要があります。先生からは、実際に横隔膜の筋力低下と腹部の肥満があって、背が丸く硬くなったため、臥位になれず座位のままで眠る患者の写真が示されました。
病気のためインスリンが効きにくく糖尿病になることがあり「ささいな積み重ねで悪化しうる」と大矢先生。飲酒を控え、脂っぽい食事を避けるなど、日ごろの食生活の見直しが必要です。
最後に、大矢先生からは3つの点が示されました。
「できることは続ける」。先生は、なるべく安静にせず身体を動かすことを勧めています。寝てばかりいると無気肺*になるリスクがあるそうです。
「できないことは、ほかの方法を考える」。装具や道具、介助などを利用する方法があるとのことです。
「終日働く筋は、疲労しないように休ませる」。たとえば呼吸筋など常に働いている筋が疲労しないよう、睡眠時に口鼻マスクでの人工呼吸などを検討できるとのことです。
大矢先生は「筋強直性ジストロフィーの症状の程度と進行は個人によって異なります。ほかの問題の合併に注意し、なるべく悪化を避けましょう」と話されていました。
*無気肺:肺の空気が減ってしぼんだ状態
ストレッチのやり方にはコツがある
鈴木一平先生と清水功一郎先生による「はじめよう!リハビリストレッチ」は、実際のデモを見ながら効果的なストレッチを学べる講座でした。
効率よく身体を使うこと、身体を温めたりマッサージをしたりした後で行うこと、「気持ちがいい」くらいの強さで行うことが大事です。
また、効果の確認をすることも大切です。身体がより動くようになったことなど、家族や友人が気付いて一言かけることで、ストレッチを継続していくモチベーションがアップするとのことです。
会場ではDM-family会員同士の交流も
休憩中には、DM-familyの会員同士の交流もありました。会員同士とはいえ、初めて会う人も多く、市民公開講座は学びだけでなく交流の機会ともなりました。