宮崎市民公開講座レポート:生活の質は病気を理解している人の方が高い

2016年6月11日(土)、市民公開講座「知っておきたい筋強直性ジストロフィー@宮崎」が一般社団法人日本筋ジストロフィー協会 九州ブロック宮崎大会の第一部として開催されました。同協会九州地方本部長の白木洋さんによると「会員は自分の病型だけでなく、ほかの筋ジストロフィーについても知るべき」とのことで、多くの他病型の患者が熱心に筋強直性ジストロフィーについて学ぶ姿が印象的でした。

最大の課題は「受診率の低さ」

 「筋強直性ジストロフィーってどんな病気?」では、国立病院機構 刀根山病院の松村剛先生から病気についての説明がありました。他の病型と違い、多くの内臓疾患が起きることが説明されましたが、松村先生は「最大の課題は、患者さんの受診率の低さ」と指摘され、できる検査や治療を受け、合併症に対する早期対応をすることが重要と話をされました。

中枢神経障害には家族の声かけが欠かせない

 国立病院機構 南九州病院の園田至人先生からは、筋強直性ジストロフィーの特徴である「筋肉以外の症状について」の説明がありました。呼吸障害、心障害、眼症状、代謝障害、消化管障害、中枢神経障害など多くの合併症についてポイントを押さえた説明で、なかでも中枢神経障害については「家族の声かけで意欲を上げることが大事」とのことでした。

歯周病対策で誤嚥性肺炎を予防

 福岡大学病院の梅本丈二先生からは「筋強直性ジストロフィーとお口の健康管理について」多くの画像を使った、わかりやすい説明がありました。

 患者は筋力が低下するため、自分ではきちんと歯磨きをしているつもりでも、きちんと汚れが取れていないことが画像で示されました。

写真左は患者の歯磨き後、右は歯科衛生士によるブラッシング後

かかりつけ歯科を持ち、歯科衛生士による機械などを使った専門的な口腔清掃を定期的に行うべきとのことです。

 専門的な口腔ケアは誤嚥性肺炎を予防するだけでなく、喉の汚れを低下させることにもつながります。こうしたケアを行っていないと肺炎になる率が3倍高くなるため、患者の療養には非常に重要な点です。

 歯周病とインスリン抵抗性*には強い関係性があることが最近の研究でわかってきています。筋強直性ジストロフィーの患者の7割にインスリン抵抗性があり、インスリン抵抗性があると歯周病にかかりやすくなるため、梅本先生は専門的なケアを続けるよう強く勧めていました。

*膵臓から分泌するインスリンが、筋肉や脂肪細胞などで正常に働かなくなる状態

正しい飲み込みのために、食事の工夫と舌のリハビリ

 国立病院機構 宮崎東病院の外山英先生による「飲み込みで気をつけること」の講義では、筋強直性ジストロフィーにおける飲み込みに関する問題点が指摘されました。

 例えば「筋力低下、歯のかみ合わせが悪くなることで十分に噛まないで飲み込み、窒息する」「口に大きな食べ物を詰め込む」「誤嚥してもむせない」などのリスクがあります。

 こうしたリスクに対応するため、食事で気をつける点のほか、スポンジブラシによる舌や口唇のリハビリを行って飲み込みの改善に取り組んでいることが紹介されました。スポンジブラシのリハビリは実際の患者さんの様子がビデオで示されました。

病気の否認・行動の回避・自責は生活の質を低下させる

 大分大学大学院 藤野陽生先生からは「生活をより充実したものにするために」という講義で、QoL(Quality of Life:生活の質)を向上するために患者にできることが示されました。

 QoLは、単に「病気があるから」低下するわけではありません。痛みや疲労感があるから、意欲や外出に影響し、社会的な交流が減ってしまう結果になります。

 QoLは病気に対するとらえ方や対処法によって変わるもので、「病気についての見通しが正確で、より病気について理解している人」の方がQoLは高く、「否認・行動の回避・自責」といった対処方法はQoLの低下につながります。

 知識を持ち、疲労感や痛みがあるから行動しないという悪循環を断ち切ることが必要で、こうしたことは気分が落ち込んでいる状態では意外と見落としてしまう点です。

 世界的にも患者のQoLを上げる研究が進んでおり、病気における生活への影響をどうコントロールするか、身近な人とともに考えられるようにすることが大事です。

先天性・小児発症の子どもには適切なリハビリと学習環境を

 国立精神・神経医療研究センター病院の小牧宏文先生からは「筋強直性ジストロフィー小児期のケアと筋ジストロフィーの治療研究の現状」について講義がありました。

 筋強直性ジストロフィーには成人型のほかに先天型・小児型があります。先天型と小児型いずれにも当てはまる症状として、発達が遅く筋力が弱い点などが挙げられます。脳機能の特徴としては「おしゃべり」な点で、ADHDや恐怖症を合併することがあるとのことです。リハビリや適切な学習環境などが欠かせません。

 小牧先生はデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬の治験にも携わっておられます。治験に対応する施設が少なく、患者が遠方から参加せざるを得ない状況を改善するために、先生は「筋ジストロフィー臨床試験ネットワーク」を立ち上げ、日本各地での研究・治験の実現を目指しています。

国際標準の患者登録で、治療薬を目指そう

 国立精神・神経医療研究センターの木村円先生から「患者登録は明日への架け橋」というお話しがありました。木村先生は神経・筋疾患患者登録「Remudy」を運営されています。

 患者登録とは、治療薬承認に欠かせない治験の実施をするために、日本の患者に関する信頼性の高い臨床情報・遺伝情報を登録することです。

 現在、日本で何人の筋強直性ジストロフィー患者がいるのか、わかっていません。

 そのため治験の実施には「日本にどのくらい患者がいて、どんなことで困っているのか、薬で何が良くなるのか、患者が治験に参加してくれるのか」を明らかにすることが重要です。さらに患者数が少ない病気なので、国際的に協力していくことも大事な点です。

 木村先生からは最後に、海外で患者団体、研究者、企業、規制当局が協力して治療法開発を推進しているという事例*が紹介されました。

 患者と家族も治療法開発に協力できる時代が来ています。

(なお、木村先生から講義中にDM-familyのご紹介もいただきました。温かいご声援に感謝申し上げます。)

*Stakeholder cooperation to overcome challenges in orphan medicine development: the example of Duchenne muscular dystrophy The Lancet Neurology. Volume 15, Issue 8, July 2016, Pages 882-890
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1474442216300357