世界中の筋強直性ジストロフィー専門家が一堂に: IDMC-14開催

IDMC-14

オランダの古都ナイメーヘンで開催

2024年4月9日~13日、国際筋強直性ジストロフィー会議「IDMC-14」がオランダのナイメーヘンにてラドバウド大学とマーストリヒト大学病院によって開催されました。
前回2022年のIDMC-13は日本で行いましたが、コロナ禍のため、厳しい入国制限がありました。それから2年、対面に制限がなくなり、多くの参加者が久しぶりに話し合える会となりました。

患者のQoL、リハビリテーション、女性患者にまで拡大されたプログラム

オランダは1990年代に筋強直性ジストロフィーの遺伝子を突き止めた研究グループのひとつがありました。ラドバウド大学はOPTIMISTIC(認知行動療法と軽いエクササイズによって患者の生活の質(QoL)を高める研究)の大規模臨床試験を行った実績があり、その結果に基づき筋強直性ジストロフィーの治療薬開発に向けたプロジェクト「ReCognitION」を展開しています。その歴史があるオランダのIDMC-14では患者のQoLやリハビリテーション、女性患者についてなど、より患者に身近なセッションが設けられました。

DM-familyも協力した研究が、ポスター展示

Dr. Matsumura

A multicenter retrospective study of the impact of coronavirus disease 2019 on patients with myotonic dystrophy(筋強直性ジストロフィー患者に、2019年時点で新型コロナウイルス感染症がもたらした影響に関する多施設共同研究)
国立病院機構大阪刀根山医療センター 松村剛先生

Dr. Takada and Ms. Goto

Psychosocial support program for patients with myotonic dystrophy type 1 and their caregivers: a caregiver-focused study(筋強直性ジストロフィー1型患者と介護者のための心理・社会的支援プログラム:介護者に着目した検討)
国立病院機構青森病院 後藤桃子先生と高田博仁先生を会場で記念撮影

セッション3「臨床症状とQoL」大阪大学大学院 高橋先生が座長に

大阪大学大学院 高橋正紀先生が座長を務めたセッション3「Clinical Manifestation and Quality of Life(臨床症状と生活の質)」では、患者の生活にどのくらいの費用がかかるのか、患者登録のデータに基づいた寿命、女性患者の婦人科系の病気などについて発表がありました。

MDHI(The myotonic dystrophy health index:筋強直性ジストロフィーの健康指標)については、213人での報告があり、患者の病気の負担や変化を評価するために有効であることが示されました。

Prof. Takahashi

セッション3「Clinical Manifestation and Quality of Life」で座長を務める、
大阪大学大学院 高橋正紀先生

先天型筋強直性ジストロフィーのセッションも

セッション8では「子どもと筋強直性ジストロフィー(Children with DM)」、続いてセッション9では再度、「Clinical Manifestation and Quality of Life(臨床症状と生活の質)」が行われました。小児の患者に見られる認知機能障害が成人になっても残っており、社会認知能力が低いことが明確になったという報告がありました。小児の患者の治療が待望されます。

Dr. Shichiji

Complications in patients with congenital myotonic dystrophy: data from a nationwide myotonic dystrophy registry(先天型筋強直性ジストロフィー患者の合併症:日本の筋強直性ジストロフィー患者登録のデータから)
東京女子医科大学 七字美延先生、研究のポスターを説明

医師たちが治験の報告を行う

筋強直性ジストロフィーの治療薬治験は世界各国で行われており、今回はセッション5「臨床試験と試験デザイン(Clinical Trials and Trial Design)」で実際に治験を担う医師から発表がありました。

アビディティ・バイオサイエンスは米国バージニア・コモンウェルス大学から、AMOファーマはカナダのオタワ大学から、ダイン・セラピューティクスはラドバウド大学から、治験デザイン(どんな方法で治験を行うか)と結果が示されました。

また、ローマ・トルヴェルガタ大学からメトフォルミン、日本からは山口大学大学院 中森雅之先生が治験を行ったエリスロマイシンについて、医師主導治験の報告がありました。メトフォルミンはコロナ禍中で治験をしたものの、146人中完遂したのは92人とのこと。治験の厳しさを実感させられます。

エリスロマイシンの第2相治験結果では、重大な有害事象がなく良好な安全性と忍容性があり、スプライシング異常の改善があったこと、加えて次の治験第3相が必要と発表されました。

注意:メトフォルミン、エリスロマイシンは筋強直性ジストロフィーの治療薬として未承認です。治験以外での服用はしないでください。

Prof. Nakamori

Erythromycin for myotonic dystrophy type 1: a multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled, phase 2 trial
(エリスロマイシンによる筋強直性ジストロフィー治療:多施設共同無作為化プラセボ対象二重盲検比較試験)
山口大学大学院 中森雅之先生

Dr. Yamanaka and Dr. Nemoto

山口大学大学院の山中菜々美先生と根本壌先生も参加

治療には研究が大事!ロチェスター大学の濱嵜さくら先生がポスター大賞を受賞

筋強直性ジストロフィーの発症メカニズム(Pathogenic Mechanisms)では、大阪大学大学院 福本蒼乃先生が、優秀なポスターが選ばれる「Flash Posters」のステージに立ち、研究の説明をしました。福本先生は患者の肝臓について研究しています。

Dr. Fukumoto and Prof. Takahashi

Comprehensive transcriptome analysis of the liver from patients with myotonic dystrophy type 1
(筋強直性ジストロフィー1型患者の肝臓における包括的トランスクリプトーム解析)
大阪大学大学院 福本蒼乃先生と高橋正紀先生

Dr. Fukumoto

Flash Posterで発表する福本先生

そして、IDMC-14でポスター大賞に選ばれたのは、ロチェスター大学の濱嵜さくら先生。ご両親とも日本人ですが、ロチェスター大学で研究をしており、24歳という若さで大賞を勝ち取りました。
濱嵜先生は「日本人の患者さんに興味があるので、(DM-familyと)つながりたい」と話しており、今後の交流を大事にしていこうと思います。

Exacerbation of DM1 myopathy in mice by forced aberrant splicing of the skeletal muscle voltage-gated calcium channel
(骨格筋電位依存性カルシウムチャネルの強制スプライシング異常による筋強直性ジストロフィー1型ミオトニアの増悪)
ロチェスター大学 濱嵜さくら先生と記念撮影

イギリスも力を入れている患者登録。日本も負けられない!

Dr. Helen Walker

The UK Myotonic Dystrophy Patient Registry - Empowering Clinical Research and Patient Voice with an Effective Translational Research Tool
(英国筋強直性ジストロフィー患者登録-効果的なトランスレーショナルリサーチツールで臨床研究と患者の声を高める)
ヘレン・ウオーカー先生

つながりを大事に、そして研究の輪を広げるために

国際会議は、同じ国の人たちで集まりがちで、なかなか見知らぬ人との接点がありません。そこでIDMC-14では、「Speed Dating」という時間が設けられました。

前列に座った人が後列の人と向き合い、5分ほど自己紹介や専門分野などをお互いに話します。5分すると列に並んだ3人横まで動いて、自己紹介。もちろん、「3人」はCTGリピートにちなんでいます。会場は見知らぬ人同士が話し合う熱気に包まれ、あちこちで笑い合い、その後のつながりが生まれました。

Peter-Bram ’t Hoen, PhD, Radboudumc

Speed Datingでタイムキーパーを務めた、ラドバウド大学 ピーター=ブラム・ト・ホーエン先生。
フレンドリーな先生に、DM-familyもすっかりお世話になりました。
ピーター先生、ありがとうございます!

木曜日には古都ナイメーヘンの見どころを巡る散策の時間があり、ナイメーヘンの歴史や建物、大きな橋に由来した話を聞きながら、さまざまな人々との交流がありました。

Walking tour
Working tour

2年に1度、筋強直性ジストロフィーの治療を目指して集まる専門家たち

IDMCでは誰もが、筋強直性ジストロフィーという病気の過酷さを知っています。専門家たちは日常に戻れば、患者たちが待ち、あるいは困難な研究に向き合っています。誰もがこの病気を治したいと努力を重ね、2年に1度の機会に研究成果を分かち合う会が、27年にもわたって継続されています。

IDMCでは、わたしたち患者と家族が協力することで成果報告できる研究が増えてきました。専門家には患者の協力が必要です。患者であっても、できることから始めていけば、世界中の同じ病気の患者に役立つ日がきっと来ます。

(続き)ドラッグ・ロスは、今ここにある現実:筋強直性ジストロフィー患者会、IDMC-14に参加→