仙台市民公開講座レポート(1):症状に対応する方法を明らかにする、患者登録

2016年7月17日(日)、市民公開講座「知っておきたい筋強直性ジストロフィー@仙台」が国立病院機構 仙台西多賀病院にて開催されました。当日はこの病気への知識を求める患者と家族、125名もの方が参加しました。

前半の「病気についてよく知ろう~今できることをしっかりと」は7人の先生からの講座で、症状に対応するための研究が進んでいることや、研究に患者自身の協力が欠かせないことがわかりました。

健康は正しい知識から

 同志社大学 石浦章一先生から「筋強直性ジストロフィー 分かりやすい病気のメカニズム」というお話しがありました。冒頭、石浦先生は「なぜ体に良くないものが売れるのか」という例を挙げ、さまざまな言動に迷わされないためには正しい科学知識を持つことが大切と説かれました。

 筋強直性ジストロフィーとはDMPKという遺伝子内で、DNAの塩基「C」、「T」、「G」の繰り返しが伸びてしまう病気です。繰り返しが伸びるとDNAをコピーするためのmRNAも一緒に伸び、そこにMBNL1(muscleblind-like protein 1)というタンパク質が付くことでDNAからタンパク質を作る「スプライシング」に異常が起き、全身症状になることがわかっています。

 人間の体は約60兆個の細胞でできており、どの細胞にもDNAがあります。「筋肉だけの治療ではない」。この病気の正しい知識を持つための基礎となる言葉でした。

「苦しさの自覚が低下する」だからこその定期受診

 国立病院機構 仙台西多賀病院の高橋俊明先生は「呼吸の問題」として、気をつけるべきポイントを挙げられました。中でも、大事なことは「苦しさの自覚が低下する」点です。

 呼吸が十分でなく、体内の酸素が減れば苦しくなるはずです。この病気の問題は、患者自身が「苦しい」と感じなくなること。そのため、患者自身は平気なつもりでも、実は体内の酸素が不足し、二酸化炭素が増え、体に悪影響が出ます。

 こうした状態は、比較的早期の患者でも見られるため、定期的な受診で呼吸に関するチェックを行い、早めに手を打つことが大事です。

 呼吸機能障害は、筋強直性ジストロフィー患者の死因として最も多いと言われており、多くの患者にとって切実な問題です。呼吸機能の対応策についての研究を加速するためには、患者が患者登録をして協力することが欠かせません。

突然死を防ぐためには、心臓のチェックが欠かせない

 弘前大学大学院の佐々木真吾先生からの「心臓の問題」では、「筋強直性ジストロフィー患者の死因の3割が突然死であり、不整脈の関与が推測されている」との話がありました。

 不整脈とは、脈が異常に速くなる(頻脈)あるいは遅くなる(徐脈)、不規則になるなどの状態を指します。悪性になるとICD(埋込型除細動器)や着用型自動除細動器などで対応する方法がありますが、患者にとって何が最善かを研究するためには、さらなる大多数での研究が必要とのことです。

76パーセントの患者に高インスリン血症。間食を控えよう

 国立病院機構 青森病院の高田博仁先生は「代謝の問題」として、筋強直性ジストロフィーの患者のうち、76パーセントに高インスリン血症があり、糖代謝異常があることを指摘されました。

 この病気では糖代謝異常と脂質代謝異常、肝機能障害が関連しており、血中の中性脂肪が高い患者は67パーセントにもなります。いわゆる「メタボリックシンドローム」の患者は41パーセントで、動脈硬化が起きやすく、さまざまな病気を併発するリスクがあります。

 糖代謝異常については、昼から夜にかけて血糖が高くなる傾向がある、血糖コントロールが良くない患者には間食が多いなどの特徴がわかっていますが、さらに研究を進めるには患者の経過データ(自然歴)などが必要とのこと。患者の協力が求められています。

 代謝障害は多くの患者が該当します。「定期的な受診を行い、包括的にフォローアップをしていきましょう」と高田先生。とりわけ糖尿病の場合は、筋強直性ジストロフィーと糖尿病の専門医同士の連携が欠かせません。

日常の食べ方や記録で誤嚥や便秘を防ぐ

 国立病院機構 旭川医療センター 油川陽子先生は「嚥下・消化管の問題 」で、多くの対応策を示されました。

 筋強直性ジストロフィーの患者では多くの方が嚥下障害と便秘の問題を持ちます。とくに「下痢と便秘を繰り返す」ことはありがちです。

嚥下障害には下記のような対応があります。

 ・口腔ケア(次項「おくちの問題」を参照)

 ・食形態の工夫(ムースやペースト状の料理にするなど)

 ・食前に、口のアイスマッサージ(これから食べ物が入る、という準備)や顎のホットパックをする

 ・一口の量を減らす

 ・「飲む」と「食べる」を交互にする

 ・食事の直後、すぐに横にならない

消化管の問題としては、次のような対応があります。

 ・便秘には下剤を使う

 ・繊維の多い食べ物をとる

 ・体を温める

 ・記録(日記)を付ける

 「患者と家族が症状に合わせて日常生活で対策を取ることは非常に重要です」と油川先生は話しています。

筋強直性ジストロフィー患者に合った歯科受診を

 国立病院機構 あきた病院の鈴木史人先生は「おくちの問題」で、筋強直性ジストロフィー患者の問題として、口腔清掃状態が悪いこと、不正咬合や舌萎縮で食事が噛みにくくなることなどが指摘されました。

 口腔清掃状態を改善するためには、ブラッシングのための補助器具を使ったり、歯科受診をしたりします。補助器具として、発泡スチロールのブロックを肘の下にあててブラッシングする患者の写真が示されました。

 また、歯科医にかかる際はこの病気に対する理解ある歯科医を探すことが大事です。

 日本障害者歯科学会ホームページの「認定医のいる施設」や、日本有病者歯科医療学会ホームページの「認定医をさがす」で専門医や認定医を探すのがおすすめとのことです。

日本障害者歯科学会

http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh-hp/html/

日本有病者歯科医療学会

http://jjmcp.jp/

先天性筋強直性ジストロフィーは、新生児期を乗り切れば見通しは悪くない

 東京女子医科大学 石垣景子先生は「妊娠・出産に関わる問題」として、主に先天性筋強直性ジストロフィーについての説明をされました。

 先天性筋強直性ジストロフィーは、成人とはまったく異なる症状です。新生児期を乗り切れば見通しは悪くなく、ほとんどの例が独歩(自分で歩けるようになる)を獲得できます。このカギとなるのは、「出生時にいかに後遺症を残さないようにするか」です。

 後遺症を残さないようにするためには、母親の診断が欠かせません。先天性筋強直性ジストロフィーのほとんどが、母親由来とされています。そのため、母親が事前に筋強直性ジストロフィーと診断されており、出生前診断を行い、この病気の子どもを授かっていると知って準備と対応をしていれば、出生児の仮死が軽度ですむ例が多いことがわかっています。

 石垣先生は「出生前診断の知識をきちんと得て、産婦人科と神経内科、新生児科の連携が取れる医療機関での出産を計画しましょう」と呼びかけています。

 なお、先天性筋強直性ジストロフィーは見通しが悪くなくても不整脈が起きるリスクなどがあるため、新生児期・小児期を通じて定期的な受診が絶対必要です。

仙台市民公開講座レポート(2)につづく