【提言】患者の力で、ドラッグ・ロスを変えていこう:国際筋強直性ジストロフィー啓発の日2023を終えて
「ドラッグ・ロス」は、日本で海外の治療薬の治験が行われないこと
2023年9月10日、東京・大阪で同時開催した「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」において、合計80名の患者と家族が「治療薬はどうなる?ドラッグ・ロスとは何か」を聴講し、現下の課題を学びました。
製薬企業は希少疾患向けの治療薬をたくさん開発しており、大きな売り上げとなっていること、そして大企業だけでなく、少数精鋭のベンチャー企業が、希少疾患に向けた新しい薬を開発するために切磋琢磨していることが紹介されました。
喜ばしい時代が到来している中で、わたしたち日本の患者と家族は「海外製薬企業が日本で治験をしない」ことによる「ドラッグ・ロス」に直面しています。
ドラッグ・ロスが起きるのは、次のような理由が考えられます。
- 医薬品製造販売は許可が必要なため、海外製薬企業には日本法人が必要
- 薬価は行政が決定するため、企業は価格を決められない
- 海外製薬企業から、治験に必要な患者にアクセスしづらい
- 海外製薬企業は、日本に投資しても割に合わないと考えがち
これまでの薬とまったく違う「遺伝子を治療する」ための新しい技術開発と、人材不足、巨額の投資に加えて、日本独自の薬事制度や試験環境など、海外製薬企業にとっては課題が山積しています。
患者が何もしないままでは、治療薬は来ない
このような状況を、誰かのせいにする前に、わたしたち患者と家族にも、できることをするべき時が来ています。
病気に苦しみ悩むのは、どの国の患者と家族も同じです。
海外の患者団体は病気に向き合い、治療を望む患者と家族が集い、活発な活動をしています。
日本の患者・家族だけが「病気だから、障害があるから」と隠れていては、海外製薬企業から日本人患者の価値が見えなくなるのではないでしょうか。
また、海外製薬企業が治験に必要な患者にアクセスしづらいことも、患者と家族の努力が解決のカギになるかもしれません。
治療薬開発は、難しい病気を安全に治すための科学です。多くの人が膨大な時間と労力をかけています。その過程に、莫大な投資をかけて行う「治験」があります。
治験参加が決まった患者が、決められた日に参加を続け、さまざまな検査を受けることから、開発中の薬が安全で・効果があると証明することができます。
治験に必要な患者を集めたいのは、どの製薬企業でも強く望むことです。
治験は、同じような症状の患者を集めることが前提となりますが、さらに自分の病気をよく知っていて、治療薬がどのようにできるのか、治験とは何かを知っている方が、製薬企業にとって望ましい「必要な患者」ではないでしょうか。
よく知り・学んでいる、良き患者になりませんか
「そんなこと、できない」でしょうか?
海外で治験を受けている人たちは、できているのに?
まずは自分の病気と、治療薬開発はどんなことかを学んでみることから始めませんか。
そして患者として顔を上げ、話し、質問し、少しずつでも知っていく。その様子を発信していけば、投資家も、製薬企業や研究者も日本に対する考えが変わるかもしれない。
お互いに笑顔になる会に出るもよし、良い講演を聞くもよし、もちろん定期検診もする。
患者登録も、治療薬開発にかかわる人たちを振り向かせる大きな効果があります。
病気があっても、少しずつ、できることから参加してみる。
わたしたち患者と家族が、このドラッグ・ロスを変えていくために、筋強直性ジストロフィー患者会は今後も活動を続けてまいります。
2023年11月27日
特定非営利活動法人筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)
事務局長 妹尾みどり