患者にできることは、笑顔で「ありがとう」:第9回筋ジストロフィー医療研究会レポート

2022年10月21日・21日、北海道旭川市「大雪クリスタルホール」にて、第9回筋ジストロフィー医療研究会が開催されました。

「ポストコロナ 共につくる筋ジストロフィー医療」をテーマに、国立病院機構旭川医療センター 木村 隆先生が大会長を務め、専門医や看護師・療法士、支援者、患者と家族ら約170名が集い、日ごろの研究成果を分かち合いました。

筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)からは、妹尾みどり事務局長がシンポジウムで講演を行いました。

本会主催の国立病院機構旭川医療センターのみなさま
中央左手は大会長の木村 隆先生

妹尾みどり事務局長、シンポジウムで籏野あかね理事長について講演

筋強直性ジストロフィー患者は、コロナ禍の中で、それぞれの症状に合わせて生活しています。症状や生活は一様ではなく、妹尾みどり事務局長は実の妹で、現在は国立病院機構 下志津病院で生活している籏野あかね理事長について講演を行い、籏野のビデオメッセージを流しました。

筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)妹尾みどり事務局長
・「筋ジス病棟で暮らしたい」籏野あかねの決意

籏野はコロナ禍の直前に、膝崩れで両膝を骨折、国立精神・神経医療研究センター病院に入院しました。コロナ禍が起きている中、入院で感染の不安は少ないものの、2か月の安静で両足の筋肉が減り、立てても歩けない状態になりました。お手洗いに一人しか入れない狭い自宅で介助を望むのは無理がある。何より、80歳に近い母親に自分の介助をさせたくない。コロナ禍であっても安心して入院生活を送っていた籏野は、自ら「筋ジス病棟で暮らしたい」と望みました。

・患者の生きがいを奪ってはならない

妹尾は、姉として籏野の病棟生活を考えました。コロナ禍で身動き取れない妹に、必要な物を何もかも買い与えることは簡単です。しかし、それが本当に妹のためになるだろうか。そのとき、ある弁護士から「本人(患者)の生きがいを奪ってはならない」という言葉を聞きました。

生きがい。自分の意思で自分のことを決め、生活を楽しめるようになれば・・・。

「そうだ、自分が欲しいものは全部自分で選んで買ってもらおう」と決めた妹尾は、籏野の持つスマートフォンとタブレットにネットショッピングのアカウントを設定し、共有メールで操作ミスがないかどうかを確認できるようにしました。さらに家計簿アプリを入れ、銀行口座の残高と買い物の履歴を追えるようにしました。
下志津病院のネット環境は素晴らしく、患者は日中いつでも使うことができます。

ネットで飲み物や手芸の材料など自分の好きなものを買い、患者会活動をし、家族や友人とも話し・・・籏野には安心できる医療とプロのケア、リハビリ、そして自分が好きなことをできる環境があります。その生活は、忙しい中で買い物を黙って運んでくれたり、リハビリやレクなどを行ってくれたりする職員のみなさんの多大な努力に支えられています。

下志津病院には特別食の日があり、コロナ禍で外出できない患者のためにレストランのような食事が供されます。籏野は写真を撮影し、患者会の非公開サイトで報告。嚥下の力が弱ってきており、看護師が消毒したハサミで食べやすいサイズに切った様子も患者会サイトにアップしました。
こうした食事の内容やカットの方法は、会員の参考となっています。

・患者にできることは、笑顔で「ありがとう」

籏野は今、「患者にできることがないだろうか」と考えています。

籏野はビデオメッセージで、次のように語っています。

「コロナ禍で色々、制限がある中でも、筋ジス病棟では快適な生活が送れています。それも病棟の主治医の先生方、人が足りなく猛烈に忙しい中ケアをしてくださる看護師、介護士の皆様、患者の生活全般と、レクリエーションなどを考えてくださる、指導室の皆様、PT、OT、STなどのリハビリ科の先生方、厨房スタッフの方々、他にもさまざまな方の働きにより、私はこの生活ができています。心から感謝しています。」

「現在、この状況下、医療現場は逼迫し、どこの病院でも人不足が深刻と聞きます。そんな中、病棟で暮らす患者が、看護師さん達に甘えて良いものでしょうか?何かできることがあるのではないでしょうか?何もできなかったとしても、せめて『ありがとう』を言う事くらいはできるはずです。
具合が悪かったら難しいですが、そんな状態でも安心なのは、病院だからです。」

「置かれている状況に、感謝をすべき事は多々あります。快適さひとつひとつを数えたら小さな幸せがいくつある事でしょうか。
病気なんだから、不幸なんだから、とそっちばかり見たら、確かにそうだけど、だから何?そんな事ずっと考えても、病むだけです。それより笑顔で、ありがとうと言うだけで幸せがひとつ増えると思います。ひとつじゃなくても、0.5でもいいから。
そうして少しずつでも患者が相手の気持ちを考える事が出来たらと思います。」

そして、筋強直性ジストロフィー患者会の理事長として次のように語りました。

「この身体で暮らしていけるだけでも幸運です。だから、このままじっとしてる気にはなれないので、何かできる事はないだろうかと常に考えています。」

籏野 あかね理事長

妹尾は、患者会事務局長として、患者の家族として、患者と職員がともに心豊かな生活を送るにはどうしたらいいか、患者会ができることはないか、コロナ禍を契機に考え始めました。

北海道の会員が応援

事務局長が東京から旭川に行くことになり、北海道在住の会員が応援に駆けつけました。

先天性筋強直性・小児期発症筋強直性ジストロフィーのの子どもたちも参加し、かわいい応援は会場の注目を集めました。

6歳になる先天性筋強直性ジストロフィーの子を見て「すごいね、歩けるんだ」という医師もおり、日ごろのリハビリの成果を実際に見ていただく機会となりました。

「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」のバナーを前に、記念撮影!

国立病院機構 旭川医療センター 吉田 亘佑先生(2列目中央)を囲んで

特別講演をはじめ、多くの筋強直性ジストロフィーに関する研究が発表

本会では、60余りある全講演のうち、タイトルに「筋強直性ジストロフィー」とつく演題が10以上あり、医療の現場でこの病気に関する多くの課題と、解決に向けた動きを聴くことができました。

なかでも、大阪大学大学院 医学系研究科の高橋正紀先生から「筋強直性ジストロフィーの疾患修飾薬の時代に向けて」という特別講演がありました。筋強直性ジストロフィーはRNAが病態であること、RNAを標的とした治療薬開発が進んでいることなどが報告されました。

さらに、国立病院機構 鈴鹿病院の久留 聡先生から、現在進行中の「筋強直性ジストロフィーに対する非侵襲性人工呼吸療法の効果に対する多施設共同臨床研究」の中間報告があり、人工呼吸器を装着した患者・しない患者を比べ、人工呼吸器を使う患者の方が疲れやすさや身体のQoL(生活の質)が改善したことが報告されました。

病気を治そうとする医療者と、治りたいと願う患者。患者は医療者に寄りかかるのではなく、お互いにできることをひとつひとつ前進させていきましょう。