効果実感!心を届けるおしゃべりのための「構音障害リハワークショップ」レポート

2022年12月17日(土)、DM-family会員限定Zoom談話室「心を届けるおしゃべりのために:構音障害リハワークショップ」を開催しました。

筋強直性ジストロフィーの典型的な症状として、口周りの筋強直(ミオトニア)があります。

患者が普通に話しているつもりでも、周囲から「今、何と言ったの?」と聞き返されるような発音になってしまい、患者自身も「話出すのが大変・話すのがおっくう」ということもよく起きます。

しかし、「構音障害リハビリテーション」を受けると改善できることもわかっています。今回は国立精神・神経医療研究センター病院の言語聴覚士、織田千尋先生をお招きし、9名の会員がワークショップでその効果を体験しました。

国立精神・神経医療研究センター病院 言語聴覚士 織田千尋先生

まずは課題を読み上げ、録音

佐藤美奈子副理事長が司会を務め、織田先生を紹介した後で各自の自己紹介。そしてひとりひとりが課題として配布されている詩を読み上げ、録音を行いました。

「通じやすい話し方の3要素」をつかむワークショップ

織田先生からの説明と実践を交えたワークショップが始まりました。「通じやすい話し方の3要素」に沿って実際に声を出していきます。

1.声の大きさ、響き

「話すとき、緊張すると体が固まり、もごもごと口の中で話すようになってしまいます。呼吸と一緒に、溶け込ませるように発声すると声が通りやすくなります」。
緊張しないように体を緩めるためには、ゆっくりと体を撫でてリラックスするのが効果的です。

「強いマッサージは、緊張を招いてしまうことがあります」と織田先生。体を温めるように、手で親指から脇、顔に沿ってそっと撫でていきます。

ほかにもいくつかの方法を教えてもらいましたが、とくに強調されていたのは「耳たぶ」を触ることです。たとえば、耳たぶのくぼみをそっとつまんで腕を挙げてみると、より腕が挙がるようになり、体が緩んでいることがわかります。

体を緩めた後、いよいよ声出し。息を吸って低い振動音で声を出してみました。5セット、自分の体が大きな管のようなイメージで声を出していきます。

次は体からボールをポンポンと投げるように声を出す練習。その後、息を吸って「おはよーう」「おめでとーう」など、言葉を載せていく練習をします。

最後に課題文を1行ずつ読む輪読を行いました。この時点で、すでに開始時よりも明るい声が出ていることが実感されました。

2.話す速度

「話す速度を調節しましょう。ゆっくり話すと、相手に通じやすくなります」。

織田先生によると、ペーシングボードやメトロノームを使う方法もありますが、特にメトロノームは普段の会話で使うことは難しいです。

「文節ごと、意味の切れ目で息を吸うようにしましょう」。

練習するときは、指折りや机をたたきながら、自分のリズムで「こ」「ん」「に」「ち」「は」と言ってみるのもいいでしょう。

そして、自分の声をよく聞くことが大事です。

たまには、自分の話している状態を録音して聞いてみるのも効果的です。

自分では抑揚があるつもりで話していても、意外と平板だったり、聞き取れる速度と思っていても、実は自分でも聞き取れない速さだったりと、いろいろな発見があるかもしれません。

3.発音

舌、唇、下顎などをしっかり正しく動かすと、聞き取りやすい発音になります。

舌で歯茎に沿って左右にゆっくり動かす練習や、「レロレロ体操」など、さまざまな方法で実践しました。

舌の先を使った動きの練習として、織田先生の声を聞いてから繰り返すレッスンには参加者全員が集中して取り組みました。

織田先生「かきくけかきくけかきくけこ!」

全員「かきくけかきくけかきくけこ!」

「か行」「ら行」の音は発音しづらいので、こうした練習も大事です。

もう一度、課題文を読み上げて録音。講評は「情景が浮かび、涙が出ました」

ワークショップの最後に、もう一度、参加者ひとりひとりが課題文を読み上げて録音しました。

織田先生からの読み上げについてのアドバイスは
「最初の音にアクセントを置くと、より読みやすく・聞き取りやすくなります」。

アドバイスを心に留めて、録音スタート!

全員の読み上げが終わった瞬間、織田先生から「涙が出ました。みなさん、最初よりも声が前に出ていて、課題の詩の情景が浮かびました」とのコメントがありました。

ビフォア・アフターの聞き比べ。その成果は

次に、参加者全員の「最初の録音(ビフォア)」と「最後の録音(アフター)」を再生し、違いを聞き比べました。

織田先生からは「声からして違う。歯切れがいいし、難しい「か行」の音もしっかり出ている」とお褒めのお言葉。

参加者からは次のような感想がありました。

「ビフォアでは『あにゃた』と聞こえる言葉が、アフターではしっかりと『あなた』になっていて驚いた」

「これをやってみて、初めて自分がどんな声をしているのかわかった。仕事で会話すると『もう一度言ってください』と言われることが多いが、短時間でレッスンするだけでここまで聞きやすくなるなら、続けてみようと思う」

「ビフォアは早口になっていたが、急いでしまうと伝わりにくいことがわかった。落ち着いて言葉を大事にしようと思う」

その後のフリートークでは、織田先生から「言語聴覚士の耳からしても、みなさんの最初の自己紹介と最後の感想ではまったく違う。毎日継続していると違いが出てきて、別人のような声になります」とのお話し。そして、参加者には毎日使えるワークシートのプレゼントがありました。

参加者からは「話し出しにくいときや、舌が固まってしまうときは『えーと』とか『うーんと』と考えるふりをしてから話し出すと話しやすい」などのコメントや「緊張しない方がいいかも」という声もありました。

構音障害リハビリは、短時間でも驚くべき効果があることがわかりました。

しかし何よりも、継続していくことが大切です。

別人のような声になって、話しかけられてもゆっくり応えられるような、魅力的な話し手になってみませんか。

司会を務めた佐藤美奈子副理事長