「暮らしに役立つ筋強直性ジストロフィーとのつきあい方 in神戸」レポート(1):知らない人はまるわかり!知ってる人も再確認!

2017年7月2日(日)、DM-familyは「暮らしに役立つ筋強直性ジストロフィーとのつきあい方 in神戸」を神戸市立兵庫勤労市民センターにて開催しました。

「専門医から伝えたいコツ」と題した勉強会のほか、「患者にも家族にもできるストレッチ体験」、参加者との交流会などを行いました。このレポートは専門医を講師として招いた勉強会と交流会の部分についてお伝え致します。その他の部分については、次回のレポート(2)で掲載しております。併せてお読みください。

筋強直性ジストロフィーとは?改めて1から知ってみよう。

木村卓先生(兵庫医科大学病院)から「専門医から伝えたいコツ(その1)」と題し、本疾患の症状と注意すべき点について総合的な説明がありました。以下にそのポイントを示します。

<頻度>
 約1万人に一人であり、人数に男女差はなく、遺伝する確率は50%

<本疾患の症状>
 本人が実感しやすく、見た目にもわかりやすいものとしては、握った手が開きにくい、力が入りにくい、頭髪が薄くなる、など
ただし、他にも多様な症状があり、全身のいろんなところに症状が出るという特徴があります。本疾患との関連を意識し、医師に確認するようこころがけましょう。

【主な症状・合併症】

 過眠症、白内障、低酸素血症、嚥下障害、不整脈、高コレステロール値
突然死に結びつくものあるため、定期的な検査が必要です。症状はこれらのほかにもたくさんあり、専門医への相談が大切です。

<診断>
 上記症状や親族に同様の症状を示す方がいる、ということにより疑い、遺伝子検査により確定します。遺伝子検査は採血で行うことができ、難しい検査ではないですが、事前の遺伝カウンセリングを受ける必要があります。

<手術時の麻酔>
 全身麻酔に対して注意が必要です。麻酔から目を覚ますときに、うまく呼吸ができないことがあるためです。全身麻酔を伴う手術の前に、遺伝子検査等で本疾患の診断を受けておくほうがよいです。とはいえ基本的に全身麻酔は避けるほうがよいので、局所麻酔や半身麻酔で対応できないか相談をしてください。

全身麻酔が避けられない場合は、ホームページ「専門家が提供する筋強直性ジストロフィーの臨床情報」(http://dmctg.jp)内の「手術・麻酔に関する注意事項」を主治医に提出にしてください。この病気を詳しく知る医療者は多くはありません。この情報を提供することで医師の助けになることはもちろん、患者として自身を守ることにもなります。

<妊娠・出産>
 両親のどちらかが保因者である場合、50%の確率で遺伝します。また、母親が保因者である場合、早産の可能性があり、子供が重症化する場合もあります(先天性児)。よって、神経内科医などの専門医がおられる病院での出産が望まれます。

<疲れやすさ・過眠対策>
 他疾患に用いる薬で対処することもありますが、依存性がある(服用をやめると症状が強くなる等)ため主治医とよく相談してください。

<呼吸障害>
 血液中の酸素濃度が低下することがあります。自覚症状が無い方も多く、特に夜間に低下することも多くあります。慢性的な酸素濃度の低下は、全身に様々な悪影響を与えます。酸素濃度は指にはめる小さな機器(パルスオキシメーター)で測定することが出来、インターネット等で比較的安価に販売されています。測定値として95以下は酸素が足りていないと判断されます。

また、呼吸に関連して、嚥下(飲み込み)の問題により、食べたものが肺に入り、肺炎を起こすことがあります(誤嚥性肺炎といいます)。その場合、発熱や呼吸困難が起こりますので、積極的に酸素濃度を測定してください。主治医が酸素濃度を測定されない場合、「測ってください」とお願いしてもよいです。肺炎は命に関わる場合もあるため、しっかり治さなくてはいけません。

<脳への影響>
 小児期発症の場合、症状は重くなることが多いです(認知機能障害)。成人期発症の場合は記憶力の低下が見られたり、複数のことを同時に行うことが難しくなったりする場合がありますので、カレンダーやメモ、携帯電話のスケジュール管理機能などを用いることが有効です。

<消化器機能>
 便秘、下痢、腹痛がみられますが、薬で治療できることも多いため、主治医と相談してください。

<不整脈対策>
 突然死に強く関連するため、重要な問題です。ペースメーカーを用いることで改善することも多いです。定期的な検査が大変重要です。

<腫瘍>
 悪性腫瘍が多いわけではないですが、良性腫瘍は多い傾向です。

<表情>
 顔面の筋肉が動きにくいため、表情に乏しくなることがあります。また、口の筋肉の周りも動きにくいため、喋り出しにくくなることもあります。本人をはじめ、周りの人の理解も大切です。

<平均寿命>
 一般の方と比べると短め(62歳(2015年調査))ですが、心臓の定期検査により突然死を防いだり、肺炎を早く治療することで予後を良く出来たりするので、まだ寿命を延ばすことは出来ると考えられます。また、健康年齢については、個々の症状に差があることが多く、一概には論じることができない、ということが実際です。

<運動の量・質>
 いわゆる筋トレは逆効果です。ウォーキング等軽い運動が推奨されます。

<食事の注意点>
 誤嚥(食べ物が気管に入る)することがありますが、その誤嚥自体に気づいていない方も多く、肺炎につながることもあります。

具材は小さく切って調理する、一度に多くを口に入れない、液体と固体は別々に食べる、などの工夫が必要です。嚥下検査を受け、食事のアドバイスを受けることが望ましいです。

【重要なポイント】

●風邪をこじらせて肺炎になると大変。早めに医療機関にかかり対策をとること。
●突然死のリスクをさげるため、不整脈等の異常がないか、心臓の検査を定期的に受診

患者が動かないと治療薬は手に入らない

みなさんは筋ジストロフィーについて、認可された治療薬が存在すると思いますか?あるのです、治療薬が。ただし、現在はデュシェンヌ型の筋ジストロフィーについて、限定的に認可されたものが存在するだけです。高橋正紀先生(大阪大学大学院)からは治療薬および臨床研究・治験への協力のお願いがありました。

本疾患について、認可された治療薬は現在のところ存在しませんが、近年、世界中で本疾患に対する治療薬の開発が進んでおり、動物実験レベルでは効果が示された薬も複数種類確認されています。ただし、ここからすぐに治療薬が得られるわけではありません。一般的に概ね3万個の化合物から4つほどが臨床試験に進み、そのうちのひとつが承認されると言われています。

有望であるものがこれまでに見つかっており、その1つにIONIS社(米国)が開発していた物質があります。残念ながら、十分な効果が得られず開発が断念されましたが、今後、新型の化合物で開発が行われることが公表されています。また、AMOファーマ(英国)においては、認知症の薬として開発されているものが、先天性あるいは早期発症の筋強直性ジストロフィー患者に有効だとして臨床試験が始まっています。

では、我々患者は何をしたらよいのか?

ひとつは今出来る医学的な対処をしっかりすること。

 もうひとつは患者登録です。この登録は国立精神・神経医療研究と大阪大学大学院により進められているもので、Remudy(レムディ)といいます。
↓こちらのサイトより、患者登録に必要な書類をダウンロードできます。
http://www.remudy.jp/

 希少疾患の臨床試験を行うには、どのような患者が何処にどれだけいるのか?症状はどう変化しているのか?どう試験計画をたてればよいか?など、困難が沢山あります。これらを解決するために患者登録が始まっています。

登録された患者データは匿名化され、TREAT-NMD(国際登録)に参加している各国の研究者や製薬企業等にも開示され、臨床研究に役立てられます。この登録は患者にとってはもちろん、研究者や製薬企業など、皆に役立つものです。

<患者にとってのメリット>
 最新の医療情報を得られること、世界の登録情報とつながることで地球規模でのコミュニティへのつながりを感じられること、臨床試験の情報を得られつながること、治療法開発などの研究者とつながること、などが挙げられます。

また、定期的に受診・検査し、合併症対策を行うことで登録情報を更新して自身の健康管理ができること、専門でない担当医に病気の知識を深めてもらえること(医療の標準化にも繋がります)、直接自身の利益には繋がらなくとも、蓄積したデータを使用した研究が進むことで、他の患者や患者家族のためになること、なども登録のメリットと言えるでしょう。

<研究者や製薬企業等にとってのメリット>
 患者の集まりに接触できること、治療薬の市場規模を見積もることができること、臨床研究の計画を立てやすくなること、などが挙げられます。

日本における患者登録者数は2017年5月31日現在で623名です。都道府県単位でみると、登録者数にはバラツキがみられます。年齢は幅広く、先天性の幼児から70代の方がおられます(中にはお子さんは登録しているが、親御さんは登録されていないケースがあるかもしれません)。

患者データは軽症者から進行者、若年から老年までと幅広いものが必要であり、「私には関係ない」ではなく、一人でも多くの患者登録が重要です。

 また、変化をきちんと観察して記録を残すこと(自然歴と言います)も非常に重要です。これらの積み重ねが研究成果・治療法の開発に繋がります。待っているだけでは治療薬を得る時期が遅くなるかもしれません。
※患者登録をすれば全員が必ず治験を受けられるわけではありません。ご理解ください。

 本疾患の治療開発は進んでいます。治験に入っているモノもあります。患者登録は患者自身の健康管理に役立つのはもちろん、自身の存在を製薬企業や医師、研究者また、社会に知らせ、関心を持ってもらう方法の1つです。

講演後に質問タイムがありました。一部をご紹介いたします。

Q:子供が患者です。患者登録したいのですが、医療行為に対する恐怖感が強く、レントゲン等検査を受けることが難しい状況です。どのような検査を受ければ登録できますか?
A:全ての検査が義務ではありません。可能な検査を受けていただくでも患者登録は可能です。ただし、遺伝子検査を実施し、確定していることが必須です。遺伝子検査は採血により行い、一生に一度受けていただければ結構です。

Q:治療薬の開発が進んでいる、とのことですが、筋力が回復する薬なのでしょうか?症状の進行を止めるものなのでしょうか?
A:開発している薬によって異なるのですが、筋肉や全身にも効果があるもの(IONIS社;今回のものは開発が中断)や症状を和らげるもの(AMOファーマ;元々アルツハイマー用の薬であり、主に小児の知能への効果が期待)があります。

Q:日本での治療薬の開発状況がいかがでしょうか?
A:例えば、大阪大学では候補となるものをひとつ発見しており、治験に進めたいと考えています。それ以外では名古屋大学や東京大学でも研究が進んでいますが、まだ患者に適用しようという薬は出ていません。また、製薬会社でも開発は進んでいます。

Q:治験を進める上で、患者登録のデータは重要なのですか?
A:海外の製薬会社が治験を計画する場合、例えば「日本には登録患者が1000人くらいいる」として、治験参加への意志を示す患者の数が見積もられます。
患者登録のデータは海外の患者さんと同じ条件で取られているので、患者登録数によっては、国際共同治験等において日本の患者も参加できる可能性があります。特に日本には優れた医療保険制度がありますので、製薬会社としては注目しているところです。

<編集後記>
 会場はほぼ満員となり大変盛況でした。参加いただきました方々、ご協力いただいた各先生方にあらためて感謝申し上げます。また、準備に携わっていただきましたスタッフの方々、お疲れさまでした。

 今回は、コンパクトなメニューであり、ご参加いただいた方々はひとつひとつの講演に集中して聞き入られている様子でした。
本疾患の患者は身体状況にもよりますが、長時間の講演を聞くことが難しい場合もあります。病気の特徴を考慮しながら、患者が聞きやすい・参加しやすいセミナーの計画を立てる大切さを実感できた会でもありました。

 なお、今回のセミナーには、国立大学法人愛媛大学の名誉教授であり、明地副理事長の弟さんの元主治医でもある、三木哲郎先生(現 医療法人錦秀会 阪和第一泉北病院 認知症疾患センター長)がお見えになられていました。

三木先生は筋強直性ジストロフィーの遺伝子研究をはじめ、日本における遺伝子検査の草分け的存在である方です。先生は「以前から、この病気には家族会が必要だと思っていました」とおっしゃいました。この病気に関わられてきた医師だからこそのお言葉であると思います。これは患者会として非常に有り難いお言葉であり、今後の活動の励みになるものです。

同じ病気の方・ご家族の方と実際にお会いすることは、客観的に自分たちを知る良い機会となります。患者会がこのような会を頻繁に開催することは難しいかもしれませんが、皆様のお住いの近くで開催出来る際には、是非ご参加ください。

文責:土田裕也(患者会事務局担当)