患者の声を医療者に。「第4回筋ジストロフィー医療研究会」レポート
2017年10月13日(金)・14日(土)、宮城県トークネットホール仙台にて第4回筋ジストロフィー医療研究会が開催されました。
全国から専門医や療法士、看護師など日ごろ筋ジストロフィー患者をケアしてくださる先生方が集結、多くの研究や症例報告と熱心な議論が展開されました。
患者自身からも演題発表があり、一人暮らしや就労をしている患者の報告のほか、DM-familyからは副理事長 佐藤美奈子がシンポジウムに登壇、HAL医療用下肢タイプでの歩行機能改善治療について自身の体験を報告しました。
左から、国立病院機構新潟病院 中島孝先生、DM-family副理事長 佐藤美奈子
佐藤久夫さん、DM-family事務局長 妹尾みどり
医療研究会設立者、川井充先生を偲ぶ「メモリアルレクチャー」
筋ジストロフィー医療研究会は、2016年9月に亡くなった国立病院機構 東埼玉病院の前院長 川井充先生が立ち上げに尽力され、第1回の大会長を務められました。
今回はその功績を記憶にとどめるために、13日に「川井充メモリアルレクチャー」が行われました。
国立病院機構 八雲病院診療部長の石川悠加先生が「国内外の連動を見据えた筋ジストロフィー医療の取り組み~仙台西多賀病院から進められてきた原点を振り返って~」と題し、患者・介助者・家族・地域のニーズをとらえること、医療と教育、福祉の協働が重要であることなど、海外の事例も含めて本研究会のテーマである「筋ジストロフィー医療の未来を開く」にふさわしい講演をされました。
副理事長 佐藤美奈子が医療用HALによる機能改善治療体験を報告
DM-family副理事長、佐藤美奈子は自身が筋強直性ジストロフィー1型の患者で、仙台西多賀病院に通院しています。日ごろ、外出に車いすを使っている佐藤は、2017年5月から約1ヵ月、HAL医療用下肢タイプによる機能改善治療を受けました。
この体験を、13日にシンポジウム「HALによるニューロリハビリテーション」において、「意識が変われば、体も変わる-HALを体験して」と題し、実際に治療を受けた患者として報告しました。
筋強直性ジストロフィーは、筋力低下や多くの臓器に障害が起きるだけでなく、疲労感や日中過眠、やる気のなさ、恐怖症的不安などの症状があります。
佐藤自身が病気の症状である「疲労感」、「やる気のなさ」を治療中に乗り越えてきた様子を伝え、そして多くの患者と医療者に向けて「前向きに意識を変えていくこと」の重要性を訴えました。
講演を終わった佐藤美奈子に、医療用HALの開発に携わっておられる国立病院機構 新潟病院院長の中島孝先生から「人間は、どんな段階にいても成長・発達することができる」と温かい励ましがあり、さらに仙台西多賀病院院長の武田篤先生からは「当院でHALの治療を受けてもらって本当に嬉しい。医療者側が患者さんに先入観で接し、固定観念を持っていると、そこから先が想像できなくなる危険性がある。こういう新しい治療法が出てきたときに、(固定観念は)まったく変わり得ると経験させてもらえた」とのコメントをいただきました。
成果報告をする佐藤美奈子
国立病院機構 仙台西多賀病院 武田篤先生
仙台西多賀病院 高橋俊明先生(主治医)と佐藤美奈子
※佐藤美奈子の「意識が変われば体も変わる-HALを体験して」は月刊誌「難病と在宅ケア」2018年3月号に掲載される予定です。
デュシェンヌ型筋ジストロフィー患者 坂本一磨さんの一人暮らしと就労
14日のコメディカル立案企画シンポジウム「筋ジストロフィーを生きる~新しい働き方がもたらす、療養と就労の両立に向けた取り組み~」で、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを持つ坂本一磨さんが登壇し「人生が変わる、人との出会い~夢にも思わなかった『一人暮らし』と『社会人』~」が発表されました。
坂本さんは10歳くらいから歩行ができなくなり、車いすを使うようになりました。中学校卒業を控えたときに東日本大震災を経験し、支援学校を卒業したらほかの病院に転院するしかないと考えていたそうです。
そんな坂本さんは、仙台西多賀病院で、同じ病気を持ちながら一人で暮らし、仕事をしている患者さんに出会いました。最初は信じられなかった坂本さん。しかし自分でも「一人暮らし」「社会人」になるという目標を持つようになりました。
- 筋ジストロフィーを受け入れる強い気持ち。
- ありがとう、助かりましたという感謝の気持ち。
- 挑戦心。
入浴・排せつなどの身体介助を1日30分から1時間、掃除・洗濯・調理の家事支援を1日30分から2時間利用し、訪問看護や訪問リハビリを受けるなどさまざまな工夫をしながら、坂本さんは一人暮らしを実現し、株式会社サイバーエージェントの特例子会社で1日6時間の勤務をしており、入社3年目の今、サブリーダーに昇進して在宅就労の社員2名を率いています。
坂本さんは最後にキックボクサー魔裟斗(まさと)さんの言葉を紹介しました。
“努力すれば報われる?
そうじゃない
報われるまで努力するんだ“
「早め」が決め手となるか、筋強直性ジストロフィー患者の人工呼吸療法
13日の臨床研究「筋強直性ジストロフィー」では、大阪大学大学院 高橋正紀先生が座長となり、患者登録の現状、筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン作成、血糖値変動解析、虚血性脳卒中の頻度とリスク、先天性筋強直性ジストロフィーの全国調査などが発表されました。
患者登録のデータから、心臓伝導障害でハイリスクと見られる患者が27パーセント存在するにもかかわらず、ペースメーカーなどによる対応をしている患者はわずか1.7パーセントと、欧米との違いが明らかになるなど、日本の医療における改善点などがわかりつつあります。
大阪大学大学院 高橋正紀先生
また14日には「これからの筋ジストロフィーの呼吸管理」として、国立病院機構 鈴鹿病院院長 久留聡先生から筋強直性ジストロフィー患者の呼吸管理について発表がありました。
筋強直性ジストロフィー患者は、ほかの筋ジストロフィー患者と同じ対応では難しい点がいくつかあります。人工呼吸器装着について患者自身と家族からの協力が得られず、必要な場面でNPPV(気管切開をしない人工呼吸器)を進められないことが課題となっています。
発表の中で久留先生は、鈴鹿病院における「チャンピオンデータ(理想的なデータ)」として、夜間人工呼吸器装着をしている筋強直性ジストロフィー患者の例を挙げました。この方はリピート数200ですが、8年間の長期にわたって在宅でNPPVを継続して実施し、夜間の呼吸状態が改善しました。
さらに、睡眠呼吸障害と認知機能障害や不整脈には関連がある可能性があり、早めに人工呼吸療法を開始するとよいのでは、と考察されています。
人工呼吸療法が寿命を延ばし、生活の質の向上につながるかどうか、今後の研究が期待されます。
患者と家族、支援者には人工呼吸器について先入観を持たず、積極的に利用するための知識普及が求められています。人工呼吸器は生命維持装置というより、患者の生活を支えるものと考え、必要に応じて処方してもらうよう考えましょう。
また、検査入院などの機会に人工呼吸器に慣れておくと、いざというときにすぐに使い始めることができます。
会場で会報「創刊準備号」を配布
DM-familyでは、会員とご寄付・ご支援をいただいたみなさま、お世話になっている先生方に向けて今年から会報を発行することになりました。
そこで、創刊号を発行する前に2017年9月までの活動をまとめた「創刊準備号」を会場で配布し、先生方にご報告させていただきました。
創刊準備号はこちらからダウンロードしてお読みいただけます。