2017年11月3日(金・祝)、筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)は埼玉県さいたま市大宮区のソニックシティ601会議室にて、「暮らしに役立つ筋強直性ジストロフィーとのつきあい方 in埼玉」を開催しました。

大宮駅から徒歩3分という会場の立地条件もあってか、仙台、福島、新潟、栃木、茨城、長野、千葉など近県の方にもお越しいただきました。また、遠くは広島からの参加者もおられました。開催時間30分前には、会議室の前にたくさんの患者・家族のみなさんが開場をお待ちになっていました。

当日は、在宅で日常生活を送る患者のみなさんや介護にあたるご家族や支援者の方々が、筋強直性ジストロフィーと向き合いながら送る日常生活のヒントを得ようと熱心に講義に聞き入り、メモをとり、多くの質問がある熱い内容となりました。



「普段」と「いざというとき」は表裏一体。病気を知り、専門医の定期受診を

最初は「専門医から伝えたいコツ」の講義を国立病院機構東埼玉病院 臨床研究部長の尾方克久先生からいただきました。
「普段のメンテナンス」と「いざというときに向けた準備」。このふたつが、筋強直性ジストロフィー患者が平穏無事に暮らすための大きな柱だと、尾方先生は言われます。
「車もそうですが、普段のメンテナンスをしているから、いざというときに備えられます。『悪くなったら何とかすればいい』では、どうしようもなくなります」。
早期発見・早期治療と、病状と危険の評価。本当に具合が悪くなる前に、苦しい思いをしないように必要な治療を始めるために、専門医はこうした観点で患者を診察します。

気をつける点は、運動・心臓・呼吸・嚥下と栄養。検査入院で確認できる

筋強直性ジストロフィーに限らず、筋ジストロフィー全般に共通した症状としては、筋力低下による姿勢・運動の問題のほかに、呼吸、心臓、嚥下・栄養に注意が必要です。外来ですべてを一度に診察するのは難しいので、数日から一週間程度の検査入院を定期的に受けることが勧められました。実際に多くの患者が、検査入院を受けているとのことです。

・姿勢と運動
「動かせるところは日々動かすこと」が大事です。体は動かなければ動かせなくなり、やがて動けなくなっていきます。動くことは機能の維持と関節拘縮の予防にもつながります。翌日に疲れが残らない程度の簡単なリハビリを毎日続けるのが大事です。
トレーニングを積んだ宇宙飛行士でも、地球に帰還する時には筋力が落ち自力で体を支えるのが困難になるように、筋疾患でない人間でも身体は動かさなければ簡単に動かなくなってしまう、という尾方先生の話に、参加者一同大きく頷いていました。
また、筋力が低下しているために怪我をすると骨まで影響が出やすく、回復にも長い時間がかかるので、なるべく怪我をしないように十分注意が必要です。

・心臓
自分で自分の心臓の力を測ることは出来ません。自覚症状がなくとも、定期的な検査を受けましょう。これもまた早期発見、早い時期からの治療が心臓への負担を軽くします。

・呼吸
深呼吸できる力と、痰を出す力の両方が必要です。苦しい思いをせず、いざというときに慌てないように、人工呼吸療法は悪くなる前に導入することがコツです。

人工呼吸療法が必要となる前段階であれば、上手な咳払いや深呼吸の仕方など、家族がサポートしてリハビリテーションをすることができます。

・嚥下、栄養
筋強直性ジストロフィーの患者は、ノドの筋肉が緩んでいることと、食道の筋肉が緩んでいること、むせても咳が出にくいことが特徴の一つに挙げられます。通勤通学など社会生活を普通に行える患者であっても、気づかずに嚥下の問題を持っている場合は多いとのこと。食べ物の形態を工夫する、食べる速度や姿勢などについてリハビリで指導を受けるなどができます。

また、食事から栄養がきちんと摂れているかどうかの指標は体重です。日頃から機会をみて体重を測り、変化があれば次の受診で主治医に報告をしましょう。

緑内障と糖尿病にも要注意

筋強直性ジストロフィーは症状が多彩なので特有の問題が多い、と尾方先生は言われます。
主な特有の症状には筋強直(ミオトニア)、眼瞼下垂、白内障、糖尿病、高脂血症などがあります。
白内障になる患者は多いですが、緑内障にならないよう注意しましょう。緑内障は眼圧が上がって眼球の後ろ側にある神経が圧迫されます。患者だけでなく、ご家族の方も要注意です。

筋強直性ジストロフィーの患者は糖尿病にかかりやすいので、定期的に検査が必要です。
高脂血症の患者は意外と多いようです。運動することで対策を立てることは難しいので、栄養士の助言を得るなどして食事の面での工夫を考えましょう。

全身麻酔の前には病名を伝える

筋強直性ジストロフィーに限らず、どの筋ジストロフィーでも全身麻酔には事前の準備が必要です。ガス麻酔薬に反応して発熱や全身の筋硬直が起き、致死率は40~50パーセントとも言われますが、特効薬があるので事前の準備が決め手になります。
全身麻酔の前には麻酔医に「筋強直性ジストロフィー」であることを必ず伝えてください。

どこに・何人・どんな症状?患者の実態を明らかにする「患者登録」

筋強直性ジストロフィー患者に向けた根本治療薬を手に入れるためには、臨床試験(治験)が必要です。
しかし、これまでは患者の実態が明らかにされていませんでした。

  • 実際に、遺伝子変異がある患者は何人いるのか
  • 今、どのような状態なのか
  • どういった症状で困っているのか

こういったことがわかっていないと、治験をスムーズに行うことができず、治療薬の効果と安全性を短期間で確認することができません。製薬企業としても手が出せないところです。

そのため、筋強直性ジストロフィーでは患者登録が神経筋疾患患者登録 Remudyによって行われており、日本国内における患者の実態を把握しようとしています。

遺伝子診断で変異が診断されないと、根本治療は受けられない

尾方先生から、2017年夏に認可された脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬スピンラザのお話しがありました。1本932万円*、それでも他国に比べて安価となったとの話に、会場から驚きの声が上がりました。

寝たきりで息もできないSMAの患者さんが、スピンラザ投与を受けて走って飛び跳ねていた、との話の後、「でも、きちんと遺伝子診断を受けて、原因の遺伝子変異が確定していないと、こうした治療は受けられない」と尾方先生。どう見ても筋強直性ジストロフィーだと思われる患者であっても、あらかじめ遺伝子診断で結果が出ていることが根本治療の条件になります。

*SMA、筋強直性ジストロフィーとも指定難病のため、認定基準を満たせば、指定難病制度における医療費助成対象となります。詳しくは管轄の保健所にお尋ねください。

治験に参加するなら、遺伝子診断されていないと参加資格はない

治療薬の治験では、遺伝子の解析を行い、薬の効果や効果がある人数の見込みを調べます。
またどんな治療のニーズがあって、どのくらいの効果があったかを判断する根拠ともなります。
患者登録に遺伝子診断書のコピーが必要なのは、このためです。

「日々をより楽しく、より良い生活を」

患者登録は治験を進めやすくすることを目的としています。ところが、始めてみると今の治療にも役立つ情報がたくさんあることがわかりました。心臓や呼吸、耐糖能異常など、受けている治療の実態が明らかになってきているからです。
「みなさん、主治医を信頼していることも大事だけれど、ほかの患者さんがどんな治療を受けているか、気になりませんか?」と話された尾方先生。「新しい薬を手に入れるだけでなく、よりよい日常診療を受けてください。そして日々をより楽しく、より良い生活や人生を送ってください」と笑顔で話されました。



患者からの質問が殺到

講演後、参加者からの質問に尾方先生は丁寧にわかりやすく答えてくださいました。

Q:日本で治療薬の治験は行われていますか?
A:日本での治験はまだ行われていませんが、アメリカなどではすでに行われています。筋強直性ジストロフィーは患者数が少ないので、今後、世界中で100人単位での治験が必要になったときに参加できることが重要です。そのためにも患者登録で日本の患者数を示す必要があります。

Q:治療薬は病気を消して治す薬か、進行を抑える薬かのどちらでしょうか?
A:イメージとしては「進行を抑える」に近いと思います。なぜなら、治療が始まる前に、すでに減ってしまった筋肉を元に戻すことは難しいからです。また、すでに手術をした目や筋腫などを(手術前の)元通りに復元することも難しいでしょう。治療を受けた後に、遺伝子内で正常にタンパク質が作れるようになれば、うまくいけばそこから先は(症状が)なくなるかもしれません。

Q:運動をどのくらいすればいいのか、不安です。回数の目安はありますか?
A:心臓や呼吸に問題がなければ、翌日に疲れが残らない程度にするのがいいでしょう。「1日何歩」のようなことは患者さん自身の体重などにもよるので一概には決められません。

ほかにも多数の質問があり、満席の会場はヒートアップ。そして後半の「患者にも家族にもできるストレッチ体験」と交流会に続きます。
(次号に続く)