「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 札幌」(1):母子を支えるのは、周囲のサポート
2018年9月2日(日)、北海道立道民活動センター「かでる2・7」1040会議室にて「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 札幌」を開催しました。先天性・小児期発症のお子さんも加わって、約30名の参加者が1日にわたる講義と交流を楽しみました。
先天性筋強直性ジストロフィーの子どもを育てるときに気をつけたいこと
30年前は助からなかった子どもも、生きられるようになった
最初の講義は国立病院機構 八雲病院 石川悠加先生からお話しをいただきました。
先天性筋強直性ジストロフィーの子どもたちは、新生児期に重い症状を持って生まれます。筋緊張が低下して呼吸障害があり、哺乳困難や嚥下困難、中枢神経障害などがあります。
そんな症状を持つ先天性筋強直性ジストロフィーは、どのくらいの割合で生まれるのでしょうか。最近5年間のカナダでの出生率は10万人に2.1人。日本全国では1億2千万人のうち、434人くらいになるはずです。しかし「30年前には新生児期に助けられなかった子どもも、生きていけるようになった。寿命や生活状況が改善する可能性があります」と石川先生は話されました。
家族や周囲のサポート体制が大事
先天性筋強直性ジストロフィーの子どもたちは、専門外来に通院し、周囲が適切な環境を作ってあげることで生命・生活ともに改善することができます。
多くのお母さんが同じ病気を持っているため、お母さん自身の症状によって外来受診ができなくなると、子どもの健康状態にも影響します。
そのため「子どもとお母さんだけでなく、家族を支えるお父さんにも、周囲からのサポートがとても大事です」と石川先生。医療や福祉、教育、コミュニティー、患者会など多くの人の手によって、お母さんと子どもの未来を開いていくことができます。
「31歳になる先天性筋強直性ジストロフィーの患者さんは、子どものころは中耳炎を繰り返していましたが、今では椎茸の原木栽培のお仕事でお給料をもらっています」との話に、会場からは驚きの声があがりました。
中枢神経・心理発達は個人差が大きい。周囲の配慮が重要
先天性筋強直性ジストロフィーの子どもたちは単純な記憶や繰り返しは理解できますが、包括的な判断、社会性、意欲の問題、注意欠如、感情を言葉で表現することが難しいなどの特徴があります。
子どもが理解しやすい経験として、積み重ねしやすい課題を提示するなどの教育的配慮が必要なほか、対人関係で取り残されないように、子どもの友達が何を求めているかを理解させ、友達との共感を大事にするようなサポートが欠かせません。
排痰補助、人工呼吸器は「やったらラク」と覚えさせよう
筋力低下で咳の力が弱くなると、窒息や誤嚥性肺炎のリスクがあり、風邪をこじらせて肺炎になると人工呼吸器(NPPV)が必要になることもあります。定期的な検査が必要なことはもちろん、排痰補助装置や人工呼吸器が必要になったら、辛抱強く導入してあげてください。患者自身が「介助をしてもらうとラクになる」と覚えると、自分から要求するようになります。
子育て世代の親も定期的な受診を
両親とも、年1回は通常の健康診断を受けてください。また、筋強直性ジストロフィーをお持ちの方は、24時間心電図、傾眠が増えてきたら睡眠呼吸モニターでの確認をしましょう。便秘、白内障、麻酔・手術時の合併症にも注意が必要です。
注意するべき点は多い。周囲の力が求められています。
最後に、先天性筋強直性ジストロフィーで注意すべき点と対処法が石川先生から示されました。
多くの管理を適切に行う必要があり、親子が専門外来で医療を受け続けていくためには、ご家族や周囲の力が求められています。
遺伝について知っておこう
「遺伝性疾患」とは何か
東京女子医科大学病院 遺伝子医療センター 松尾真理先生が、東京から講義に駆けつけてくださいました。
遺伝子は「人体の設計図」です。ヒトの体には約2万個あり、種の保存を担っています。
「遺伝子が疾患の発症にかかわっているものを『遺伝性疾患』と呼びます。いろいろな種類の遺伝性疾患があり、ヒトは死ぬまでに6割の人が遺伝性疾患にかかると言われています。」松尾先生は筋強直性ジストロフィーについて話を続けました。常染色体優性遺伝で、ほとんどの日本人患者は19番目の染色体にあるDMPK遺伝子でCTGの繰り返し(リピート)が伸びている「1型」です。
CTGリピート数と症状の関係は厳密ではない
CTGリピートが長いほど強く・早く発症するとされています。成人で発症する場合、軽症型では50~150リピート、古典型では100~1000リピート、そして先天型では1000リピート以上とされていますが、個人差が大きく「このリピート数だからこの症状が出る」とは言えません。同じリピート数でも、人によって症状が全く同程度とはならず幅があります。
親から子どもに伝わるときにリピート数が伸び、症状が重くなる「表現促進現象」がありますが、ときにリピート数が短縮することがあります。父親由来の場合、4.2~6.4パーセントの家系で短縮が見られるとされています。
着床前診断をしても、出生前診断をすることがある
子どもを持ちたいときに、お母さんが筋強直性ジストロフィー(常染色体優性遺伝)の患者とわかっていれば、着床前診断や出生前診断を考えることができます。
出生前診断には、母体に穿刺をする絨毛検査・羊水検査などがあります。絨毛検査の流産リスクは1~3パーセントあり、母体組織に混入による誤判定があり得ます。羊水検査の流産リスクは0.2~0.3パーセントとされています。
着床前診断は、体外受精させた胚の検査をして、筋強直性ジストロフィーがない可能性が高い胚だけを移植する方法です。
着床前診断の診断率は約80パーセント、出生前診断の診断率は約100パーセント近くです。そのため着床前診断を行っても、その後にあらためて出生前診断を行う場合があります。
約3割が妊娠で症状が悪化。正しい知識ときちんとした妊娠管理が必要
筋強直性ジストロフィーを持っていて妊娠すると、さまざまなリスクがあります。約3割で筋力低下やミオトニア、不整脈、心筋症などの症状悪化があります。
早産・前置胎盤・微弱陣痛・遅延分娩の頻度が一般よりも高く、1割から2割の胎児が羊水過多を合併します。
しかし、子どもを持つことは、ご自身で決める権利があります。
子どもを望む場合は「きちんと妊婦健診を受けること」「筋強直性ジストロフィーの経験が豊富な施設での妊娠分娩管理をすること」「NICUがある病院での分娩をすること」が大原則です。また、遺伝カウンセリングで正しくリスクを推定し、遺伝医学的な知識を学び、コミュニケーションや心理的な援助を受けましょう。
ランチ交流会と患者と家族の情報交換会
休憩室では、子どもたちが交流
長時間の勉強会なので、子どもたちを休ませるために別室の休憩室を用意しました。眠くなるかな?と思いきや、子どもたち同士で楽しく遊んでいました。
自分が写っているチラシを見つめています
児童室に用意されていた乗り物で遊びます
妹たちの病気は、なぜ起きるの?
この勉強会に参加した浅野修仁さんは、小学校6年生で、2人の妹が小児期発症型・先天性筋強直性ジストロフィーです。お母さんに「この病気は遺伝子が原因なの」と聞いた修仁さんは、夏休みの自由研究で「遺伝子について」をテーマに選びました。
その知識は、医師である副理事長 明地雄司も舌を巻くほどで、「最初は子どもだから簡単な質問だろうと思っていたら、すごく詳しくてびっくりした」と話していました。
この日も、修仁さんはランチタイムにさっそく質問。「どうして(CTGの)繰り返しが多いと病気になるの?」という問いに、明地は丁寧に答えました。
「じゃあ、悪いRNAにたんぱく質がとらえられてしまうなら、そこをブロックするようなことができればいいの?」
小学校6年生にして、この質問。答えは午後最初の講義に用意されていました。
ゲームが大好きで、元気いっぱいな修仁さんが、未来の医療を開いてくれるかもしれません。
ランチ交流会と情報交換会
ランチタイムを長めにとって、会場では参加者同士でお名前とお住まいを自己紹介しました。最初はなかなか話しづらくても、だんだん打ち解けたムードになりました。
ランチ交流会で自己紹介
勉強会の最後に行った情報交換会では、本音トークも。あるお父さんが「妻が晩ごはんを作る時間に眠くなるので、僕が仕事を終わってから帰宅して晩ごはんを作っています」と言うと、ほかのお父さんから、「それ、僕も……!僕も、毎日晩ごはんを作ってます!」と発言。「そうよね」「大変だよね」とみんながうなずき、共感する会となりました。
お父さんは、お母さんを支え、日々がんばっています。
情報交換会