セミナー「筋強直性ジストロフィー 体とこころのケア in 名古屋」(4):患者から伝えたいこと

2018年7月16日(祝)に開催した「筋強直性ジストロフィー体とこころのケア in 名古屋」にて、筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)の理事長と副理事長の患者3名によるシンポジウム「患者から伝えたいこと」を行いました。

筋強直性ジストロフィー患者会の理事長 籏野(はたの)あかね、副理事長 明地雄司・佐藤美奈子は、いずれも筋強直性ジストロフィー1型の患者です。

冒頭、当患者会について、事務局長の妹尾みどりから概要を説明しました。これまでの活動を紹介し、今回のセミナーはアステラス・スターライトパートナーさまから実施金額の約半分を助成いただいた上、さまざまな方からのご寄付と会費によって実現できたことをご報告させていただきました。
アステラス・スターライトパートナーさまはじめ、会場でご寄付をくださった方、いつもご寄付をくださっている多くのみなさまのご厚意に、あらためて心からお礼を申し上げます。

今回のセミナーでは当患者会で初となるシンポジウム「患者から伝えたいこと」を行いました。
成人で発症することが多いこの疾患ですが、病気があっても、それぞれ個人が持つ体験と思考があり、それを尊重した患者会でありたい。そして多くの患者と家族の力となっていきたい。そんな考えから、セミナーの1時間をシンポジウムとさせていただきました。

意識が変われば、体も変わる -HALを体験して-

筋強直性ジストロフィー患者って、どう見られているか知っていますか

最初に、副理事長 佐藤美奈子から話を始めました。
「筋強直性ジストロフィーの患者がどう見られているか、わかりますか?」佐藤は続けます。
疲れやすく、すぐ眠くなる。何に対しても面倒と言い、やる気がない。(ゲームや遊びに対しては、やる気があるのに。)何を考えているかわからない。ああなったら、こうなったらどうしようと必要以上に怖がり、合併症があるから余計に怖がる。
そんなふうに周囲から見られている、それが筋強直性ジストロフィー患者のようなのですが……。

ロボットスーツHALは筋強直性ジストロフィーにも効果があるのでは?

「みんながそういうわけではありません」。佐藤は、HALが医療保険で機能改善を受けられることを知って、主治医に頼み込み、2017年5月と2018年3月の各1か月、2回のHALの機能改善治療を受けました。

HALの歩行訓練では、足とお尻、数箇所に電極をシールで貼り、神経に運動意図を伝えて筋肉をアシストします。ホイストと呼ばれる支えとなるフレームに吊られ、腕でつかまりながら歩きます。
前後に理学療法士がつきながら、HALによるサポートの調整を行って訓練を進めます。

疲れる!挫折する患者がいてもおかしくない

佐藤は初めてのHALで、かかとから先に足を付けて歩いていないことに気が付き、愕然とします。「数年前までは普通に歩けていたのに……。」そしてホイストを握る手に力が入りすぎて、腕や肩が痛くなり、予想以上の疲労感を感じました。
「疲れやすい筋強直性ジストロフィー患者なら、いつ挫折してもおかしくない。でも、わたしは……!」

久しぶりに感じるワクワクする気持ちを、共有する

HALとの調整がうまくいったときのスムーズな歩き。慣れればもっと行けるという期待感。歩くイメージが足を前に運ぶ。「症状が進んで行く毎日なのに、久しぶりにワクワクする気持ちを感じました」と佐藤は話しています。
そしてそれには、佐藤なりの工夫がありました。
毎日の成果を日記に記録し、距離よりも歩き方を丁寧にする。療法士からのコンディショニングを受け、十分なコミュニケーションをする。できたことをほめてもらい、気持ちが上向きます。

姿勢と歩行距離改善を、学会で報告

1回目のHAL機能改善治療の結果をまとめ、佐藤は2017年10月に開催された「第4回 筋ジストロフィー医療研究会」のシンポジウムで成果を発表しました。そこで出会った国立病院機構 新潟病院の中島孝先生からのご紹介で、雑誌「難病と在宅ケア」3月号に寄稿することになりました。

2回目のHALでさらなる改善。中島先生の言葉は本当だった

2018年3月に行った2回目のHAL機能改善。冬の間、そんなに運動をしていなかった不安をよそに、さらに歩行距離が伸びて2017年当初150mのところ、780mに。杖使用での2分間連続歩行は105mになりました。

佐藤は、医療研究会の発表後に中島先生からかけられた言葉を紹介しました。
“人間はどんな段階にいても、成長・発達することができる。”

新しい明日を笑顔で過ごせるように!

意識を前に向ければ、目標に向かえた喜び、自分自身の体に表れる確かな手応え、希望を持つことで見えてくる世界があります。
たとえ進行する病気であっても、少しでも改善できることがある。これからも前に向かって進んでいこうと、佐藤は患者に呼びかけました。

筋強直性ジストロフィーとわたし -発見から今日まで-

整形外科で病歴をたずねられて

次に、理事長 籏野あかねが自身の診断から今日に至るまでの話をしました。
籏野は診断される前、調理師をしていました。膝が痛み、整形外科に受診したところ、「病歴を詳しく言ってみて」と言われて、さまざまな病歴を話し、「関係ないかもしれないけれど、若いのに白内障になって手術しました」と言ったことから神経内科を紹介されました。白内障は、筋強直性ジストロフィー患者によく起きる合併症のひとつです。

診断のショック、そして30分に及ぶ針筋電図検査

最初に訪れた神経内科で、「筋強直性ジストロフィーで、治療法はありません」と診断されました。ショックでどう帰宅したかを覚えていないそうです。
次の病院では医師10人くらいが、籏野の腕や手の甲に30分間ほど針筋電図の針を刺したまま「こんな音、滅多に聴けない!」と話していました。筋強直性ジストロフィーは、針筋電図検査時に独特の音がするからです。針を刺された痕が内出血で腫れ上がりましたが、医師はそれを見ても「あっ、そう」と言うだけでした。

自暴自棄から救ってくれた本

その病院には行かなくなり、「どうせ治らない、もう病院なんて行かなくていいや」と自暴自棄になって好き勝手に暴飲暴食の日々を過ごしていました。
そんなとき、籏野が出会ったのは「筋強直性ジストロフィー 患者と家族のためのガイドブック」です。

「筋肉だけの病気ではない」。そういえば、思い当たることがたくさん……

その本を読んで、籏野が一番驚いたのは「筋肉だけの病気ではない」という言葉でした。「そういえば……」思い当たることがたくさんありました。
不整脈。腸が弱い。手術を何度もしていました。甲状腺、卵巣腫瘍、子宮内膜症で子宮全摘、白内障……。「もしや筋強直性ジストロフィーの合併症では?」
そして、「このままではいけない。病気にやられっぱなしでたまるか!」と思い、行動を起こしました。

3番目の病院で、温かく受け止めてもらえる。しかし……

ある大学病院に行き、「筋強直性ジストロフィーが治せないことは知っています。でも合併症を診てほしいんです!」と訴えました。
その大学病院には、筋疾患を専門とする神経内科医はいませんでしたが、この訴えをこころよく引き受け、通院できるようになりました。医師の勧めで遺伝子検査も受けました。

籏野は高脂血症になっていました。コレステロールも、中性脂肪も、肝臓の数値もひどく、脂肪肝になっていました。
医師は悩みました。「筋疾患の患者にコレステロールの薬を処方して良いのか?」コレステロールの薬は筋肉に影響が出ることがあります。そして医師は「僕には、どうしたらよいかわからない。知らないでいい加減なことはできない」と、専門医のいる国立精神・神経医療研究センター病院を紹介してくれました。

自分が来るべき所に来ることができた

籏野は国立精神・神経医療研究センター病院を受診し、現在の主治医である大矢 寧先生と出会いました。大矢先生は「高脂血症の患者はたくさんいますよ」と笑顔で答え、検査を指示し、ようやく安心して医療を受けられるようになりました。循環器科、リハビリテーション科など、この病院にある診療科の医師や療法士はすべて筋ジストロフィーのことをよく知っています。
そして、大矢先生は籏野が立ち直るきっかけとなった「筋強直性ジストロフィー 患者と家族のためのガイドブック」の翻訳者のひとりでもありました。


籏野あかねと大矢 寧先生

筋強直性ジストロフィーを知っている医師を増やしたい

その後、10人の仲間と一緒に筋強直性ジストロフィー患者会を立ち上げ、困っている患者がたくさんいることを知りました。
そして今、日本神経学会の「筋強直性ジストロフィー診療ガイドライン」作成に患者代表として参加し、この病気を診られる医師をひとりでも多く増やしたいと考えています。最初に筋強直性ジストロフィーかもしれないと神経内科を紹介してくれた、あの整形外科医のように……。
「先生のことを一生忘れない」と、その医師に気付いてもらったことに感謝の言葉を述べました。

落ち込むけれど、やるべきことは多い。希望を持って、前向きに

2015年ごろから車いすを使うようになり、滑舌も悪くなってきました。だからこそ訪問リハビリを受け、言語聴覚士との発声練習を欠かしません。飲み込みやすく食べやすい料理作りも実践。
「何もできないのではなく、できることがある」、そんなふうに発想を転換してみる。「立ち直るのはゆっくりでいいんです。わたしだってたっぷり2年はかかりましたし。周囲のご家族も、せかさないでゆっくり見守ってください。」

筋肉だけの病気ではない。治療法の開発は進んでいる。いずれは治せる病気になるかもしれない。
患者が希望を持てるかどうかは「知っているか、いないかの差」です。

患者の実例、国際学会IDMC参加の理由 -患者としての私-

医師としてではなく、今日は患者として

副理事長 明地雄司は、現在、愛媛大学附属病院 老年神経内科に勤務する医師です。明地自身、筋強直性ジストロフィーの患者でもあり、この日、患者の実例として弟と自分の話をしました。

子どものころは、それが普通と思っていた

明地の弟は小児期または青少年期発症の筋強直性ジストロフィーです。5歳くらいから手にミオトニアがあり(本人は手が固まることは普通と思っていた)、幼稚園のころはよく食べ、よく笑い、よく泣きもして面白かったといいます。
中学生のころ、発音が不明瞭で耳鼻科を受診しますがあまり改善しません。高校生のころから異常なやせ方で、体型や構音障害のためにいじめられていたとのこと。
明地はそのころの弟に、自分を含めて家族が「なんでできないんだ!」と叱っていたことを非常に後悔していると話します。
弟は高校卒業後、高温な工場での重たい資材運搬ができず、極端に食欲が落ちたことから筋強直性ジストロフィーの疑いを指摘され、21歳のときに遺伝子検査で確定診断を受けました。
今では睡眠時にCPAPを行い、日中の眠気が改善されています。10年前の確定診断時と比べて握力の変化はありませんが、歩行状態や嚥下機能の低下が見られます。

家系に遺伝病が。自分も……?

弟が筋強直性ジストロフィーと確定診断を受けたとき、明地は大学院で遺伝子の研究をしていました。家系に遺伝病があると知り、自分のことを見つめ直すと、かすかに手が固まるような……。
遺伝カウンセリングを受け、遺伝子検査を行い、自身も筋強直性ジストロフィーであることを知ります。

病気があるから医師になる

確定診断後、いろいろ考えて医師になりたいと思った明地は、福井大学医学科2年次後期に編入学。このときすでに、脂質異常症と舌のミオトニアで困り、周囲と比べて落ち込むこともありました。
2015年、大阪で開催された筋強直性ジストロフィーの市民公開講座で籏野あかね、妹尾みどりと出会い、翌年に医師国家試験に合格。筋強直性ジストロフィー患者会の立ち上げにも加わり、副理事長に就任しました。

年1回の定期受診を欠かさない。そしてドキュメンタリーに

2016年から2年間、松山市民病院で医師として初期研修を行う日々。その間にも明地は年に1回、愛媛から大阪にある国立病院機構 刀根山病院での定期検査を欠かしません。
患者会活動、医師としての初期研修の模様はテレビ愛媛制作のドキュメンタリーとなり、全国放送されました。
患者としては疲れやすさを感じつつも、患者会活動では「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会」で医師であり、同じ病気を持つ患者として、子どもたちと同じ病気を持つ母親に向けて定期受診を呼びかけています。
そして医師として、2018年4月から愛媛大学医学部附属病院 老年神経内科に勤務しています。

国際学会IDMC-11に

2017年は、筋強直性ジストロフィーの国際学会「IDMC」が開催されました。研究者・医療者・製薬企業が集結し、患者も参加するユニークな学会で、2年に一度開かれ、2017年は11回目です。
このとき、筋強直性ジストロフィー患者会は参加するメンバーに渡航費を出せませんでした。しかし2年に一度のこの機会を捉えなくてはと、参加者全員が自費での渡航を決行しました。
この学会で、明地は日本での患者会活動について英語で紹介。患者会としてテーブル展示を行い、日本にも筋強直性ジストロフィーの治療薬を待つ患者がいることをアピールしました。

日本には、患者は何人いるの?もしかして患者が少ないの?

スピーチを終えた明地や患者会のメンバーに、多くの人が話しかけてきました。このとき必ずと言っていいほど、「日本には患者が何人いるの?」と質問されました。
「日本は患者が何人の割合でいるの?」とも訊かれました。この病気は、世界的に8000人~1万人にひとり、と言われており、国による差はほとんどありません。
治療薬がほしいなら、この学会でアピールするのは当たり前。海外の患者たちから「今まで日本がIDMCに参加していないのは、困っている患者が少ないからでは?」と思われても無理からぬことです。

日本のことは知られていない

先天性筋強直性ジストロフィーの認知機能改善薬を開発しているAMOファーマのホーリガン先生と実際に会うことができました。アメリカの患者団体に向け、今後の治験に関して話したホーリガン先生。「日本人も、わたしの会社の治験に興味があるかな?」と問いかけ、さらに「日本人とアメリカ人で患者にどんな違いがあるのかな?」と質問されました。

海外の製薬企業は、日本の患者のことをよく知らないのでは?
「これからは待っているだけはなく、海外の患者のように、日本の患者も行動で示すべきと思います」と明地は話しました。

患者だからこそできること、それは患者登録

「患者だからこそ、治療薬を得るためにできる行動があります。客観的なデータで、日本にも患者数が多いことを証明し、海外の製薬企業にも日本で治療薬を販売する気になってもらう。それが患者登録です」静かに考えながら、明地は話します。

ご寄付をお願いします。IDMC参加のために、セミナーを継続するために

2019年には、スウェーデンでIDMC-12が開催されます。
筋強直性ジストロフィー患者会はIDMCへの参加を継続して日本の患者の存在を示し、世界各国の患者団体と協力し、治療薬の開発促進と獲得につなげていく必要があると思います」と明地は話した後、さらに続けました。
「また今後も各地で筋強直性ジストロフィーのセミナー開催を続けていきたいです。」


筋強直性ジストロフィー患者会は、渡航する会員個人が費用を負担して世界各国で開催されるIDMCに参加し続けることは現実的ではないと考えています。

治療薬は数人の会員による努力で手に入るようなものではありません。
国際会議参加を実現し続け、セミナー開催を続けていくために、筋強直性ジストロフィー患者会は自助と共助の力を一層高めていくよう努力をしてまいります。

自分の持つ疾患に関する正しい知識、日々のケアを行う努力、治療薬開発の困難さを知り、多くの人々と協力できる患者と家族に、どうかみなさまからの温かいご支援とご寄付をお願い申し上げます。

長いレポートとなりましたが、お読みいただきありがとうございました。

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