「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 札幌」(2):自分から動かないと、世界は変わらない

2018年9月2日(日)、午後からの「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 札幌」は、ランチ交流会後のくつろいだ雰囲気の中で再開しました。

治療薬の開発状況と、親子でできる患者登録

遺伝子にどんな異常が起きているのか

大阪大学大学院で、筋強直性ジストロフィーの治療法研究をされている中森雅之先生から、治療薬の開発状況について、わかりやすい図解とともに説明がありました。

病気の原因を知らないと、治療法は確立できません。
ヒトの体には、たんぱく質を作る設計図となる遺伝子があります。遺伝子(DNA)には遺伝情報がある部分(エクソン)が浮いており、このエクソンだけをコピーに転写したmRNAから、体に大切なたんぱく質が作られています。(翻訳する、と言います)

DMPK遺伝子でCTGの繰り返しが50回以上に伸びていると、mRNAにも異常が起こります。

生体の機能維持に重要なたんぱく質が、異常を起こしたmRNAに吸着されてしまうと、筋強直や筋萎縮、不整脈などが起きてしまいます。

こうしたことが起きないようにするためには、mRNAの異常を起こしている部分を分解する、たんぱく質の吸着をブロックするなどの方法が考えられます。

mRNAの異常な部分に、たんぱく質を付けないためには?

mRNAの異常な部分を分解するために、「核酸医薬」と呼ばれる薬が開発されています。米国の製薬企業アイオニス・ファーマシューティカルズでは「IONIS DMPK rx2.5」が開発されていました。2017年まで米国で第2相治験を行いましたが、安全性に問題がなかったものの有効性に乏しく、より効果がある方法を目指して研究が続けられています。

現在、海外で治験を始めている英国の製薬企業AMOファーマの「タイドグルーシブ」は、もともとアルツハイマー型認知症向けに開発されてきた治験薬です。筋強直性ジストロフィー患者はGSK3βというたんぱく質の活性が高まっているとの報告があり、その作用を抑える薬として開発されています。

mRNAにたんぱく質が付かないようブロックするために、さまざまな化合物が研究されてきました。ブロックできても、毒性が強い薬は人体には使えません。中森先生は、これまで使われている薬から筋強直性ジストロフィーを治せる薬を探す「ドラッグ・リポジショニング」戦略で研究を進め、「エリスロマイシン」という薬に効果があることを発見しました。

エリスロマイシンとは、抗生物質として昔から使われている薬です。高い安全性があり、慢性閉塞性肺疾患(COPD)にも処方されています。しかし、筋強直性ジストロフィーに処方するためには治験が必要です。なぜならエリスロマイシンは、心臓に副作用が出る可能性があるからです。

「エリスロマイシンを使うには、治験のステップをきちんと踏む必要があります。くれぐれも、治験を終わって適用になるまで医師から(筋強直性ジストロフィーの治療薬として)エリスロマイシンを処方されないようにしてください」と中森先生は話しました。

治験のステップとは

治験には、少数の健康な人に投与して安全性を確認する「第1相」、少数の患者に処方して安全性と有効性を確認する「第2相」、多くの患者に投与して、プラセボ(偽薬)と比較して有効性を検証する「第3相」があり、その後に規制当局が審査して発売となります。
「ドラッグ・リポジショニング」戦略は、すでに使用されている薬を使うため「治験第1相」を行う必要がなく、まったく新しい薬よりも早く治験のステップを進められます。

治験に患者登録が必要な理由

「どこに、何人、どのくらいの症状の患者がいるのか」がわからないと、治験の計画は立てられません。患者登録は、治験の計画を立てるときに非常に重要なものです。
また患者のデータを蓄積しているので、治療薬を飲んだときの患者と、治療薬がなかったときの患者を比較して有効性を示すこともできます。
患者登録数が多いと、製薬企業や行政に向けて、困っている患者が多いことを示すことにもなります」と中森先生は患者と家族に患者登録を勧めました。
中森先生をはじめとする治療薬開発を行っている先生方の努力に、わたしたち患者と家族も応えていきましょう。

DM-familyからのお知らせ

エリスロマイシンは、適用になるまで使えません

心伝導障害の副作用が起きる可能性があり、治験で慎重に用量・用法を確認する必要があります。
 安易に服用して事故になると、治験はできなくなります

エリスロマイシンを使えるようにするには

・治験を終えて適用になるまで、処方をしてもらわない
 患者・家族から適用前に医師に処方を頼まないでください。
 医師のみなさまにおかれましても、適用となるまで筋強直性ジストロフィー治療としてエリスロマイシンを処方されることがないようにお願い申し上げます。

・患者登録をしましょう
 筋強直性ジストロフィーの治療薬治験が妥当であることを世の中に示すには、患者登録をしている人数が重要です。治療法を望む患者自身が、進んで努力をしていると示しましょう。
*患者登録をしても、治験を受けられる保証はありません。また治験の申し出があっても断ることも可能です。

北海道の社会サービスについて

知らないと損。わからないときは、聞けば教えてくれる制度

「社会サービスは、『北海道の』と強調して言えるサービスはほとんどなく、全国どこでも一緒です」国立病院機構 八雲病院の原田利行先生は穏やかに話し始めました。
「日本の制度は『申請』しないと使えません。知らないと損なのです。みなさんから『誰も教えてくれない』とよく聞きますが、聞けば教えてくれる制度です。」
誰に聞けばいいのかわからない、というときには、まずは地域の福祉課に相談しましょう。

社会サービスはお金にまつわる話がほとんど。大人と児童で違いがある

社会サービスは、大人と児童で境目があります。児童福祉法では、『児童』は18歳までと決められています。社会サービスを受けるときは18歳が境目です。

「身体障害者手帳」「障害福祉サービス受給者証」を取得

身体障害者手帳を取得すれば、車いすや補装具、交通機関の割引、医療費の助成を受けられます。
障害福祉サービスを受ける場合、児童で障害児入所施設を希望するのであれば、児童相談所に申請します。通所支援であれば市町村への申請です。
大人で障害福祉サービスを受ける場合も、市町村へ申請します。訪問系のサービス、日中活動系のサービス、居住系のサービス、地域相談支援のサービスが受けられます。

在宅の諸手当を取得

入所ではなく、在宅の場合には諸手当があります。市町村の障害福祉担当窓口に申請しましょう。
大人(20歳以上)は、特別障害者手当として月額26,940円が受けられます。
20歳未満の子どもには、障害児福祉手当と特別児童扶養手当(1級・2級)があり、月額で合計すると1級では66,350円、2級では49,080円が受けられます。
児童手当は在宅・入所にかかわらず、15歳まで支給されます。
*いずれも2018年9月時点。所得制限があります。

障害基礎年金を受けよう

障害者手帳があれば、20歳の誕生日の前後3か月から障害基礎年金を受けられます。市町村の年金課か年金事務所に申請しましょう。1級の場合、年額で約98万円(2018年9月現在)が支給されます。

*20歳前の年金制度に加入していない期間に初診日がある場合は、保険料納付要件はありません。大人の方には納付要件がありますので、注意しましょう。
詳しくは日本年金機構ホームページをご覧ください。
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/shougainenkin/jukyu-yoken/20150514.html

医療費軽減のために、「小児慢性特定疾病」を活用

2018年4月から、筋強直性ジストロフィーも小児慢性特定疾病に追加されました。
これに加えて、大人も子どもも重度心身障害者医療給付、難病医療助成制度(指定難病)で医療費を軽減することができます。
小児慢性特定疾病はすべての病院で使えるわけではありませんが、負担軽減に有効なので、児童の場合はできるだけ小児慢性特定疾病での医療費軽減を受けましょう。18歳未満までが対象なので、17歳までに取得していれば、20歳まで延長できます。

「患者と家族が安心して治療を継続するには、お金が必要です。自分が得ることができる制度・軽減できる制度を知り、申請しましょう。」と原田先生は話しています。

子どもを育てるパパ・ママも、定期受診で健やかに

子どもの将来のためにも、親の定期受診が大切

DM-family副理事長で、2018年度から愛媛大学大学院医学系研究科 老年・神経・総合診療内科に勤務している明地雄司は、自身が筋強直性ジストロフィー患者です。
国立病院機構 刀根山病院の松村剛先生からご指導いただき、同じ病気を持つ患者として、医師として、明地は母親たちに向けて自身の病状を説明しました。

早期発見をすれば、対処できるものが多いのです。」筋肉、合併症の例を挙げ、何をすべきか端的に伝えた後、「ぼく自身は、今はまだ軽症ですが、年に1回、刀根山病院に入院して検査をしています。年1回の検査入院という方法もありますし、弟は3か月に1回、神経内科で診てもらっています。入院が必要というよりも、定期的な受診が必要です。」

軽症であっても、親の患者登録も大切

患者登録は治験をスムーズに行うためのもの。そして「日本にも患者数が多いことを世界中に証明できる」手段でもあります。
また、「親が患者登録をしてデータを残していくことで、子どもの世代に役立つ研究が可能になります。」と明地は同じ世代の親たちに語りかけました。

海外に向けて、日本にも多くの患者がいることを示す

海外でも治療法開発は盛んに進んでいます。筋強直性ジストロフィーの国際学会IDMC-11に日本からの患者会として初めて参加したDM-familyは、明地のスピーチをはじめ、展示を行い、日本の患者の存在を示しました。
学会参加者からは「日本には患者が何人いるのか?」と質問されることが多く、日本にも患者がいることが十分に知られていないことがわかりました。

製薬企業にも患者数を示す

国際学会には製薬企業も参加していました。「薬の開発に巨額の投資をしている製薬企業にとっては、投資を回収することが大事です。患者登録が盛んな国は、薬が売れそうな国ともいえ、そこで治験をして、多く売りたいと考えています。」国際学会の体験から、明地は患者と家族に納得感のある説明をしました。

患者だからできること、「患者登録」が重要。来年はIDMC-12へ

2017年、東京で初めて行った「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会」の様子をIDMC-11で展示しました。日本の患者を知らない参加者にとって、先天性の子どもたちが大勢集まっている様子は大きな関心を引きました。
2019年はスウェーデンで国際学会IDMC-12が開催されます。DM-familyも参加して、日本の患者の存在を示し、国際的な輪を広げていきます。
札幌での写真撮影に応じてくださった参加者のみなさまに、この場を借りてお礼を申し上げます。

毎日しよう!親子でできるストレッチなど

ストレッチは「少しでもいいので毎日」。痛い、嫌いという印象を持たせない

国立病院機構 八雲病院の三浦利彦先生から、ストレッチと呼吸リハビリについて詳しい説明を伺うことができました。
ゆっくり伸ばして、10秒止めるのを3回くらい繰り返しましょう。「1週間に1回、病院に行ってストレッチをするだけではなかなか効果が出ません。少しずつでもいいので、毎日できるような習慣づけが大事です。」と三浦先生。
特に習慣づけたいのはアキレス腱のストレッチです。


実際にデモをしていただきました

普段の姿勢が大切

スマートフォンやゲームで1日中の姿勢が悪いと、変形が進んでしまいます。目の高さでゲームができるように、椅子に段ボールなどをはさむなど悪い姿勢にならない工夫をしましょう。

きちんと咳ができていますか?ピークフローメーターで定期的に測る

呼吸筋の筋力低下には、呼吸の理学療法が必要です。
専門病院では、弱くなった咳の力をどう強くするのか、症状に合わせて相談できます。
12歳以下の子どもの場合、「風邪の治りが悪いな」と思ったら相談してください。

咳を介助する方法

咳の介助には、徒手によるもの、機械を使うものがあります。三浦先生は図解で介助方法を示してくださいました。
「機械を使った介助は、お子さんが嫌がらないように練習しましょう。最初はマスクを付けるだけでもいいのです。きょうだいで一緒にやってみるなど、慣らしていく工夫が必要です。」多くの子どもたちを診察している三浦先生ならではのアドバイスに、親たちも納得。
いずれの介助の方法も個人差があるので、最初は専門病院で指導をしてもらいましょう。

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