「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 福岡」レポート(2):筋強直性ジストロフィー治療薬治験が間近に
2019年9月22日(日)、「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会in福岡」の午後の講義は間近に迫った治療薬治験、子どもと大人の社会サービスについて、親子でできるストレッチ実演と充実した内容が続きました。
ストレッチのデモを見るために集まる参加者たち
治験の準備は着々と。「患者登録」で治験の参加、製薬企業へアピールを
午後の部は大阪大学 中森雅之先生から「治療薬の開発状況と、親子でできる患者登録」をお話しいただきました。
筋強直性ジストロフィーの治療戦略
筋強直性ジストロフィーはDMPK遺伝子においてCTG塩基の繰り返しが伸び、異常なRNAが核内にたまってヘアピン構造になります。そこに生体の維持に重要なタンパク質が吸着されてしまい、さまざまな器官で正常の機能をはたすタンパク質が合成できず、筋強直、筋萎縮、不整脈といった不具合を起こすようになります。
そこで、筋強直性ジストロフィーの治療戦略は大きく二つに分かれます。
ひとつは、核酸医薬によってタンパク質が吸着されているヘアピン構造部分を分解すること。
もうひとつの治療戦略は低分子化合物によってタンパク質の吸着をブロックするという方法です。
日本での治療薬開発の現状
筋強直性ジストロフィー治療薬開発の方法としてドラッグリポジショニング戦略があります。
他疾患で使用されている薬剤で、筋強直性ジストロフィーに有効なものを探し出して治療に使う方法です。治験の最初に行う第1相(健康な人に投与して安全性を確認する)からではなく、第2相(少数の患者に投与して安全性と有効性を確認する)から開始できるため、より早く治療薬を手にすることができると考えられています。
ドラッグリポジショニング戦略によって筋強直性ジストロフィーの症状に有効性が認められたエリスロマイシンは、2019年度から成人の筋強直性ジストロフィー患者に向け、治験の準備が着々と進んでいます。
※エリスロマイシンは、治験による有効性・安全性が証明され、治療薬として承認されるまでは筋強直性ジストロフィーの治療法として服用するのは控えてください。
「患者登録があっての治験」
「患者登録がないと、どんな治験も何も進みません」と中森先生は患者登録と製薬企業へのアピールの重要性についてお話しされました。
製薬企業から患者登録数が少ないと判断されると、治験に協力的にならない場合もあります。
また、患者登録をすることによって今回のエリスロマイシンの治験のように治療薬の研究・開発といった情報が手に入るようになります。
治験を円滑に進行するためにはただ「待つ」のではなく、わたしたち患者と家族も行動を起こすことが大事です。
小児から成人まで切れ目のない支援を
難病相談支援センター 小児慢性特定疾病児童等自立支援員 後藤和代先生の「子どもに向けた社会サービス」では、後藤先生が普段活動されている小児慢性特定疾病児童等自立支援事業について、わかりやすい説明がありました。
小児から活用出来る社会サービス
小児慢性特定疾病児童等自立支援事業とは慢性的な疾病を抱える18歳未満(引き続き治療が必要であると認められる場合は、20歳未満)の児童を対象とした医療費助成と自立支援事業です。
医療受給者証を検討している家族に向けて、小児慢性特定疾病の認定医に子どもが対象になるかを確認することが勧められました。
平成30年4月1日に、「その他筋ジストロフィー」として筋強直性ジストロフィーも小児慢性特定疾病に認定されています。
https://www.shouman.jp/disease/details/11_19_048/
また、難病の子どもとその家族の立場になり、教育機関や医療機関などに連絡調整、情報共有必要に応じて電話や面接相談、家庭訪問や地域に出かける療育相談などを行っています。
医療受給者証に関することはお住まいの地域の保健所へ
日常生活用具などの福祉サービスについてはお住まいの市町村窓口へ
それぞれ相談してください。
*各自治体で対応が異なる場合があります。
自立支援のネットワークを活かして継続支援も
小児慢性特定疾病児童等自立支援員は毎年行われる研修会で全国の支援員と交流機会があるため、県内外に転出、転入される子どもの継続支援をしていくことも可能です。
何か困りごとや尋ねたいことがあればお住まい地域の小児慢性特定疾病児童等自立支援員に気軽に相談しましょう。
小児慢性特定疾病情報センター 各自治体担当窓口はこちらです。
https://www.shouman.jp/support/prefecture/
多くの味方を集め、自分に合う仕事を考える
難病相談支援センター 青木 惇先生から「大人に向けた社会サービス~仕事を中心に~」をお話しいただきました。
障害者手帳がなくても支援を受けられる。自分に合った支援制度を活用
難病相談支援センターでは、就労に向けた準備段階の支援を行っています。
公共職業安定所の障害者の専門援助窓口のほかに就業面・生活面の一体的な相談支援を行う障害者就業・生活支援センター、障がい者就労支援センターがあります。
また、難病のある人は障害福祉サービスの就労系障害福祉サービスを利用することが出来ます。
就労支援制度のほかにも、障害者手帳での各種料金の減免や金銭的な助成制度として障害年金もあります。
障害年金は、病気で生活や仕事が制限される状態であれば、現役世代でも・障害者手帳がなくても受け取ることができます。あらかじめ年金の納付をきちんとしておくことが大事です。
自分にあった支援制度を見つけて利用し、味方を多く作りましょう。
ICTの発展で様々な働き方が可能に。自分の情報をまとめてみましょう
まず、自分にとって就労に関する課題を整理します。
主治医にも確認しながら、自分の病気についてきちんと理解しておくことが仕事を探す第一歩です。
その上で、自分の病気に関する情報を説明するための「病気の説明シート」を作成します。声に出して読んでみて、相手がわかるかどうかを試してみましょう。
職場に病気のことを伝えるときはメリットとデメリットがあること、その上で双方が理解し、「お互い様」と言える環境作りが大事です。
また、テレワークの広がりによりICT(情報通信技術)を活用し、時間や場所を有効に活用できるさまざまな働き方が可能になってきました。
病気とあきらめずに、使える支援や制度を活用していきましょう。
「出来ることは自分で」毎日ストレッチをする習慣づけを
最後の講義は九州中央リハビリテーション学院 浪本正晴先生の「知っておきたいストレッチと呼吸リハビリ」は実際にDM-family会員の子どもに協力してもらい、ストレッチの実演を含めてお話しをいただきました。
子どもが嫌がらないストレッチを根気よく
先天性筋強直性ジストロフィーの子どもの場合、筋強直と筋ジストロフィーの症状が強くないことから筋緊張低下と筋の未熟性による筋力の低下が主症状です。
変形・拘縮による筋力低下→生活機能障害という負の連鎖を止めるため、毎日のストレッチが必要です。
浪本先生のストレッチの実演ではストレッチに入る前に、緊張が強い筋を緩めるところから始めました。
この病気の子どもたちは特にアキレス腱の緊張が高く、内反尖足になっている子どもは筋を緩めてから伸ばすストレッチを根気よく繰り返すことが大事です。
毎日少しでも動かすことが大事なので、その子にあったストレッチ法を見つけていきましょう。
おうちで出来ることはたくさんある!咳を強くしましょう
体のストレッチのほかに呼吸器系の問題を多く見られる先天性筋強直性ジストロフィーの子どもたちは呼吸筋の筋力低下から咳をするために必要な呼気の流速がえられずに痰がうまく出せないことが多いです。
咳がきちんと出来ているかは感染症の感染リスクにも大きく関わってきますので普段から息を吐く練習、深呼吸をして呼吸の予防も必要になってきます。
咳が弱い子どもには咳を強くする介助法を病院から指導を受けて取り入れましょう。
人工呼吸器を装着する前に咳を強くする介助法を親と、あるいは子ども自身で継続していき呼吸状態を安定させることが重要です。