ほかの子はどうしているのだろう?:会員限定Zoom談話室「先天性・小児期発症の子どもをめぐる研究と会話」レポート

2021年10月31日(日)、筋強直性ジストロフィー患者会会員で、お子さんが先天性・小児期発症筋強直性ジストロフィー患者である方に限定した、Zoom談話室「先天性・小児期発症の子どもをめぐる研究と会話」を開催しました。28名が参加し、専門医からのご講演を聴講後、懇談を行いました。

開催に先立ち、世界の患者会が協働し、9月15日が「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」として制定されたことについて、当患者会の妹尾みどり事務局長から説明を行いました。

本疾患は、ひとつひとつの国における患者数は少ないかもしれませんが、世界全体では多くの患者がいます。この病気の未来を変えるために、世界中から「治りたい」という声をあげることが大切です。国際協調により、世界中の患者、家族、一般市民、医師、製薬企業の方々と共に、この病気の未来を変えていきましょう。

今回は、東京女子医科大学病院 小児科の七字美延先生から、「本邦における先天性/小児期発症 筋強直性ジストフィーの患児の養育に対するアンケート調査結果報告」と題し、ご講演いただきました。
このアンケートは、複数の病院が共同して「患者の声」を集める研究として行われたもので、本患者会からの28名が調査に協力し、令和3年度第63回日本小児神経学会学術集会でその結果が報告されました。

まずはこの病気の「基本のキ」から

この病気の名前は「筋強直性ジストロフィー」です。
「筋ジス」という総称では、「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」や「福山型筋ジストロフィー」など、別な病気と区別がつきません。

子どもたちの症状は、病気ごとにまったく異なるため、支援を受けるときに子どもたちの病気を正しい名称で呼ぶことは基本中の基本です。

筋強直性ジストロフィーは「DM」と呼ばれることもあります。

やや特徴的な病態を示すことから、筋力低下に代表される臨床症状が見られる時期により、「先天性筋強直性ジストロフィー」「小児期発症筋強直性ジストロフィー」と分類されます。それぞれの特徴は以下のとおりです。

【先天性筋強直性ジストロフィー】

  • 95%で母が筋強直性ジストロフィー患者
  • 筋強直性ジストロフィー患者全体の 7~8%を占める
  • 全身性筋緊張低下、呼吸・哺乳障害等が特徴
  • 多くのお子さんで症状は改善するが、発育・発達遅滞を伴って発生
  • 妊娠・出産を契機に、母自身が筋強直性ジストロフィーと診断されることも少なくない

【小児期発症筋強直性ジストロフィー】

  • 出生時の呼吸不全や嚥下障害はない
  • 運動発達や言葉の遅れで気づかれることが多い
  • こだわりが強く、自閉傾向が目立つお子さんが多い
  • 思春期にかけ筋力低下は改善し、青年期ごろから筋症状が低下する

実際、家族はどのような情報提供や医療を求めているのか

前述のとおり、筋強直性ジストロフィーのお子さんははっきりとした症状が現れますが、母親自身は非常に軽微な症状の方が多いです。

よって、お子さんの診断をきっかけとして、母親自身が筋強直性ジストロフィーであると診断されることも多いのが、本疾患の特徴です。

その時、お子さんの診断によるケアや病気への心配、お子さんの体調の心配、将来に向けた育児の不安があると思いますし、きょうだい児を含む家族の生活への影響、母親自身の診断のショックや体調不安が生じてくることが想定されます。

そこで、診断から養育環境における実態を把握し、実際に家族がどのような情報提供や医療を求めているのか調査されました。

(1)診断と告知について

母親自身が筋強直性ジストロフィーと診断された年齢について、20-30歳は4名、30-40歳は7名、40歳以上は3名であり、そのとき、妊娠中は2名、出産後は9名でした。 また、先天児の母親は、54%がお子さんの診断をきっかけとして、自身が診断されています。

また、先天性のお子さんでは、周産期から乳児期から徴候がある一方、小児期発症のお子さんでは乳児期にはトラブルが少なく、発達の遅さが診断の契機となっていました。

お子さんへの告知にあたっては、

  • ショックな内容であり、適切な時期はない
  • 今後の経過や、できれば希望が持てる情報提供をしたい
  • 正しい情報と知識を提供したい

等の意見がありました。

(2)就園・就学について

特に就学前は、療育だけではなく保育園や幼稚園と平行して療育を行う家庭もありましたが、保育園や幼稚園のみで療育を利用していなかった家庭が多くありました(下図、緑色部)。

また、小児期発症型のお子さんでは、就学後は普通級に通った方がおられます。幼児期になるべく健常児と触れさせ、発達を促したいという意見が多数でした。

(3)社会支援や受診について

在宅サービスの利用について、小児期発症型のお子さんでは利用がほとんどありませんでした。

先天性のお子さんにおいては、在宅医を利用されている方はおられず、乳幼児期のみ訪問看護を利用した方がおられました。

また、小児期発症型・先天性のお子さん共に、PT(理学療法)、OT(作業療法)、ST(言語聴覚療法)を利用されている方が多数です。なかでもSTを導入している方が多く、言語発達の不安がある、との回答が多数であることから、その要因となっていることが示唆されます。

(4)養育における困難さ

お子さんの言語発達遅滞やコミュニケーションの改善に取り組みたいという意見が多く、また、お母さんが車の運転ができないなかでの通学支援・通院支援や、母子が一緒に受診ができる等の通院負担の軽減など、体調不良であるなかで育児をするお母さんへの社会支援を求める意見が複数ありました。

アンケート結果を受けた、支援の充実・拡充に期待

上記ご報告に続き、本アンケートとほぼ同時期に行われた「本邦における筋強直性ジストロフィー患者の医療的ケアの実態」についても、先天性と小児期発症の回答結果を中心にご報告いただきました。

本疾患は同一家族内でも、成人発症・小児期発症・先天性と、発症時期により異なる病型を示し、症状が多様であることから、医療支援のニーズも様々です。そこで、全年齢層の患者(神経・筋患者登録(Remudy)の登録患者、および、神経筋疾患専門医の診療を定期的に受けている患者)を対象とした医療ケアおよび治療の実態を問う、包括的な全国調査が実施されました。

なお、本報告においては、

1群:先天性(生後4週内発症)
2群:乳児型(1~12か月時発症)
3群:小児型(1~19歳時発症)

としています。

1.診断契機となった主要症状

先天性(1群)では新生児仮死を含む周産期異常が約4割を占めました。一方で、母の診断が契機となった方は少ない結果となりました。先天性筋強直性ジストロフィーでは、9割以上の母が罹患者ですが、児の診断を契機に母の診断に至ることも多く、この結果に反映されていると考えられます。

小児型(3群)では指の動きにくさが3割と多く、成人型と同様の結果となりました。なお、症状に気づかれた年齢の平均は14歳ごろでした。

2.自覚症状(アンケート回答時)

指の動きにくさ、易疲労(疲れやすさ)は各群に共通した症状でした。

※アンケート回答時、先天性(1群)の回答者で学齢期に達している場合もあり、先天型としての特徴よりも、学齢期ごろから経験される症状が回答に反映されている可能性もあります。

3.神経筋疾患の専門医の定期受診の有無

対象者の17%が神経筋疾患の専門医の経過観察を受けていませんでした。その理由として、「専門医のいる病院が遠すぎる」であり、その半数は3時間以上通院にかかる、とのことでした。また、専門医がいる病院を知らない必要性を感じない方もおられました。

4.リハビリテーション

先のアンケート結果と同様に、特に1群において、理学療法を行っている割合が高い傾向にありました。先天型では足関節の拘縮、筋力低下、運動発達遅滞に対する機能維持、発達促進を要し、他の病型と比べて理学療法の重要性が反映されていると言えます。

5.情報提供とサポート

「筋強直性ジストロフィーの予後の説明」については約半数、「病気に対する資料の紹介」については約4割が充分な支援を得たと感じていますが、疾患そのものの経過ではなく、子育てや家族計画といった随伴する社会的な支援に対しては、充分な支援を得ていないと感じている方が多く見られました。

<本アンケート結果を受けた医療者側の気づき>

小児では、発達や就学、就職など、成長応じた社会環境の変化成長に伴う本疾患の進行養育者であり筋強直性ジストロフィー罹患者である家族の病状に応じた医療支援、社会支援の提供が望ましい、という結果になりました。

これにより、患者のニーズ(要望)や病気の正しい情報を知る機会の必要性、拠点病院の情報提供の必要性などといった課題を確認することができた、とのことです。

このように生の声を積極的に聞き入れていただく取り組みには、深く感謝申し上げるとともに、これらの結果が、より一層の患者、患者家族等への支援につながることを期待致します。

当事者同士だからこそ、分かり合える。寄り添える。

七字先生からのご講演のあと、同じく東京女子医科大学 石垣景子先生も加わり、参加者同士でグループに分かれて懇談を行いました。懇談の場には両先生にもご参加いただき、盛況のうちに終えることができました。その際の話題の一部を以下に示します。

  • 側弯等の手術について
  • 自身の復職を検討しているが、保育園が受け入れてくれるか心配
  • 通常のこども園等への入園、支援学校への入園、デイサービス選択などいくつかある選択肢から、どのような基準で、どう選択するのか?
  • 子どもとコミュニケーションが取れないがやっていけるか
  • 子どもの将来の就労について
  • 未発症の兄弟について、遺伝の検査を受けるべきか?いつ告知するべきか?

同じ病気の遺伝子をもつ親自身の受診も大切です。

かけがえのない我が子にとって、親自身も子どもにとっては、かけがえのない存在です。今回の質問にもありましたが、「自覚症状はないものの、この病気の遺伝子を持っている自身について、どのように病気と付き合えばよいか?」ということをよく耳にします。

この病気は筋力低下の他に、不整脈等の心疾患や呼吸器疾患など、命に関わる合併症もみられます。これら症状は自覚が無いまま徐々に進行することも多いため、病気の遺伝子をお持ちの方は、未発症時からの定期健診が推奨されます。

合併症の中には治療できるものも多く、早期に発見し対処することが非常に大切です。同時に、神経・筋疾患患者登録(Remudy)を行うことで治療薬開発にも役立てられます。お子さんに、治せる薬を与えるためには、親が自身の病気と正しく向き合い、管理することが大事です。

<最後に>

七字先生、石垣先生にはご講演後の懇談の時間にもご参加いただき、質問にも非常に丁寧にお答えいただきました。お忙しい中ご協力いただきましたお二人の先生に、心より感謝致します。ありがとうございます。

当患者会では、これまでにも筋強直性ジストロフィーのお子さんに焦点を当てた勉強会等を実施してまいりました。お子さんをテーマにした企画には毎回多くの反響があり、その関心の高さを実感致しております。

今回は講演に加え、親同士の懇談を実施致しましたが、参加のみなさまにとって、良い機会になったではないかと思います。この参加に留まらず、会員限定のウェブページなどを通して、親同士での情報交換等・交流が進み、みなさまの生活が豊かになるきっかけとなれば幸いです。

成人に多い筋強直性ジストロフィーですが、わたしたちDM-familyは、先天性・小児期発症筋強直性ジストロフィーの子どもたちを置いていくことはありません。

ともに、病気の未来を変えていきましょう。