ドラッグ・ロスは、今ここにある現実:筋強直性ジストロフィー患者会、IDMC-14に参加
2024年4月9日~13日の国際筋強直性ジストロフィー会議「IDMC-14」に、筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)からは、会を代表して明地雄司副理事長、高橋真明IT担当、妹尾みどり事務局長が参加しました。
左から、DM-family顧問の国立病院機構大阪刀根山医療センター 松村 剛先生、大阪大学大学院 高橋正紀先生、DM-family妹尾みどり、明地雄司、高橋真明
英語版DM-familyサイトを公開。「日本の患者団体が、やっとわかった!」
IDMC-14では、スポンサーだけに会場展示用テーブルが用意されました。設立して10年も経たないDM-familyには、すぐにスポンサーになれるような資金はなく、渡航費は助成をいただいたものの、それ以上はいただいたご寄付と会費を活用するしかありません。
スポンサーにはなれない。しかし、参加している方には日本の患者と家族を知ってほしい。
そこで、開催に先立ってDM-familyの活動を見せる英語サイトを制作。QRコードをつけたカードタイプのフライヤーを用意し、「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」のロゴバッジをつけて、会場で配布しました。
会場で挨拶をしながら「日本からのお土産です」と渡すと、多くの方から「これまで日本の患者団体が何をしているのか、よくわかってなかったけれど、英語ならわかる!」と言われました。
「日本語のページだと読めないし」「日本の患者さんたちの顔が見えて、素晴らしいね」「このバッジ、すぐつけるね」と参加者に喜んでもらうことができました。
英語サイトはこちらです。
「Euro-DyMA pharma’s day」に参加
IDMC-14開催前の4月9日早朝に、EUの患者団体連合「Euro-DyMA」が参加者限定で主催した「Euro-DyMA pharma’s day」に参加させていただきました。
現在、治験を開始または治験を間近にしている各国の製薬企業が、主要な研究者や臨床医、患者団体にプレゼンテーションを行う会です。Euro-DyMAの理事長、アラン・ジールさんはフランス在住ですが、EUで協力してIDMC-14会場近くに別途の会場が用意されました。
PepGen(ペップジェン)、AMOファーマ、Arthex Biotech(アルテックス・バイオテック)、アビディティ・バイオサイエンス、ダイン・セラピューティクスからそれぞれの開発品についてどのように作用するのかを解説しました。すでに治験を実施している企業からは、治験結果についても説明がありました。
AMOファーマは、IDMC-13にも来日したエミリー・ファンテリさんから「今後は(先天型筋強直性ジストロフィーだけでなく)成人型に向けた治験を行う予定」とのこと。アビディティ・バイオサイエンスのリー・タイさんは治験第3相を2024年に行うことに意欲を見せ、ダイン・セラピューティクスのアッシュ・ドゥガーさんは治験第1/2相での良好な結果を発表しました。
Euro-DyMA pharma’s day参加者の記念撮影。中央が主催者のアラン・ジールさん
IDMC-14会場でも、製薬企業各社と懇談
IDMC-14会場で、あらためて各社とご挨拶しました。どの企業の方も、日本の患者団体であるDM-familyを歓迎していただきました。
アビディティ・バイオサイエンス リー・タイさん、社員のみなさんと
ダイン・セラピューティクス アーロン・ノヴァックさんと
ペップジェン ジェーン・ラーキンデールさん、アライナ・トレスさんと
バーテックス・ファーマシューティカルズ フィリップ・ラリマーさんと
ある企業の方から、「日本の患者のアドボカシーに興味があるけれど、どんなことをしたらいいかな?」とお話しをいただき、明地副理事長から「御社で開発している薬の仕組みが知りたいです」と答え、大変喜ばれました。
各国患者団体とともに
初日に「Euro-DyMA pharma’s day」を主催したアラン・ジールさんにも、あらためてお礼を申し上げました。
イギリスCure DMのエマ・ジェイン・アシュレイさんとは会場の片隅で、今後のコラボレーションについて打ち合わせ。国の違いはあっても、知恵を出し合って現状打開を考えています。
IDMCにいつも参加している、Euro-DyMAのマーク・ヒースさん。明地副理事長から声掛けし、今後もメール交換することになりました。
国際筋強直性ジストロフィー連盟でも親しくしていただいている、筋強直性ジストロフィー財団(MDF)ターニャ・スチーブンソンさんともパチリ。ターニャさんが「チューリップと一緒に写るといいかも」と言うと、すかさず明地副理事長がチューリップの花瓶を持ちました。
4月13日には、ファミリー・デーにも参加
IDMCで恒例の、最終日「ファミリー・デー」はオランダ語のみで開催されました。
通訳はありませんが、海外の患者と家族に会い、どんな会を開催しているのか知りたいと考え、参加を認めていただきました。
会場では、参加していた方から音声通訳アプリを紹介していただき、オランダ語と日本語で会話を楽しみました。
どの国でも、基本は一緒。患者と家族への知識提供と研究参加
ラドバウド大学の先生方も出席され、患者と家族に向けて遺伝子の知識をはじめ、先天型筋強直性ジストロフィーやケアについて、さまざまなレクチャーがありました。
支援者や患者団体からのプレゼンテーションに続いて、ラドバウド大学のリック・ヴァンシンク先生から、遺伝子を治療するための戦略と、世界中で治療薬開発が進んでいることが示されました。
「研究は、みんなで山に登るようなもの。病気について、まだすべてがわかっているわけではありません。わたしたちは、忍耐強く研究していきます。だから、患者さんたちも忍耐力を持ってください。それが結局は、うまくいくことにつながります。希望を持ち続けてください」と話されました。
「ドラッグ・ロス」は、今ここにある現実
レクチャーは、ほぼ日本でも同様に行われるものでした。しかし午後は一転し、日本には未だない各国製薬企業の「治験」について具体的な説明が、ラドバウド大学のヨースト・クールズ先生からありました。
治験の段階についての説明では、細胞や動物実験による前臨床があり、健康な人が試して安全性を確認する第1相があることから話が進みました。その後の第2相では、患者さんを数十人くらいのグループにわけて、安全性を確認しながら最適な投与量を探していきます。そして、長期にわたる安全性と正しい投与量がわかったところで、第3相に移行します。第3相では大規模な国際共同治験になることが多く、この段階でも、ほとんどの場合がプラセボか実薬か、どちらが患者に投与されるかわからなくした試験です。
さらに、治験における「選択基準」と「除外基準」について丁寧な説明がありました。
「選択基準」とは、該当する治験に必要な患者の基準です。どの治験でも、患者は遺伝子検査がされ、リピート数がわかっていることが前提です。そして有効性を確認するために、筋力低下(多くの場合、ミオトニア)がある患者を参加の基準としています。
「除外基準」とは、該当する治験に参加ができない患者を定めた事項です。たとえば、妊娠している方や、心臓や肝臓、腎臓などの症状によっては参加できない場合があります。
選択基準・除外基準は、より安全に治験を行うために設定されます。患者なら誰でもが招かれるわけではありません。(*各基準は、販売時に使える年齢や条件を示すものではありません。)
患者自身が同意でき、自分の時間を割いて参加できることが求められます。
「治験は、研究です。そしてひとつではありません。患者さんとわたしたちには試練の時です。」
そして、今の日本には存在しない「治験の年間計画」が示されました。
オランダで行う2024年の年間治験計画は、1月からダイン・セラピューティクス治験第1/2相、2024年夏以降にアビディティ・バイオサイエンス治験第3相、その後、バーテックス・ファーマシューティカルズ治験第1相、ペップジェン治験第2相が並んでいます。
「わたしたちはパートナーとして、あなた方を必要としています。」とヨースト・クールズ先生。
患者と家族は、患者みずからの体を使う研究(治験)について真剣に聴いています。恐れたり、ひるんだりする人は誰もいません。研究に協力して、この病気を治していくんだという強く、誇り高い意思が伝わる会場でした。
この発表が、なぜ日本ではできないのか?海外で治験が進んでいるのに、日本では治験がされない「ドラッグ・ロス」は決して遠い海の向こうの話ではなく、今ここにいるわたしたちの問題です。
隠れていては、いないのも同然
ファミリー・デーでは、オランダの筋強直性ジストロフィーの患者団体「MD Nederland」のヨルグ・ヴァン・ゲントさんから患者団体活動のプレゼンテーションがありました。
ヨルグ・ヴァン・ゲントさんと。
DM-family高橋さんとヨルグさんは同じく、妻と子どもが筋強直性ジストロフィーの患者です。
プレゼンテーションでは患者たちが自ら、「わたしは筋強直性ジストロフィーの患者です」と言い、「この病気は知られていない。医師さえも知らず、発見が手遅れになる」など、患者の声がダイレクトに伝わるビデオが流されました。
※YouTubeの字幕機能(PC)を使うと日本語でもご覧になれます。
※オランダ語では筋強直性ジストロフィーを「MD」と呼びます。
一方、日本ではどうでしょう。筋強直性ジストロフィーの患者であることを恥じ、家族から病気について口外するなと言われ、顔を写真やビデオに出したくないと逃げ、隠れるように暮らしている患者たちがまだまだいます。しかし、隠れていては、全世界の製薬企業からは日本の患者が苦しんでいることが見えません。
日本で起きている「ドラッグ・ロス」は社会問題です。そしてこの問題で、もっともデメリットを受けるのは患者と家族です。他国に負けずに「治療を受けたい」と声を上げることが、解決への原動力となります。
日本だけでなく、海外にも理解を広げるには
先ほど紹介した、MDFのターニャ・スチーブンソンさんと話をしていたとき、ふと「みどり、MDFの年次総会に来ない?」と誘われました。
2025年5月に開催されるMDF年次総会では、Euro-DyMAとの共同開催で治療薬開発のセッションがあります。
2025年のMDF年次総会について発表するターニャ・スチーブンソンさん
2026年には次回のIDMC-15がカナダのサグネで予定されています。2026年のIDMC-15に参加するための資金をどうしよう、と頭を悩ませていたときに、2025年のMDF年次総会のお申し出を受けて驚きました。「そんな資金はなくて・・・・・・日本にはアメリカのように、たくさんの寄付をくれる人が大勢いるわけではないのよ」と訴えると、ターニャさんが「みどり、台湾には筋強直性ジストロフィーだけの患者団体があるの?韓国には?中国には?」と訊かれ、「DM-familyはアジアで唯一の筋強直性ジストロフィーの患者団体」と明言されました。
ここまで言われて、EUも参加する2025年のMDF年次総会に、日本として行かない選択肢はありません。日本の患者が治療を待っていることをアピールし、患者団体同士で協力して、製薬企業に次の開発を考えてもらうように訴えなくては。たとえば、現時点で開発されている治療薬のほとんどが成人向けです。子どもにも使えるようにするためには、さらなる開発が必要になるのではないでしょうか。
さらに、2026年に開催されるIDMC-15にも参加し、ここでも日本の患者が研究に協力する姿勢を見せる必要があります。
日本の中で筋強直性ジストロフィーの啓発を進めていく時期でもあり、資金難に悩みながらも、今後の計画を立てていこう・・・と、すべきことを考えながら帰国しました。