「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 福岡」レポート(3):みんなに届け、患者会「DM-family」の力

2019年9月22日(日)、「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 福岡」では、DM-familyから同じ病気の子を持つ親が参加者に向けた講演を実施しました。

副理事長の明地雄司からは、患者として・医師として、親に向け、定期的受診と患者登録について力強い講演。

ランチ交流会は参加者との交流をはじめ、患者会の近況をお知らせするよい機会になりました。

先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 福岡
DM-familyのスタッフたち

子ども・自分も筋強直性ジストロフィー。それでも「明るく生きていく」

ランチ前、北海道から家族で参加した会員の浅野由美子が「我が子と私のこれまでの歩み」を話しました。

次女を帝王切開出産。子どもはそのままNICUへ…

浅野は次女の妊娠後、羊水過多による管理入院をし、帝王切開で出産しました。

大きな泣き声が聞こえ安堵した瞬間、子どもの声が止まり、酸素吸入、即座にNICUへ。翌日たくさんの管をつけられ、医師から「呼吸が止まります」「酸素を取り外すことができるかどうかわかりません」と告げられます。

「この先どうなるのか、優しさなしで言ってください」と詰め寄る浅野に、医師は「正直、ここから良くなる可能性は低い」「良くて、このままだろう」。

目の前が真っ暗になり、その後のことは覚えていないと浅野は語りました。

「呼吸障害」「低緊張」「哺乳障害」……症状をネットで検索しては泣き崩れる日々。

気持ちが沈む浅野を心から寄り添ったのはNICUの看護師との交換日記でした。

「生後1か月、保育器からベッドに移り、まだたくさんの管はついていましたが、かわいい産着をきて眠る我が子をやっと抱っこできた感動は今でも忘れられません」と当時を振り返り浅野は話します。

次女の病名確定。6年前も同じだった?

次女が「先天性筋強直性ジストロフィー」と確定したのは生後3か月のことでした。

浅野にとって最も恐れていた病名。ネットには、「1歳まで生きられない」と書かれていました。

そしてこのとき、浅野は6年前に女の子を出産したものの、生後1時間半で夫の腕の中で呼吸が止まったことを思い出しました。

「どうして元気に産んであげられなかったのか」

自身を責め、うつ病を発症し、口がきけなくなる状態。そこから立ち直り、待ち望んだ子どもは、6年前の子どもと同じ病気だったのでは……。

まさか、長女も

次女の病名が確定後、これからの症状についての説明を小児神経医から聞いたとき、浅野夫婦はいくつもの症状・性格が長女に当てはまることに気づきました。

長女の遺伝子検査を決行し「小児期発症筋強直性ジストロフィー」ということがわかり、自閉症スペクトラムなどの症状に対して心と体の両方の治療を始めました。

長男の活躍

次女は生後4か月、口からの哺乳ができるようになって退院。やっと家族の時間が過ごせるようになりました。次女のまわりに、常に家族が集まるようになります。

長男は次女を「僕が抱っこする!」といい、先生や友達に自慢しました。友達が触ろうとすると「この子は体が弱いから、手をきれいに洗ってから!」というほど。

長男は筋強直性ジストロフィーの病気の仕組みを自由研究として取り組み、患者会の学会展示にも参加しました。

自ら進んで家族を支える長男の姿に、当日の会場からは「すごいな……」と感嘆の声があがりました。

家族の支えに反して進む病状。うまくいかない日々に夫と衝突と和解

そして、浅野自身も筋強直性ジストロフィーの症状が出るようになりました。

疲れがたまり、日々の家事も満足にできないことも多く、夫との些細なことで衝突。

実母は「言い争いも必要。その後良い結果が出ることもあるんだよ」と浅野に言い、夫と和解し、できる範囲でサポートしていくようになったと言います。

子どもたちを「明るく育てよう」

現在、浅野の長女は小児期発症筋強直性ジストロフィーの治療として体と心の治療に専念しつつ小学校に通っています。

次女は週3回のデイサービスと医療型保育施設を活用し、リハビリにも励んでいます。

DM-familyの勉強会、勉強会で出会った人たちとの交流会、学会出展と積極的に家族全員で患者会活動に参加し日々を邁進する浅野。

子育てする上で「明るく育てよう」を胸にとどめて「出来ないことに嘆くのではなく、出来ることを家族で喜び、笑顔のある生活を過ごすこと」が支えてくれている方々にとっても大切だと話しました。

最後に、「生まれてきてくれてありがとう」と浅野の言葉に会場は拍手であふれました。

講演後、会場で次女を抱き上げる浅野。母の呼びかける言葉に手を挙げる様子のかわいらしさに和みました。

ランチ交流会にて「情報をシェアしよう」

ランチ交流会は、お昼ごはんを食べ終わるくらいからゆっくりと始めました。

参加者一人ひとりがマイクをもち、名前、住んでいるところ、趣味について自己紹介をしました。

同じ先天性筋強直性ジストロフィーの子どもを持つDM-family東京会員から会場の参加者に、大阪の勉強会で話題になったPECSを用いたコミュニケーション方法が紹介され、みんなで知識をシェアしようと呼びかけました。

子どもの将来のために親も「元気で長生き」

午後の講義の中盤、DM-family 副理事長であり、愛媛大学医学部附属病院に勤務している明地雄司は国立病院機構 刀根山病院 松村剛先生の指導・監修のもと母親たちに向けた講義「子どもを育てるパパ・ママも定期受診で健やかに」を話しました。

自身も筋強直性ジストロフィー患者である明地 は年に1回刀根山病院にて全身の検査入院をしています。

講座では実際に明地が勤務している病院での医師としての体験を交え、全身疾患といわれるこの病気の合併症についても説明しました。

親も定期的に受診・検査で多彩な合併症に対して早期発見、早期対処することが「元気に長生きする」につながります。

親も患者登録を

子どもだけを患者登録するのではなく、この病気を持つ親も患者登録をしましょう。

患者登録数が増えれば、未来をもつ子どもたちに治療薬を届けることにつながります。

子どもを助けるために、親自身も治験に参加でき、海外に向けて日本にも患者がいることを「患者登録数」という客観的なデータでアピールできます。

明地は重ねて患者登録の大切さを親たちに呼びかけました。

2021年、IDMC-13は日本開催決定

明地は2019年6月10日~14日までスウェーデンにて開催された筋強直性ジストロフィー国際学会IDMC-12に参加し、日本の先天性児に向けた活動を海外にアピールしてきたことを報告しました。

世界中で筋強直性ジストロフィーの治療法や、日常のケアについての研究が進んでいます。IDMCは、2年に一度、その成果を国際間で議論する場です。

そして、IDMCは患者が開催を希望したからスタートした学会でもあります。そのため、最終日はファミリーデイ(患者と家族の日)を行うことが慣例となっています。

2021年、IDMC-13は日本で開催されることが決まりました。

「是非、みなさんで集まってIDMCを盛り上げていきましょう!」

明地は会場の患者と家族に呼びかけ、日本にも治療を待つ患者がいることを世界に発信していく強い意志を見せました。


「先天性筋強直性ジストロフィー 親子のための勉強会」は、公益財団法人 小林製薬青い鳥財団さまの助成を受け、2018年から2019年にかけて札幌・大阪・福岡で開催いたしました。
助成をいただきました小林製薬青い鳥財団さまに、心より感謝を申し上げます。


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