自治医科大学医学部で会員3名が講義を行いました

2018年6月6日(水)、筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)は自治医科大学医学部6年生のみなさんに患者の声を聞いていただくため、3名の会員が講義を行いました。当日は100名以上の学生さんが参加され、熱心に聴講していただきました。

この講義は、自治医科大学神経内科学教授 松浦徹先生からのお申し出によって実現しました。
筋強直性ジストロフィーは、世代を問わず患者が存在し、症状も多種多様。それを実感していただくには、さまざまな患者自身の体験談が必要と考え、3名の会員でお話しさせていただくことにしました。

当日は先天性筋強直性ジストロフィーの子どもを持つ親として宮部沙紀、医療用HALによるリハビリを体験した佐藤美奈子副理事長、そしてさまざまな内臓疾患を経験している籏野あかね理事長が登壇。3名とも慣れない講義に際して、数か月前から発表内容の準備を重ねてまいりました。


左から、宮部沙紀、佐藤美奈子、籏野あかね

講義の前に、松浦先生から「筋強直性ジストロフィー」についてお話しがありました。松浦先生はこの病気に関して長くご研究をされており、患者でも理解が難しいこの病気の説明をいただき、その後に話をする患者たちは安心して臨むことができました。

親子ともに患者。しかし「親だから最後まで希望は捨てたくない」

宮部沙紀から「先天性筋強直性ジストロフィー-誕⽣〜病名がわかるまで、そして成⻑-」と題し、話を始めました。「学生さんに先天性の患児がどんな子供か見てほしい」という強い希望から、当日は4歳になるお子さんを演壇で紹介しました。

お子さんは生後1か月、NICUに入院していました。1歳まで病名が確定せず、3度にわたる病名予測に不安な日々を過ごしていたと言います。

先天性筋強直性ジストロフィーの子どもの多くは、母親も同じ病気の患者です。
「子どもが歩けるようになっても、症状が進行したら、いつかは歩けなくなるのでは。」
「母親自身も、いつかは子どもの世話ができなくなるのでは。」
病気に向き合わなくてはならない苦悩を持ちながらも「親だから、最後まで希望は捨てたくない」と、少しでも子どもが生きやすいように育て方を模索していると話しました。

そしてわずかな成長であっても喜びがあること、医師の何気ない言葉で救われることなど、これから医師になる学生のみなさんに知っておいてほしいという気持ちをこめた発表を行いました。

医療用HALによる機能改善効果を発表

佐藤美奈子副理事長は、「意識が変われば、体も変わる-HALを体験して-」と題し、医療用HALの効果を発表しました。佐藤は国立病院機構 仙台西多賀病院で2度、各27日にわたる入院で医療用HALによる機能改善治療を受けています。

1度目の入院で姿勢改善、歩行距離が伸びるなどめざましい成果を出したものの、2度目の入院は多くの筋強直性ジストロフィー患者が動きにくくなる冬を越えたばかりで、1度目で得られた機能は維持していないのではないか、と佐藤は不安に思っていました。
ところが、いざHALを装着し、治療を始めると、たった3日目で初回に獲得した数値と同じになり、最終的には1度目を超える結果に。患者である前に、ひとりの個人として、佐藤は数値を示して自身が体験した最新の治療を報告しました。

多くの内臓疾患を経て、専門医を受診

籏野あかね理事長は、「筋強直性ジストロフィーと多臓器疾患-どの診療科にも関係する病気-」で、自身が長年にわたり体験してきた多臓器疾患と、今の通院先にたどり着くまでの経緯を話しました。

「どんな診療科でも、筋強直性ジストロフィーの患者が、それと知らずに来るかもしれない。」
籏野は、整形外科医の問診がこの病気の診断につながった体験を語り、これから医師になるみなさんに、どの診療科であってもこの病気を知ってほしい、と呼びかけました。

全人的な医療を目指す医師に

患者による講義の合間に、松浦先生は「自分の診療科だけでなく、全人的に病気を診てほしい。筋強直性ジストロフィーは全身疾患なのだから」と何度も学生さんに檄を飛ばしておられました。
年度末には医師国家試験を受ける学生さんに向け、同じ医療者として伝える白熱した先生の言葉に、感謝しつつ70分の講義を終えました。

その後、松浦先生を囲んで、3家族で話をしました。

自治医科大学は医師の少ない地域での医療を担うために、全国各地から医師をめざす学生さんが集まります。そうした地域では筋強直性ジストロフィーに限らず、全人的な医療は不可欠。診療科にこだわり、縦割りになりやすい状況を松浦先生は憂いておられました。

松浦先生は神経筋疾患難病の臨床・研究を敬遠する昨今の医学生の風潮に歯止めをかけるため、患者の生のメッセージを届けることが一番であると考え、数年前から患者自身の声を講義の中に取り入れているそうです。

患者と家族が、ただ待つだけではなく、自身の体験をさまざまな人に向けて理解できるように話せることは、医療を進展させる力になり得るのではと気付くことができました。

こうした機会を与えてくださった松浦先生に、厚くお礼を申し上げます。

*籏野あかね理事長・佐藤美奈子副理事長の話は、7月16日(月・祝)「筋強直性ジストロフィー 体とこころのケア in 名古屋」のシンポジウムで発表されます。

*同日に自治医科大学学長 永井良三先生を表敬訪問しました。記事はこちらです。