誤嚥や窒息のリスクを回避し年末年始もおいしく楽しく:「DM-familyクッキング:飲み込みやすくておいしい食事作り」レポート
2020年12月13日(日)、Zoomによる「DM-familyクッキング:飲み込みやすくておいしい食事作り」を開催しました。参加者募集のお知らせを始めてから、わずか3日間で15名の定員に達し、筋強直性ジストロフィー患者と家族の、食と嚥下に対する関心の高さを改めて感じました。
当日は国立精神・神経医療研究センター病院の言語聴覚士、織田千尋先生から、「安全においしく食べるために」をテーマにしたお話しがあり、筋強直性ジストロフィー患者であるお母さんとお兄さんを、お父さんと支え合いながら在宅看護にあたる会員の桑澤裕美子が司会進行にあたりました。
自覚症状の乏しい筋強直性ジストロフィー患者・嚥下障害を疑うポイント
筋強直性ジストロフィー患者にとって、嚥下機能の低下による誤嚥性肺炎は、いつ自分自身に起こっても不思議ではないアクシデントです。患者本人はもちろん家族である会員も、真剣に話に耳を傾けていました。
嚥下障害という言葉を知っていて、誤嚥が起こるリスクが大きくなるという認識があっても、「なぜそれが起きるのか」について、ほとんどの患者・家族にはあいまいな知識しかありません。
織田先生から、患者と家族に向けて嚥下障害について丁寧な説明がありました。
「食べ物を口の中で飲み込みやすいようにまとめるのが苦手」
「口の中に食べ物をためておきにくく、すぐ喉に流れ込んでしまう」
「飲み込んだ食べ物が、喉の中に残りやすい」
「咳の力が弱く、むせてしまっても上手に吐き出せない」
噛む力、舌の力、飲み込む力、吐き出す力。
それぞれの箇所で、必要な筋肉がどんな働きをしているのか。
筋力が低下することで、そこにはどんな障害が起きるのか。
織田先生は、筋強直性ジストロフィー患者には見られがちな「食べること」と切り離せない問題について、嚥下造影検査(VF)の画像を使いながらわかりやすく説明され、参加した会員たちは映し出される画面を見ながら真剣に耳を傾けました。
食べ方や食形態は工夫して
窒息や肺炎のリスクを減らすためにできる、一般的な注意点にはいくつかあります。
水や薬を飲む時の首の角度に注意することも、そのひとつ。
頭を後ろにそらすよりも頷いた姿勢の方が、喉や食道の入り口が頸椎に圧迫されず誤嚥しにくくなるそうです。
また、液体にとろみ剤を使用すると、喉を落ちていくスピードを緩やかにすることができ、気管へ流れ込むリスクを少なくすることができます。
口や喉の機能低下の状況によって、望ましい食事の形態はさまざまですが、「口の中でまとまりやすく」「均質で」「なめらかな」形態になるよう調理を工夫します。
症状には個人差がありますので、病院での評価を受けた上で、主治医や言語聴覚士の先生と適切な方法を考えましょう。
食事の工夫は頑張りすぎないで
「嚥下しやすい食事を作らなくては」と頑張りすぎず、長く続けられる方法を見つけていきましょう。以下はお話しの中であった例です。
・レトルトのカレー・シチューなど
具材が煮込まれて小さくなっているものが多く、手間がかかりません。
・調理器具を使い通常の食事を滑らかにする
「ミルサー®」など小さなカップのミキサーを使うと、家族の食事から取り分けて必要な分だけを嚥下食にできます。洗う手間も少なくすみます。
家庭でも取り組みやすい工夫に「うん、うん」と頷く参加者の姿も。
一般のレシピの中にも、軟らかめに煮こんだり小さめにカットしたりの工夫で嚥下食として使えるものはたくさんあります。インターネット上のレシピサイトや動画配信サイトで、多くのメニューが紹介されていますので、参考にしてみましょう。
織田先生のおすすめ!「オートミールは嚥下食の強い味方」
「オートミール」は燕麦(エンバク:麦の一種)を脱穀して調理しやすく加工した、欧米では主食として用いることの多い食品です。
火を通したり、牛乳などにつけ込んでおいたりすると柔らかくなるので、調理も手がかからずにアレンジが楽しめそうです。
オートミールは全粒穀物で、精白しないために栄養価が高く、健康食品としても注目を集めています。タンパク質・食物繊維も豊富に含まれるお薦め食材ということで、嚥下機能の不安のない家族も一緒に、食事のメニューに取り入れることができますね。
この他にも、アーモンドバター、胡麻ペーストなど、家庭でも簡単に応用できる食材を紹介されました。
「嚥下障害に自己判断は禁物です」
「自覚症状がなくても誤嚥している患者は多数います」
織田先生は繰り返し言われました。
嚥下造影検査(VF)か嚥下内視鏡検査(VE)を受けて、どのような問題があるかを調べ、きちんと対処することで、窒息や肺炎のリスクは減らすことができます。
嚥下機能の低下を疑う目安として挙げられるのは次の点です。
- 食べた後に痰がからむことが多い。
- 食べている最中にむせることが多い。
- きちんと食べているのに最近どうも痩せてきた。
- 原因不明の微熱が続いている、など。
このような兆候が見られた場合には、嚥下障害を疑って主治医に相談をして欲しいと、織田先生は勧められました。
患者自身が、今の自分の状態を把握するためにも、定期的に必要な検査を受けて自己管理に役立てることを心がけましょう。
みんながしている、食事の工夫
咀嚼や嚥下がスムーズにいかなくなっても、食事は一日三食、毎日のことです。
窒息や誤嚥の問題と向き合いながらも、食べることが、また食事を作ることがストレスになってしまわないように、「他の人は、どんな工夫をしているんだろう」ということも知りたいポイント。
講義の後は、織田先生を交えて、参加会員が感想や意見、質問を寄せ合いました。
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イチゴのクリスマスケーキを安全に食べるには?
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「つぶつぶが喉に引っかかりやすいので、クリームをイチゴ味にする」
「スポンジにシロップをしみこませる」
「アイスケーキなら食べやすい」
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お正月にお節のかまぼこが心配で…
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「はんぺんはどうだろう?」
「伊達巻とか」
「カニカマで代用は?」
12月半ばに開催された会ということもあり、クリスマスやお正月の、いつもとはちょっと違うイベントカラーの強い食材についての質問もあり、織田先生からのアドバイスの他、参加者からも様々な意見が出されました。
また、ぜひとも摂りたい栄養素ですが、噛み切るのも飲み込むのも大変な野菜は「フレーク野菜」を活用すると簡単で便利など、参考になるアイデアに盛り上がりました。
やっぱり見た目は大事/「食欲」は「食」べたいと思う「意欲」
「見た目を変えずに、でも食べやすくする方法はないだろうか?」
先天性のお子さんにクリスマスの骨付きチキンをかじらせてあげたい、と言う母親会員。いつもは圧力鍋でパイナップルと一緒に、とろとろに煮込んだチキンをあげているそうです。
「施設入所後に食事をペースト状に変えられても、好きなオヤツ(小魚入りの豆菓子)を楽しみにしてゆっくりポリポリ食べていた母を思い出した」と語る会員。
食の安全と栄養面いう視点から考えれば、咀嚼力や嚥下機能の低下に伴って、食事の形態を徐々に変えていくことは重要です。
それでも、食事は「目で食べる、とも言いますよね」と織田先生は言われます。
「なにがなんでもミキサー食とは言わない。患者さんの状態に合わせて、必要以上に形態を落とすことはしない」
「食べる楽しみを奪わないよう対応していきたいと考えています」
安全面、栄養面、そして心の満足。
なかなか難しいバランスかもしれませんが、さまざまな調理器具を活用し、お助け食材を利用しながら、工夫を凝らした年末年始の食卓の光景を参加者それぞれの心に描きながらの散会となりました。