ふだんゆっくり話せない先生たちとの双方向交流を実現:「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日 in 大阪 2023」
2023年9月10日(日)、DM-family主催で、「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」を記念して東京と大阪の2個所でイベントを開催しました。
大阪では、大阪国際会議場を会場に、30名が参加しました。
この日に合わせ、下記の2テーマで、治療の基本から治験の最新の状況まで、わかりやすくお話しいただきました。
1.「筋強直性ジストロフィー療養のコツ」
国立病院機構 大阪刀根山医療センター 特命副院長 松村 剛先生
大阪大学大学院 医学系研究科 保健学専攻 教授 高橋 正紀先生
大阪では「とにかくまずは、講演を聴いてもらいたい」ということから、先に講演を行い、その後に記念撮影、そして先生方を交えた相互質問会を行いました。
患者と家族ができることとは?日本と海外の違い
冒頭、当患者会副事務局長の土田裕也が「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日 in 大阪」の開会挨拶と、日本の患者と家族の取り組み方について以下のような話がありました。
2023年度の啓発の日の交流会は、東京と大阪2拠点の初めての試みです。気軽に話ができ、海外に向けて活動のアピールができればと思います。
DM -familyが日ごろから発信している、「患者と家族ができること」ですが、今回は海外と日本の患者の取り組みの違いについて話します。
海外では、泊りがけで家族が集まり、食事や会話を楽しみ交流を深めたり、セミナーを受けて病気について学んだりします。
このように、海外では患者と家族が集まって、みんなで幸せな時間を共有することが当たり前です。
海外では、参加者が写真を撮りSNSでシェア、顔を出して、自分たちが「治療を望んでいます」と積極的にアピールしています。
しかし日本では、「この病気について知られたくない、顔を見せたくない」と消極的な患者と家族が多いようです。
このような違いは、製薬企業からみれば「なぜ日本では患者は消極的なの?病気に困っていないのでは?日本ではあまり売れないのでは?」と思われるかもしれません。
最後に、副事務局長から、「記念撮影のご協力と、啓発の日を記念して今回の交流会の様子をSNSに公開し、世界の患者会・製薬企業に向けて是非発信してください」と熱く呼びかけがありました。
「筋強直性ジストロフィー療養のコツ」 松村 剛先生
筋強直性ジストロフィーの病気と特徴について
・筋ジストロフィーのなかでも最も多い:およそ1人/人口1万人
・手が開きにくい等、筋力低下の問題に加え、合併症が多いのが特徴
筋強直性ジストロフィーは、一つの遺伝子の問題です。DMPKという遺伝子にて50回以上のCTGリピートが見られます。このCTGリピートにより、全身でいろいろな遺伝子がスプライシング異常を起こすことで、種々の合併症として現れます。
筋強直性ジストロフィー(DM)の課題 なぜ改善が進まないのか?
・呼吸不全の死亡が多く、1994年から2015年まで全体の約30%と改善が進まない。
・いろいろ改善できることはあるのに、それがきちんとなされていないことが問題です。
・患者側の問題と、医療者側の問題があります。(下図参照)
例えば、図の「人工呼吸治療法を実施した呼吸器装着のアンケート」結果をご覧ください。
呼吸器の装着について、1/4の人が「効果を実感できない」、「眠れない」等の理由で、なかなか治療が継続しにくい。→結果、改善が進みません。
まずは定期受診・検査から始めましょう
筋強直性ジストロフィーは、種々の合併症を伴うこと、自覚症状が乏しいことがあると認識し、自己判断に任せず、定期受診・検査を行い、早期発見、早期治療を心がけましょう。
- 疾患の全体像を理解できる専門医を定期受診
- 合併症によって様々な診療科との連携も必要
- いろいろな問題があるので、全身の問題を定期的に検索
- 医療機関での検査、人間ドック等を受ける
- 早期発見・早期治療が重要
- 特に生命予後に影響の大きい合併症は対応を遅らせない
- 呼吸障害:低酸素血症、睡眠時無呼吸、呼吸機能低下
- 心筋障害:心伝導障害・不整脈
- 嚥下障害:咀嚼嚥下困難、窒息、誤嚥性肺炎
- 特に生命予後に影響の大きい合併症は対応を遅らせない
- リハビリテーションも重要
治療法を手に入れるために必要なこと
待っているだけでなく、きちんと診断を受け、健康維持に努め、患者登録や臨床研究への積極的参加で治験への後押しが必要です。
- 正確な診断を受ける
- 診断根拠が不明な患者は治療対象にはならない
- 現在可能な治療をきちんと受ける
- 全身状態が悪いと治療対象にならない可能性がある
- 現在の治療がバラバラ(最善の治療を受けていない)だと治療効果が正確に判断できなくなる
- 患者登録や臨床研究への積極的参加
- 希少疾病での治療開発では患者登録の充実が重要
- 治験への協力
- 治療薬の保険承認には患者さんでの有効性・安全性確認が不可欠
- 社会へのアピール
- 希少疾病薬は超高額なことが多い。社会の理解が治療普及に重要
みんなで協力して新しい時代を拓こう
- 希少疾病では一人一人の協力が大きな意義を持ちます
- 自分一人くらいと思わない
- 仲間とつながることは、大きな支えです
- 三人寄れば文殊の知恵
- 医療者、研究者、開発者、行政とも協力して道を拓きましょう
- 待っているだけでは変わりません
- 一般の人にもアピールしましょう
- 知ってもらわないと理解してもらえません
「治験薬はどうなる?ドラッグ・ロスとは何か」 高橋 正紀先生
難病(希少疾患)の医薬品開発時の課題
希少疾患の医薬品開発には、治療ターゲットが難しい、患者の数が少ない、病状がゆっくりと進行するので評価が難しいというような問題があり開発が困難でした。
実はこれらは一昔前の状況であり、現状は海外を中心に希少疾患の医薬品開発が急激に進んでいます。
オーファンドラッグ(注1)の開発推移
- 2026年までに、オーファンドラッグは全処方箋薬売上高の5分の1を占める
- 患者は少ないが薬剤の単価が高いので、売上高としては大きくなる
- 2026年までには、世界の医薬品パイプライン(企業が開発している新薬候補)のほぼ3分の1を希少疾病が占めるようになる
希少疾病の薬剤について、各社非常に関心をもって開発する時代になってきています。
(注1)オーファンドラッグとは希少疾病用医薬品のことで、対象患者数が本邦において5万人未満であること、医療上特にその必要性が高いものなどの条件に合致するものとして、厚生労働大臣が指定した医薬品です。
筋強直性ジストロフィーの治療開発の状況
多くの企業が治療開発を進めており、治験第3層まで進んでいる企業もあります。
○マーク 核酸医薬など:多くの薬が開発されている 第2相
■マーク 他の病気に対する開発が進んでいる薬:安全性(毒性)試験等が済んでいるので検証が早い 第3相
オーファンドラッグがどんどん使える世の中になりつつあります。
しかしながら、日本では事情が異なります。
*治療開発の状況については、DM-familyの「治療法開発」ページもご参照ください。
日本におけるドラック・ラグ、ドラッグ・ロスの問題
・ドラッグ・ラグとは
欧米では承認されているが、日本では承認されていない医薬品が発生している事象
・ドラッグ・ロスとは
ドラッグ・ラグのうち、日本での開発に着手されていない事象
ドラック・ラグ、ドラック・ロスはますます深刻に
例として、神経系用材の未承認状況:2011~2015年と2016~2020年の推移を示します。
・ドラッグ・ラグの問題
海外のFDA承認品目は、12件→30件と大幅に増加し、新しい医薬品が使えるようになっている。
一方で、日本の未承認は 9件→22件と増加しており、海外と比較し新しい医薬品が使えない状況が続いている。
・ドラッグ・ロスの問題
日本の開発品目は、3件→6件と推移するが、FDA承認品目に対する割合は25%→20%と減少している。
言い換えれば、日本で開発に着手できていない品目は9件→24件と大幅に増加しているということ、つまりドラッグ・ロスがさらに進んでいる。
ここで重要なことは、海外で新薬が開発され治験が進み承認されても、日本国内で開発に着手されなければ、治験も進まず、新薬の承認もされない状況になります。
日本では、ドラッグ・ロスがますます増加する傾向にあります。
なぜ日本での開発着手は遅れるのか
- 新興企業群(いわゆるベンチャー)の開発が盛んで、創製された薬剤の欧米での承認が増加している
- 日本国内に開発法人をもたない(ベンチャーの負担が大きい)
- 治験する余裕がない、日本での申請の手続きも負担が大きい
- 新興企業品目でのピボタル試験の国際共同治験への日本組入れ率か低い
- 臨床試験環境、薬事制度、期待事業価値の低さ(日本の薬価は低く抑えられる)
- ベンチャー企業にとって、日本での開発が大きな負担となり、開発に着手されていない。
- 国際的に実施している治験に参加させてもらえない。日本人のデータがない。
- 治療薬が承認されない。
ドラッグ・ロスにならないように、何をしたらよいのでしょうか
患(患者)・官・学・産、それぞれに問題があり、すべての関係者で考える必要があります。
官・学・産もすでに取り組んでいますが、それを待つだけではなくて、患者側としても取り組んでいくことがあります。
患者としては、薬がどこで開発されているのか、治験はどういうものなのか、こういうことに理解をもって、積極的に参画することです。
患者側としての取り組み:1.患者登録、2.国際共同自然歴研究に参加
- 患者登録 Remudyの推進
- 筋強直性ジストロフィーにおける日本の患者登録数は世界4位。しかし、まだ多くの方が登録していない。
患者登録を推進し、多くの患者の存在と患者情報が把握できている体制づくり。
- 筋強直性ジストロフィーにおける日本の患者登録数は世界4位。しかし、まだ多くの方が登録していない。
- 国際共同自然歴研究に参加
- 患者の状態:筋力の変化、測定の仕方の確立。
- 国際的に一致させていく→将来の治験に向けた大切な準備となる。
まとめ
- 難病・希少疾患の医薬品開発は世界的には活発です
- オーファンドラッグはニッチではなくなりました
- ただ、日本ではドラッグ・ロスが懸念されます
どうしたら良いか、考えませんか
例えば、患者登録は、患者のみなさんの存在を海外の開発企業に関心を持ってもらう方法の一つです。
その他にも、今回の「国際筋強直性ジストロフィー啓発の日」のように積極的な活動を海外に発信していく。
このような活動で、海外の企業に目にとめてもらうことも重要です。
先生からの逆質問も登場!質疑応答コーナー
当日は、多くの質疑応答をいただきましたが、本稿では講演内容に関わる質問と回答の一部を紹介します。
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お薬はいくつありますか?
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現在は、筋強直性ジストロフィーそのものに対する薬は、治験段階であり、すぐに使える薬はありません。
しかし、ほかのいろんな症状に対する薬、例えば心臓に対する薬や糖尿病の薬などはあるので、その部分に対するしっかりとした治療をしていただいて、悪くならないようにしていただければと思います。
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iPS細胞で治療ができると新聞で見ましたが、いろいろな型の症状に使えるのでしょうか。型が違うと薬の効果はないのでしょうか。
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いろんな新聞記事が出ているので、読まれた新聞記事がどのタイプかわからないですが、筋ジストロフィーの遺伝子により違うので、そのタイプによって効く薬が開発されていることが多いです。一部に関しては筋肉全般に力をつけるようなものも開発されています。
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子供に斜視とか眼振があります。このような症状が出ることもあるのでしょうか。
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目の動きに障害が出ることもあります。 斜視とか眼振の症状が出る人は一定の頻度でいます。
このような場合、プリズム眼鏡でずれを調整できる人もいます。
ずれがひどい人は、どちらかの目で見ることとなるので、距離感がとりにくくなります。
先生から、患者と家族に質問
- 患者会の皆さんは、インターネットにどのぐらいアクセスされていますか?
患者会をどうして知りましたか?
当院に通院される患者さんはたくさんいますが、あまり患者会を知らない方も結構いらっしゃるのでどう工夫されたか聞かせてください。 -
複数の方から自身の経験を話していただきました。
筋ジストロフィーには多数の疾患が含まれ、筋強直性ジストロフィーもその中の一つです。
ゆえに、なかなかご自身の疾患が何に該当するのか、どんな患者会があるのか、インターネットだけでは苦労されているようです。「別の患者会に入ってから、DM-familyのウェブサイトの情報やセミナーで知った」、「神経・筋疾患患者登録Remudyに患者登録したことで知った」との答えがありました。
- まだ呼吸がしんどくないときに呼吸器の装着と言われたらどうしますか?
医者から、何を言ってもらえれば進んでつけられますか?診療のなかで活かしていきたいです。 -
複数の方が自身の経験を話しました。
・眠気がひどいので、新聞記事に人工呼吸器による改善があるという情報があり、やってみようと思いました。自身の症状と改善効果を説明してもらえれば、前向きになれると思います。
・ある程度、脅しではないですが、「大変なことになりますよ」と言われたほうが、自身の経験上、納得するのではないかと思います。
・先生から、「あなたのことを考えると、長生きしたいならやったほうが良いよ」と言ってもらえたほうが、考えが変わるのではないかと思います。
会を終わって:患者の家族のひとりとして思うこと
- 「筋強直性ジストロフィー療養のコツ」を聴いて
筋強直性ジストロフィーは様々な合併症を伴い、また症状の自覚に欠けることが療養に積極的に取り組めていない大きな要因となっています。
この病気を理解し、患者である家族にきちんと定期受診・検査を受けてもらい、早期発見・早期治療を実践していこうとあらためて決意しました。
- 「治療薬はどうなる?ドラッグ・ロスとは何か」を聴いて
日本で開発が進まないドラッグ・ロスの問題に直面していることに、危機感を感じました。
日本独自の薬事制度や試験環境、日本法人の必要性、患者が患者登録をしない、治験への理解不足など、課題が山積しています。
患者自身が、「自分は患者登録をしなくても誰かが患者登録して、待てば治療薬がやってくる」というような待ちの姿勢では、何も変わらないのではないか?ますます日本は世界から孤立するのではないか?
治験に備えて、「患者自身が健康を維持する」、「患者登録や臨床研究への積極的参加」、「希少疾病がゆえに、一人一人の協力、仲間とつながる 患・官・学・産の輪を広げる」ことの重要性を改めて感じました。
海外に向け日本の患者の団結力をアピールし、日本に対する海外企業の認識を変えることができるように活動していきたいと強く感じました。
- 自己紹介から感じたこと
多くの方が、この病気の情報不足、病気の進行に対する不安を感じており、今回の会に参加されています。
「定期検査の重要性」や「治験開発の状況とドラック・ロスの問題への取り組み」について、初めてとの声もあり、理解が深まったのではないかと感じました。
お子様が患者の方も多く、自身が亡くなった後の心配の声が多かったです。
みなさまから、いろいろな経験の話や考え、リハビリへの取り組み、日々の暮らしの工夫の話が聞け、自分だけではない、勇気づけられた、頑張ろうという気持ちになれたという声もあり、患者・家族がリアルに集まり、話し合える場の重要性を感じることができました。