筋強直性ジストロフィー国際学会IDMC-12報告(1):原因と生活の質、そして治療法
2019年6月10日~14日、筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)は、スウェーデンで開催された筋強直性ジストロフィー国際学会IDMC-12(International Myotonic Dystrophy Consortium Meeting)に参加しました。
筋強直性ジストロフィーに関する基礎研究から治療法まで幅広い研究が発表され、活発な議論が展開されました。その一部をご紹介します。
患者の症状と生活の質に関する発表
さまざまな症状に関するケアや生活の質についての発表が行われました。
全世界的にも筋強直性ジストロフィーの標準医療は確立していません。そこで、専門医の合意に基づく医療推奨(Consensus-based Care Recommendations)が作成された報告のほか、自然歴(多くの患者の経過に関する追跡調査)研究や患者登録、遺伝カウンセリング、現在のケアについての問題点などが議論されました。
また欧州で行われた大規模治験「OPTIMISTIC」の報告があり、認知行動療法と軽いエクササイズを10か月にわたって行ったところ、身体活動や運動能力の向上、疲労感の軽減があり、薬を使わなくても患者の活動と社会参加の能力が改善したことが示されました。
活躍する日本の先生たち
大分大学の藤野陽生先生からDiscrepancy Between Patient and Clinician Evaluation of Symptoms in Myotonic Dystrophy(患者と臨床医の評価との不一致)、国立病院機構 鈴鹿病院の久留 聡先生からRespiratory Management of Patients with Myotonic Dystrophy in Japan(日本における呼吸障害マネジメント)の講演があったほか、Flash poster sessionでは大阪大学大学院の中森雅之先生がSlipped-CAG DNA Binding Small Molecule Induces Trinucleotide Repeat Contractions in vivo(低分子に結合するスリップしたCAG DNAによるトリヌクレオチド反復収縮の誘発)という研究について発表しました。
大分大学 藤野陽生先生
国立病院機構 鈴鹿病院 久留 聡先生
大阪大学大学院 中森雅之先生
患者登録者に向けたアンケート調査など、多くのポスター展示もされました。
ポスター展示で 兵庫医科大学病院 木村卓先生、西 将光先生
基調講演では、東京大学附属病院の辻 省次先生からNon-coding repeat expansion with same repeat motifs in three genes cause benign adult familial myoclonic epilepsyという講演がありました。
先生は良性成人型家族性ミオクローヌスてんかんが、3つの遺伝子のTTTCAという繰り返し配列の異常伸長が発症原因と解明されました。
筋強直性ジストロフィー以外にも、遺伝子の繰り返しが原因となるさまざまな病気があります。長く研究を続けられてきた先生の講演を多くの方がじっくり聞いておられました。
東京大学附属病院 辻 省次先生
治療法は、「遺伝子」に向けたもの
6月13日午後のセッション「Drug development and delivery」では治療法開発について6件の発表が行われました。
ほとんどの治療薬は、異常のある遺伝子に向けたものです。患者は来るべき 治療法に備え、患者登録数を拡大して治験を誘致するだけでなく、治療法を受けるためにも遺伝子検査を行っておくことが必要です。
1.GSK3β阻害による先天性筋強直性ジストロフィーマウスの生存率向上および成長、神経運動、行動の改善 [S8-01]
AMOファーマで開発しているGSK3β阻害剤「タイドグルーシブ」は英国・米国の治験第2相(AMO-02-MD-2-001)を行いました。出生時から12歳以下で先天性/小児期発症筋強直性ジストロフィーと遺伝子診断されている患者16名に、経口投与(1日1回、朝)したところ、以下のような結果が出ました。
- 16名中13名で有意な変化
- 変化があったのは、眠気、認知、自閉症、筋機能、筋強直
- 向上した機能は、会話、日常活動、動機と意識、トイレ
一方、タイドグルーシブの筋芽細胞での効果を確かめるため、出生前または出生直後の先天性筋強直性ジストロフィーのモデルマウスに投与、分析したところ、マウスの生存率が高まり、筋肉を正常化、不安心理の減少によって発達が改善され、早期の投与が重要という結論が示されました。
2.薬物併用によるスプライシング異常に対する相加的および相乗的効果[S8-02]
以前に効果が報告されている低分子薬、「エリスロマイシン」と「フラミジン」の組み合わせについて、筋強直性ジストロフィー1型のモデルマウスに対する効果が試験されました。
モデルマウスの筋芽細胞では、スプライシング異常に対する防止効果が観察され、毒性はありませんでした。異常のある遺伝子の多くは正常に戻りました。
この組み合わせ治療は、筋強直性ジストロフィーに対する有望な治療アプローチであることを示しています。
3.全身に行き渡るペプチド修飾アンチセンスオリゴヌクレオチドの効果が長時間持続する治療 [S8-03]
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)は、細胞核内に蓄積する異常伸長したRNAによって引き起こされる悪影響を防ぐことが明らかとなっていますが、骨格筋に届きにくいため、全身投与は困難です。
モデルマウスを使って、Pip6aペプチド修飾モルホリノホスホロジアミデートオリゴマー(PMO)と非修飾PMOを比較すると、全身投与後に骨格筋へのASO伝達が劇的に強化されることがわかりました。
4.グローバルツインアンチセンスオリゴヌクレオチド治療に向けて [S8-04]
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)の治療効果は、どれくらいの効率で全身に行き渡るかにかかっています。中枢神経へは髄腔内投与を必要とし、骨格筋へは全身投与によって行われます。
DMSXLマウスにC16結合IONIS-486178を8週間投与したところ、毒性を示すDMPK mRNAが85%以上減少し、マウスの骨格筋と筋力が改善しました。
一方、マウスへのIONIS-486178の脳室内単回注射は、脳のDMPK mRNAを50%以上減少させ、その効果は最大12週間持続しました。
こうした結果から、ASOの全身投与および髄腔内投与による、全身療法の可能性が示唆されました。
5.DMのアンチセンスRNA治療薬ARTHEx-DM[S8-05]
筋強直性ジストロフィー1型の細胞やマウスにおいて、マイクロRNAであるmiR-23bとmiR-218がMBNL1/2を抑制していることがわかりました。
そこでmiR-23bとmiR-218阻害で治療できるかどうかを試すため、モデルマウスへのアンチセンスオリゴヌクレオチド(antagomiRs)の皮下注射が試験されました。
その結果、用量に依存してMBNLタンパク質が正常化し、スプライシングの変化、組織病理学、握力、および筋強直が改善、miR-23bおよびmiR-218阻害が有効な治療法であることが示されました。
6.DMにおける毒性RNAを追跡、分解するCRISPR-Cas13aのベース戦略 [S8-06]
Leptotrichia Shahii(Lsh)Cas13aとcrRNAを使用して、筋強直性ジストロフィー1型の毒性RNA凝集体を追跡および除去する研究が発表されました。
患者由来筋芽細胞においてCUGリピートRNAを切断し、有毒なRNAの負荷を減らすことを実証しました。
[最新ニュース]オリゴヌクレオチド薬の筋肉への標的に向けた送達によるDMPK RNAの減少
最新ニュースとして、ダイン・セラピューティクス社で開発されている「アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を標的に向けて到達させる」方法が紹介されました。
ASOの有効性は示されていますが、骨格筋や心筋に届けるのが難しいことがわかっています。同社は、標的指向性をもった受容体を利用し、治療用ASOを筋肉組織に効率的に送達する先駆的な送達技術を開発し、モデル動物において、DMPK mRNAが減少することが確認されました。
本技術により、安全で臨床的に適切な容量で治療を行うためのASOの開発が可能となります。