成功の反対は失敗ではなく、何もしないこと:ウェビナー「新薬開発の道のり」レポート(1)
2020年11月21日(土)、アステラス製薬株式会社様のご協力により、ウェビナー「新薬開発の道のり」を開催しました。当日は66名の参加者が、製薬企業の方のお話しを聴講しました。
どんな段階を経て新薬を作っているか、知らない患者と家族たち
はじめに、開発本部開発推進部 福永正浩様から本セミナー開催についてお話しいただき、今回は「患者自身の疾患についてではなく、製薬企業の一社として新薬ができるまでの説明をするもの」というご説明がありました。
また、Zoomウェビナーの投票機能を使って「製薬企業がどのような段階を経て、新薬を作っているかをご存じですか?」と参加者に質問されました。
結果は、67パーセントの参加者が「よく知らない」という回答でした。
どんなプロセスで新薬が開発されているか、ほとんどの患者と家族は知らないということが明らかになりました。
新薬開発の最初は、「研究段階」
続いて、ペイシェント・セントリシティ室 東山浩之様から「創薬研究段階 新薬の種を見つけるまで」という講演をいただきました。
新薬はどのようにして生まれるのか?その道のりは「研究段階」と「開発段階」に大きく分けられます。
研究段階:細胞や動物を使って、薬の候補物質を探す段階(基礎研究、非臨床試験)
開発段階:人に投与し、効果や安全性などを確かめる段階(臨床試験)
これら2つの期間を合わせると、約9~16年となります。治験に時間がかかるイメージがありますが、実は研究段階にも長い時間を要します。
「研究段階」で検討すべき要素は3つあります。
1.医療ニーズ:医療現場における疾患ニーズと「患者さんは何に困っているのか」などの患者ニーズを調べます。製薬企業においては、患者の声を取り入れることは非常に重要である、という認識が強くなってきています。
どれくらいの患者がいるのかという医療市場ニーズも調査されます。
2.標的:病気を理解し、どのように治療するのかということを考えます。
3.治療手段:飲み薬をはじめ、最近ではいろんな手法があります。中でも核酸医薬や遺伝子治療、iPS細胞などの細胞治療は新しい手法です。
この3つの要素を最初に決めることが重要であり、次に創薬のコンセプトを決める段階に移ります。
コンセプトはどのようにして決められるのでしょうか。例えば、遺伝性疾患では、体を構成するタンパク質の設計図であるDNAに変異があることで、機能の変わったタンパク質が作られます。飲み薬に代表される薬では、この部分を治します。つまり、タンパク質をターゲットとしているわけです。
技術開発が進んでいる近年の遺伝子治療薬品や核酸医薬品は、DNAやRNAなどをターゲットにしています。下図に各医薬品が働きかける部分の概略を示します。
各医薬品が働きかける部分
基礎研究では、まず疾患に関する遺伝子を特定し、その遺伝子から作られるタンパク質を予測します。これと結びつく物質(シードといいます)を見つけ、有効かつ安全に人に投与出来るように改良し、初めて候補物質となります。医薬品はタンパク質に作用して、そのタンパク質の機能を抑えたり、増強したりするのですが、創薬の基礎段階ではこの機能を上げるのか下げる作用があるのか、ということを調べます。
次に、非臨床試験として、候補物質の有効性や安全性のデータを取得します。ここでは臨床試験に持ち込む前ということで、高い試験の質が求められます。
薬効試験:動物実験の結果が人への効果が期待できるのか、ということを調べる必要があります。
最近では人由来の細胞やiPS細胞などを用いた試験により、人への有効性や安全性の予測を高めています。
薬物動態試験:「いつ・どのように・どれだけ」投与するのかを検討します。
毒性試験:さまざまな面から安全性を調べます。
治験では患者の安全が最優先でないといけない、という考えに基づいて、この試験は徹底的に行われます。
このような多くの過程を経て、臨床試験(治験)に進む候補物質が決まります。
ウェビナー後半のレポートは(2)をご覧ください。