聞くのも話すのも、諦めないで大丈夫!:会員限定Zoom談話室「きれいに聞こえる会話を楽しむ、構音障害リハとは?」レポート
2021年12月12日(日)、会員限定Zoom談話室「きれいに聞こえる会話を楽しむ、構音障害リハとは?」を開催しました。
筋強直性ジストロフィーの患者の多くは、症状が進行すると、筋力の低下や多臓器にわたる合併症、嚥下の問題などの他に、「話し方」にも障害を持つようになります。
話し始めるときに言葉の出始めがスムーズに出なかったり、喉やあごの周辺がこわばり言葉を発することができなくなったり。さらには風邪をひいてもいないのに鼻声。早口。ろれつが回らない。声が小さい…。
本人にハッキリとした自覚がなくとも、これらは筋強直性ジストロフィーの特徴といわれる障害のひとつです。
話し方の変化を自覚すると、話すことが億劫になり、電話に出るのがイヤになる。
家族の間でも聞き返されるのがイヤで会話が減る。
ケアにあたる家族も、患者が何を言っているかよくわからないから話しかけなくなってしまう、ということはありませんか?
会話がキレイに聞こえること、内容がきちんと伝わることは、自分と相手とのコミュニケーションを良好に保つうえで大切なポイントです。
そこで、今回の談話室のテーマは「話出しにくい、何を言っているかわからない。そんなときのコツを知ってみませんか?」。
講師は国立精神・神経医療研究センター病院 身体リハビリテーション部言語療法主任 織田千尋先生です。
織田先生からは、2020年12月のZoom談話室「DM-familyクッキング」でも、年末年始に向けて、飲み込みやすくておいしい食事作りに役立つアドバイスをいただきました。
今回は患者と家族の両方が知っておくと役に立つ、『きれいに聞こえる会話を楽しむためのちょっとしたコツ』について講話をいただいた後、日常の中ですぐ実践できる簡単なリハビリテーションを行いました。
リハビリテーションで会話をさらに楽しもう
筋強直性ジストロフィーの患者には特徴的な話し方の障害がある
はじめに織田先生からお話されたのは、筋強直性ジストロフィー患者に見られる、特徴的な話し方の症例についてです。
- 唇を閉じる力が弱い
- 舌が小さく動きが悪い
- 鼻にかかった声になる
- 音がひずむ
- 声が小さくなる
- 早口で聞き取りにくい
Zoomの画面の向こうでは、「うんうん、あるある」と頷く参加者の姿も。
一般的には、病気の進行とともに話し方の障害が悪化する傾向にあります。ただしこれも個人差があり、さらに適切なリハビリテーションを行うかどうかで、長期的な状態の変化には違いがみられるそうです。
障害の状況が改善し、良い状態を維持することが出来る
リハビリテーションのスゴ技にビックリ!
次に、実際に国立精神・神経医療研究センター病院で行われている、いくつかのリハビリテーションを動画で紹介して頂きました。
1)遅延聴覚フィードバック(DAF)法
これは、マイクに向かって話した自分の声を遅らせてヘッドフォンから自分の耳に戻す仕組みのリハビリテーションです。
主としてパーキンソン病の患者の構音障害に対するリハビリテーションですが、筋強直性ジストロフィー患者にも同様の効果が認められるそうです。動画ではパーキンソン病の患者さんのビフォー・アフターを視聴し、その大きな効果に参加者は驚きを隠せませんでした。
2)ペーシングボード
色のついたスロットが、突起で仕切られている会話補助装置です。
スロットを指で指しながら話すことで、話す速度がゆっくりと滑らかになり、相手に話の内容が伝わりやすくなります。
早口な会話のペースを落とすことで、聞き取りやすさは格段に向上します。
DM-family理事長の籏野あかねのリハビリテーションの様子が動画で紹介され、話し方の変化に参加者一同が驚く場面も。
※なお、このリハビリテーションで大きな効果を実感した理事長は、ブレスレット型のペーシングボード作製を作業療法のリハビリテーションに取り入れ、今回の談話室の参加者へプレゼントされることになりました。
毎日の暮らしの中でもリハビリは出来る
特別な装置を使わなくとも、日常生活の中で出来るリハビリテーションはあります。
- 小さな声を大きな声に
- 早口で話さずにゆっくり話す
聞き取りやすい会話には、この二つの要素が大切と織田先生は言われます。
「どちらか片方だけでも保たれていると、相手への伝わり方は違います。なので、二つの要素に焦点を当ててリハビリテーションを続けると効果的ですね」
大きな声で話すには
- 「呼吸を味方につけましょう」
吐く息とタイミングを合わせ、息に押されるように声を出すと楽に響く声が出せます。
- 「歌を歌って体に声を響かせましょう」
腹筋の強化、口や顎の筋力増強、ストレス解消にも効果があるといわれています。
ゆっくり話すには
- 「ペーシングボードやメトロノームを活用する」
自分で話す速度をコントロールするのは大変です。ペーシングボードは段ボールやエコクラフトで簡単に作れます。
- 「DAFアプリを活用する」
遅延聴覚フィードバック(DAF)法を自宅でも行えるアプリがあります。
※使用の際は言語聴覚士の診断を受けてください。
「そして、話し手と聞き手の双方が、相手を少し思いやるだけで、会話はもっと楽しくなりますよ」
構音障害があっても、会話を楽しむためにできること。それは相手を思いやることと織田先生は言われます。ここではいくつかの、話し手側と聞き手側の「裏技」を紹介します。
話し手側は
- あらかじめ、自分が話す話題を、相手に伝えておく
- 声だけで伝えるのが難しい時には、文字や絵で示す
- 聞き手が自分を注目しているか確認する
- イントネーション豊かに話す
- 静かな環境で話す
聞き手側は
- あらかじめ話題を把握しておく
- 話し手のサインを見逃さない
- 会話をするのに適した状況を選ぶ(歩きながら・食べながら・疲れている時の会話などは避ける)
- なるべく近づいて会話をする
- 自分の聴力に自信がない場合など、必要なら補聴器などを使う
- 複数人で話す時には、自分以外の聞き手と話し手を結ぶファシリテーターになる
なるほど、思いやりとはこういうことか…。織田先生が資料として準備された『できること』が書かれた一覧表を見ると、「わかっているつもりで実際にはできていなかったこと」がいくつもあることに、改めて気がつきました。
効果はすぐにはあらわれないけれど
千里の道も一歩から
講話のあとは、参加者全員で、基本的な発声と顔のエクササイズを実践しました。
まず始めは呼吸と一緒に大きな声を出す練習です。
「姿勢もとても大切。なるべく骨盤を立てて背中を伸ばして座りましょう」
「吸った息を吐きながら、吐く息に溶け込ませるように低い振動をノドに流していきます」
「喉に力は入れないで、吸って~、せ~の、あーーーーーー」
なんどか繰り返した後は、からだに声を響かせるイメージで、「おーい」「おはよう~」「ありがとう~」と続けます。
続けての顔の体操では、まずは最初に深呼吸です。口を大きく開いてパッと閉じる。口を大きく開いてから、下あごを左右に動かすなどの顎の運動に続けて、唇の運動、舌の運動。実際にST室で使っている資料を参考に、参加者が揃ってエクササイズに取り組みました。
「毎日少しずつ続けるとよいですが、疲れすぎると逆にいけません。翌日まで疲労が残らない程度に加減してくださいね」と、織田先生のアドバイスをいただき、談話室は後半戦に突入しました。
自己紹介で喋ってみよう!織田先生とマンツーマン・お喋りしながらレッスン&アドバイス
ここまでの、大きな声を出す練習と顔の体操は準備運動。
ということで、ここからは参加者がそれぞれ先生とお話をするレッスンタイムです。
トップバッターの保護猫カフェオーナーの会員は「喋り始めに言葉が出ないで困ることがある」と言います。筋強直性ジストロフィー患者なら、だれもが経験していそうな、まさに『あるある』な困り事です。
織田先生からは「言葉がハッキリ聞こえているし、声も良い。家族以上に適度な緊張感のある接客が、日々のトレーニングになっているのかもしれませんね」とのお答え。
「相手にエッ?と聞き返されることがあっても、ひるまずに話してくださいね」というアドバイスは、構音障害を持つ患者には、大切な心構えなのかもしれません。
患者の息子さんと一緒に参加したお父さんからは、
「以前、話すときに空気が漏れると診断を受けた。最近何を言っているかわからないことが多くなった」と相談がありました。これに対しては、
「有効なリハビリテーションは確立されていないが、ほほを膨らませて圧力をかけたり凹ませたりするエクササイズや、ブローイングと呼ばれるペットボトルを使った呼吸の練習法が役に立つと思います」とアドバイスがありました。
また、息子さんの話す様子から、「あまり口を動かさないでお話されている印象を受けましたので、なるべく唇を意識してお話すると良いかと思います」というご指導も。
また、10年以上前から、話始めにうまく言葉が出てこなくなった自覚がある会員は、「オンライン読書会をコロナ後に始めた。少しは喋る練習になると良いかな、と思っている」と、構音障害に対する自分なりの対策を話します。それでも、最近特に聞き返されたり、自分でも、声がこもっているような気がすると言います。
声がこもるのは、多くの筋強直性ジストロフィー患者に見られる症状です。
「口内の天井あたりに声を当てるようなイメージで話すと話す声が相手に届きやすいようです」「読書会はとても良い取り組みで、できるだけ声を出して話す機会を設けていただきたいですね」、とのこと。
また、別の会員は、日中は家で一人になってしまうので、話す機会が少なくなるのが気がかりと言います。そのために、
「ほとんど毎日、近所のカフェや喫茶店でオーナーさんと世間話をしたり、置いてある新聞の社説などを音読するルーティン」「パタカラ体操」「音階をなぞって発声練習」などの自主的なリハビリに励んだりすると、笑顔でアピールしてくれました。
織田先生からは、「ゆっくりと、ハッキリ区切って話をされていて、とてもわかりやすいです。何より活動量がすごい!そして、音階は高・低の違いによって声帯の伸縮みの運動になります。若い声を保つためにも続けてください」とお褒めの言葉を頂戴しました。
一番大切なのは、相手に通じること
週一回、構音障害のリハビリのために、ハムレットを音読している籏野あかね理事長も。
「子どもが自信をもって話ができる環境作りも大切だと気づいた」と語る、先天性筋強直性ジストロフィーのお子さんを育てるお母さんも。
「診断がおりてから間もなく、患者本人はリハビリテーションが必要という認識も持てていないが、今日のエクササイズはとても参考になった」と語る成人患者の息子さんを持つお母さんも。
この日、談話室に参加した会員はみんな、「話し方を改善したい」「できるだけ今の話し方を維持したい」「家族とのコミュニケーションをスムーズにしたい」と願っています。
構音障害は、会話に関する不自由さを少しでも改善したい、または、今後の参考のためにと、多くの会員が関心を寄せるテーマなのだと思います。
相手にキレイに聞こえる会話は、言葉だけではなく心も通わせることができます。
短期間では効果を感じることは少ない構音障害リハビリテーションですが、適度な内容を継続することで、長期的には大きな効果をもたらします。
聞きやすさ・話しやすさを感じてもらえる思いやりと、「伝えるためのテクニック」を身につけて、大切な人とのコミュニケーションを楽しみたいですね。