「患者とともに、治療薬を」アステラス製薬開発本部にて患者会講演

2020年2月3日(月)、アステラス製薬株式会社にて開発本部の約200名のみなさまに向け、妹尾みどり事務局長が講演をさせていただきました。

同社開発本部では疾患や患者に対する正しい知識を身につけ、今後の業務に生かすことを目的として社内向け患者会講演が開催されており、今回は同社から助成などを受けてきた当会へ講演依頼を頂き、事務局長として妹尾みどりがお話させていただく運びとなりました。

当日は妹尾みどりの妹で理事長の籏野あかねを患者の一例として紹介し、疾患の原因や症状の説明、患者と家族が困っていること、広く一般社会と同社に期待することなどを話しました。

以下、講演内容の概要をお伝えします。

理事長、籏野あかねの病歴と思い

籏野あかねは20歳代から卵巣嚢腫、子宮内膜症、甲状腺腫瘍、白内障など2~3年に一度は手術を受ける日々でした。

ようやく筋強直性ジストロフィーと診断されたものの、生きがいだった仕事を医師から辞めるように言われ、一時は死も考えましたが、パートナーのために生きていくことを決心しました。

しかし、療養は簡単ではありませんでした。最初の病院では針筋電図による検査で、病気の特徴であるミオトニア放電の音を大勢の医師たちが「めずらしい」と次々に聞き、20分以上も手に針を刺されたままにされました。また、医療相談会では医師から「治らない。うちの病院に来ないで」と言われました。

そんなことが続いたある日のこと、この病気の世界的な専門家であるピーター・ハーパー教授が患者向けに書いた「筋強直性ジストロフィー 患者と家族のためのガイドブック(診断と治療社)」を手にしました。

籏野はこの本に書かれていた「筋肉だけの病気ではない」という一節を読み、それまでの病歴を振り返って「もしかすると、筋強直性ジストロフィーの合併症だったのでは?」と思いました。繰り返しこの本を読み「患者も賢くならなければいけない」と考えるようになりました。

その後、経験豊富な専門医と出会え、2か月に一度の通院で適切な検査と診療を受け、安心して療養できるようになりました。

家族も困難に直面

この病気は、患者をケアする家族にとっても多くの困難があります。

優性遺伝形式を取るため、家庭に複数人の患者がいることはめずらしくありません。一家を支える働き手が、一日の仕事を終えた後で患者のケアをしています。

きょうだい、親、おじやおば、いとこ…一族に多くの患者を抱え、希望を見失いがちになります。

患者は体が動いても、誤嚥性肺炎や突然死のリスクと隣り合わせです。軽症であっても中枢神経障害があり得ます。日中過眠や極度の疲労感。加えて、社会認知機能*が低下すると、相手の気持ちを推し量ることが下手になり、社会参加が難しくなります。

*場面や状況の理解・分析力、社会的判断、一般常識、現実生活での問題解決能力

そして多くの患者が、この病気をよく知らない医師から「この病気は治らないから病院に来なくていい」と言われています。

患者も「治らないから病院に行かない」、「わたしがこの病気なんて信じない」など、自分の病気を認めない人もたくさんいます。中枢神経障害が起きると症状を自覚しにくくなり、各合併症が悪化してからやっと病院に行くことも少なくないため、早くに亡くなる結果にもなります。

患者会は、多くの困難を抱える患者と家族とともにいます。しかし投げ出したりはしません。

「わたしたちは患者を大事にします。家族ですから。」

希少疾病という困難に、患者として向き合う

患者数が少ないという事実は、治療法開発のハードルが高いことを意味しています。

筋強直性ジストロフィーは、国立研究開発法人 国立精神・神経医療研究センターと大阪大学が運営している患者登録システム「Remudy」により、登録された患者の症状が記録・蓄積されています。筋強直性ジストロフィーは症状の個人差が大きい病気なので、治験を行う際に重要な「同程度の症状を持つ患者を集める」には患者登録が欠かせません。

しかし、患者登録数は依然として推計患者数1万人の1割、1,000人にも届きません。

遺伝子を治療する薬を開発するため、患者登録には遺伝子診断が必須です。

患者が遺伝子診断をしたがらない理由の多くは、「遺伝病」という差別を恐れるためです。

優生思想が根強く残る日本。しかし、患者が堂々と患者登録をし、それが当たり前になれば、ひとつ差別を乗り越えることにもなるでしょう。

「患者が患者に、患者登録を勧める」。わたしたち患者会の大きな活動のひとつです。

さらに希少疾病では、治療薬の有効性確認方法のひとつとして自然歴(治療薬が投与されていない患者の記録)との比較もあり得ます。

患者登録の更新はもちろん、患者登録にない項目で有効性を確認する場合は、カルテも重要なデータとなるかもしれません。

こうした困難がある中、アステラス製薬の開発陣のみなさまに「遺伝子を治す薬を」とお願いしました。筋強直性ジストロフィーだけでなく、他病型の友人たちすべての願いをこめて、45分の演題を終えました。

患者も治療薬開発に参加を

講演終了後、多くのコメントや質問を受けました。「患者登録に力を入れている患者会はありがたい」とお褒めの言葉もいただきました。

もっとも印象に残ったのは「患者さんも治療薬開発の最初の段階から参加してほしい」というコメントです。

そのためには、患者として「薬を作るためにどんなことが必要で、どんな苦労があるのか」を理解することが必要です。そして自らの病気を客観的に説明し、製薬企業のみなさまに患者の困難を理解していただくことも欠かせません。

お互いが理解し、理解される。その前提があって、はじめて同じテーブルに着くことができます。よりよい協働を実現するため、筋強直性ジストロフィー患者会はこれからも活動を続けてまいります。

最後に、この機会を与えてくださったアステラス製薬開発本部のみなさまに心より感謝申し上げます。