ウェビナー「知っておきたい新型コロナウイルスと筋ジストロフィー」レポート:新型コロナに筋ジス患者が備えるために

2020年6月28日(日)、DM-family初のウェビナー「知っておきたい新型コロナウイルスと筋ジストロフィー」を開催しました。メールでの自動リマインドやQ&A機能のあるZOOMウェビナーアドオンを活用し、54名の参加者に聴講いただきました。

2020年6月28日「知っておきたい新型コロナウイルスと筋ジストロフィー」講師と司会

新型コロナウイルス感染症に、筋ジストロフィー患者が正しく備えるには

国立病院機構大阪刀根山医療センター 齊藤利雄先生から「知っておきたい新型コロナウイルスと筋ジストロフィー」について講演をいただきました。

新型コロナウイルスとは?

これまでに、6種類のコロナウイルスが知られていました。2019年に発生した「新型コロナウイルス(SARS-CoV2)」は、コロナウイルスの特徴である冠状の突起があり、自分自身では増殖できませんが、表面のSタンパク質がヒトの細胞にあるACE2受容体と結合し、細胞内で増殖します。

また、3日間程度はプラスチックなどの環境表面で安定的に生存しています。

新型コロナウイルスの感染経路と感染力

新型コロナウイルスの感染経路は、主に3つあります。

飛沫感染
感染した方の飛沫(くしゃみ、咳、唾液など)と一緒にウイルスが放出されて感染。

接触感染
感染した方がくしゃみや咳を手で押さえた後、その手で周りのもの触れるとウイルスが付着する.他の方がそれに触れるとウイルスが付着し、その手で口や鼻を触ると粘膜から感染。

エアロゾル感染
飛沫感染と飛沫核感染と含みます。飛沫から水分が抜けた「飛沫核」のみで、数時間空気中を漂うことがあります。

無症状の感染者のうち、8割くらいは他者に感染させていません。しかし、「密閉」「密集」「密接」といった、いわゆる「3密」環境下では集団感染が発生しやすくなります。

新型コロナウイルスの症状

最初の症状は風邪とあまり区別がつきません。

約80パーセントの感染者はそのまま治癒に向かいますが、20パーセントの感染者は肺炎症状となり、さらに5パーセントの人が重症化し、人工呼吸器が必要となることもあります。

開発が進む新型コロナウイルス感染症治療薬

新型コロナウイルスの新規治療薬開発は現在進行中で、現地点(2020年6月末)は既存薬を転用する治療が主になっています。

このうち、「ヒドロキシクロロキン」は,副作用として骨格筋、心筋への影響が報告されており、致死的な不整脈を引き起こす可能性があります.筋ジストロフィー患者さんへの投与は勧められませんので、注意しましょう。

家庭内の感染予防策の基本:マスクは真ん中を持たない

家庭内で出来る感染予防策は「石けんで手洗い」、「手でよく触れるところの消毒」、「定期的な換気」です。暑い季節になり冷房を使う機会が増えますが、こまめに窓を開けて、換気しましょう。

マスクについても、正しい付け方があります。齊藤先生からは、「真ん中を持たない。特に、マスクを外すときは、覆っている部分を触らないようにしてください」と注意喚起がありました。

3密を避けることが難しい筋ジス患者。もし感染したら?

筋ジス患者のケアをする家族にとって、患者との濃厚接触は避けられません。もし患者が新型コロナウイルスに感染したかも?という場合は、基本的には厚生労働省の資料に記載に従ってください。

https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000601721.pdf

ただし、「筋ジス患者さんは、事前に病院に電話で受け入れ可能かを確認し、病院に来てください」と齊藤先生。
それまでは、家族と部屋を分け、リネンの取り扱いに注意するなどの対応をします。

人工呼吸器を使っている患者が感染した場合の注意点

非侵襲的人工呼吸管理(NIV)を使用している筋ジストロフィー患者が感染した場合、リーク部位(マスク装着部)からエアロゾルが発生するため、エアロゾル感染のリスクがあります。

詳しい対応策は全国筋ジストロフィー施設長協議会・国立重症心身障害協議会・国立病院機構等神経内科協議会による、「COVID-19に関連する筋ジストロフィー・重症心身障害児者・神経筋難病患者に対する呼吸ケアの注意点」で読むことができます。

https://www.neurology-jp.org/news/pdf/news_20200601_01_01.pdf

新型コロナウイルス流行時でも、筋ジスのケアは「継続」

新型コロナウイルスが流行している中、外出を自粛する患者が多くいます。

しかし、齊藤先生は「医療機関ではしっかり感染防止をしています!」と強調。「体調管理も重要です。電話診察だけではわからないこともあります。呼吸不全、心不全の状態を確認するためにも、できるだけ受診をしてください」と話しました。

以下、齊藤先生から示された注意点です。

・デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィーでステロイド製剤を服用している方は……

ステロイド製剤を自己判断で中断しないでください。「副腎クリーゼという非常にしんどい状態になります。」

・リハビリを続ける

関節拘縮や廃用萎縮を防ぐため、自宅でできるリハビリ・遠隔リハビリを続けてください。

・患児・患者のメンタルケア

知的障害や自閉傾向などがある子どもの患者(とくにデュシェンヌ型・ベッカー型筋ジストロフィー)は少なくありません。成人の患者でもうつ病と不安のリスクが高いです。心理的ケアを受けましょう。

・デュシェンヌ型/ベッカー型筋ジストロフィーの心筋症にACE阻害薬やARBを内服している場合

新型コロナウイルスはACE2受容体に結合し、細胞に侵入します。ACE阻害薬やARB投与で、体内のACE2受容体が増加するのではといわれていますが、ACE阻害剤やARBを服用していることで感染しやすくなるという報告はありません。内服は継続してください。

齊藤先生は、「筋ジストロフィーは継続して治療が必要です。医療機関を受診し、処方されている治療や薬は継続してください」と患者と家族に訴えました。

患者と家族の声を集め、次につなげる研究

国立病院機構大阪刀根山医療センター 脳神経内科 松村 剛先生からは2020年5月11日から患者向けアンケート調査を開始した「新型コロナ肺炎が筋ジストロフィー患者に及ぼす影響の実態調査」についてお話しいただきました。

新型コロナウイルスが筋ジストロフィー患者に及ぼした生活・医療の変化とは?

新型コロナウイルスは筋ジストロフィー患者に限らず、すべての人々に影響を与えている新規の感染症です。

新型コロナウイルスが引き起こす多くの問題によって、筋ジストロフィー患者の生活・医療はどのような影響を受けたのか、どのような支援が有効なのかを把握することが、今後の感染症・災害対策を考える上でも重要なことからWebアンケートによる実態調査を開始しました。
https://mdcst.jp/covid19/

長期にわたる影響がどのくらいあるのか?小さなことでも、アンケートで情報提供を

新型コロナウイルスは未知なウイルスのため、影響が長期に及ぶことが想定されます。

同じ回答者であっても、時間の経過とともに受ける影響も変化するのではないか?と考え、アンケートは同一人物が何度でも回答できるようにしています。個人情報に配慮し、「ニックネーム」で同一人物であることを把握します。

支援やサービス、物資の入手のしやすさなど、長期にわたって変化していく状況をとらえ、災害が長期にわたった場合にどんな備えや支援が必要かを追究していきます。

「筋ジストロフィー患者さんのほか、神経筋疾患の病型を問わずに幅広い方の回答が必要です。回答の蓄積が今後の備えの根拠になります。患者さん同士でアンケートへの協力を勧めてください」と、松村先生は参加者に呼びかけました。

2020年6月末時点では、総数470名(うちデュシェンヌ型筋ジストロフィー174名、筋強直性ジストロフィー136名など)からの回答がありました。

マスクなど物資の不足・入手困難な状況にあるという回答が目立ったほか、生活への影響に関しては外出自粛からの運動量減少、収入減少や介護負担増加といった深刻な変化も見られました。

先の見えない自粛生活から身体・精神的不調を訴える回答も多数寄せられました。

投薬の変化状況では、「処方された薬を半量にして医療機関の受診を延期している」「ステロイドを中止した」という回答も見られ、松村先生から「薬は必要があって処方されているもの。安易に減らしたり止めたりしないようにしてください」と注意がありました。

2020年7月、感染者数が増加している状況です。

筆者(福島県在住)も、7月になって使い捨て手袋が品薄になっていることを、再度アンケートで送信しました。生活の場にいる患者と家族だからこそ、困っていることを発信できます。

みなさんも、身の回りの何気ない変化であっても、アンケートを使って発信しましょう。

質疑応答

参加者からの日常生活を過ごす上で疑問に思っていることや、講演内容の質問が多く寄せられました。その一部を掲載します。

先天性筋強直性ジストロフィーの子どもが2歳でマスク着用を嫌がります。どうしたらいいでしょうか?

小さな子ども(2歳未満)はマスク着用を推奨されていないので、大人が密な環境にならないよう気を配ってください。
https://www.jpa-web.org/dcms_media/other/2saimiman_qanda20200609.pdf

発熱などの際に相談する「主治医」にというのは、筋ジストロフィーの主治医ですか?それとも風邪などを引いた際にかかる地域の内科の主治医ですか?

感染が疑われる場合は、地元の内科病院に電話相談をしてから受診をしましょう。保健所にも一報をお願いします。

先の見えない自粛生活ですが、当会はこれからも患者と患者家族のために生きた情報を届ける活動を続けていきます。

*講演中、機材の故障により一部見づらい点がありましたことをお詫びいたします。