あなたの良さ、こんなにありますよ!: Zoom談話室「ほめるレッスン」レポート

2021年7月11日、会員向けZOOM談話室「ほめるレッスン」を開催しました。

自己肯定感は、幸せに生きることに欠かせません。

筋強直性ジストロフィーは、だんだんと筋力が低下し、それまで出来ていたことができなくなっていきます。症状が進行すれば日常生活上のさまざまな支援が必要となります。

多くの合併症に悩まされ、また、認知機能障害があらわれ、日中の眠気や筋力低下からの疲労感から無気力に見える患者も多く、自己肯定感を高く持つことが難しいかもしれません。

そこで、談話室では、「ほめることで自己肯定感を育む」ということをテーマにして、専門の先生方にお話を伺いながら、ほめるコツを探ってみました。 それが病気の症状とはいえ、やる気がなくなってしまう患者に、どんなほめ方をしてスイッチを入れればいいのか。毎日のケアをする家族にとっては悩むところではありますが、今回の「ほめるレッスン」の中にそのヒントを探してみてください。

「ほめることがマンネリになっていませんか?」 沖縄病院 諏訪園先生から 

最初に、国立病院機構 沖縄病院 脳・神経・筋疾患研究センター長 諏訪園秀吾先生から講話を頂きました。

「ほめるのは家族間でも難しいのです」と先生。確かに、どうしても同じような会話の繰り返しになりがち、マンネリ化してしまいます。

「でも、マンネリ、効果が直ぐに見えなくても、やっていったほうがいい。その上で、マンネリにならない工夫を」と、会話の例を「看護のためのポジティブ心理学(医学書院)」から引用し、挙げて頂きました。 

看護のためのポジティブ心理学(医学書院)
https://www.igaku-shoin.co.jp/book/detail/105692

相手との会話を引き出しましょう

マンネリにならないためには、会話を引き出すことが大切です。

「看護のためのポジティブ心理学」に掲載されている例を引いて説明がありました。

患者さんに食事の状況を聞いたとき、「食が進まないが、トマトパスタを少し食べた」と教えてもらえたら、「それは良かった」だとそのまま終わってしまいます。

そこで、話が終わってしまう返し方ではなく、「トマトパスタがお好きですか?」というような、相手から返事が来そうな質問を続けることで、会話が広がっていきます。

相手の興味から発して会話をつなぐということ、やる気を引き出すこと、行動の強化を重ねていくことができます。

ポジティブな言葉も工夫できます

また別の例として挙げられたのが、患者さんの座右の銘となった言葉でした。

ALSによって将来の希望が見づらくなり、終の準備をしていた患者さんがおられたのですが、子の就職を機に、生き続ける意欲が芽生えてきたのだそうです。

相反する気持ちに葛藤する患者さんに、先生は「輝いて生きてください」という言葉をお掛けになりました。それによって心の向きが変わり、生きていくことへの不安な気持ちがやわらげられたそうです。

頑張って、や、負けないで、といういつもの言い方ではなく、輝いて、という言葉にしたことで、前向きに生きるイメージがよりはっきりしたのでしょう。

行動の結果だけでなく、これからの行動を強化する言葉も、自己肯定感を高めることにつながる事例でした。

「ほめるってどういうこと?」 沖縄国際大学 上田先生から  

続いて、沖縄国際大学 公認心理師 上田幸彦先生から講話を頂きました。

ほめられることは、なぜ良いのでしょうか?
ほめられると「自分は大切だ」「自分は大丈夫だ」と思う感情が生まれ、生きる原動力になります。

また、ほめられることは、自分が気づかなかった自分の良さに気付くきっかけにもなります。

自分で自分をほめることも、自尊感情を高める効果がありますが、たまには周囲からもほめられることが大事です。

「ほめられない」「叱られる」「非難される」が続くと、自尊感情が低下します。
メンタルヘルスが悪くなると自尊感情が低下し、うつ状態となり、「自分はだめだ」と思ったり、やる気が低下し、なにもできない・しない状態になったりします。

何をほめるのがよいでしょう? 

では、具体的にどこを・なにをほめるのがよいのでしょうか? 
実は何でもいいんです。ほめるところはたくさんある」と先生。

  • 行なったこと、昔やったこと、これからやろうとしていること 
  • 持っているもの 
    これは、それを得た過程、維持、獲得のためのセンスなどを「強化」することになります。 
  • 関係する人・もの 
    これは、価値のある人・モノとつながりのある、あなた自身の中にも同じ良さがある、ということを伝えることになります。

ほめるときの注意点は? 

ほめるときは、理由も伝えましょう。その方が「良い」ということがより相手に伝わります。

目的のためにほめる、ほめることで相手を動かそうとしないことが大切です。意図は相手にすぐ伝わってしまいます。

相手によっては、ほめるということが伝わりにくいことがあります。
その場合、相手の行動が変わらない・喜ばないということも発生しますが、がっかりせずにほめを続けてください。 

参加者による自己紹介と「ほめるレッスン」  

先生方からのお話をふまえて、今度は会員自身による実践に移りました。
会員は順番に、自己紹介して、最近嬉しかったこと・心に残ったことを発表していきます。そしてひとり発表するごとに、前の人がその発表をほめる!という流れです。

一番目は大吉さん。大吉さんは、最近猫を保護して、その子がすごくなついてくれるようになったそうです。

大吉さんは最初なので、諏訪園先生がほめました。

「まず、トップバッターでも堂々としていることがすごい」と、ほめる着眼点もさすが先生です。

そして猫になつかれるというのがすごい(先生はなつかれなかったそう)」とほめられて、ひっかかれてもくじけず続けたのが良かった、という大吉さんに「それがすごい」と先生。さすが先生、ナイスほめでした!

これで、どういう感じでほめていくか分かってきたところで、会員が次々に発表・ほめる、のリレーをつないでいきます。

「子にポテチを作ってあげたら喜ばれた」→「ポテチを自分で作るというのがすごい

「患者会で覚えたZoomで同窓会をできた」→「新しいことに取り組み、リーダーシップを発揮するというのはとてもいい

「子と一緒に野球観戦を楽しんだ」→「普通だと成人した息子と共通の趣味・共通言語はなかなか持てない、すばらしい

「リハビリで筋力を改善できた」→「直近までリハビリしていたようには見えないほどイキイキとしているのがすごい

などなど。

みなさん、日常の身の回りの中から、良いことを見つけて準備してきてくれました。その良さがあって、次の人がほめるときにも、無理なく自然に言葉が出てきていました。 

良いことというのは、探せばきちんとあるものだし、良いことは自然にほめることが出来る、ということが実体験できたと思います。

レッスンは大いに盛り上がり、全員が終わったときには延長時間ぎりぎりになっていました。

最後は会員によるレッスンの振り返り

最後に、会員一人ひとりにレッスンを振り返ってもらいました。

ほめることは難しいと思ったが、相手のことを考えて言えばほめられるものだ」

他愛もない話でもほめて貰えると嬉しい

「講話の中で、ほめていい理由の裏付けが分かって良かった

自分からほめてと言いに行ってもいいのかなと思う」

みなさん、ほめられることの嬉しさを改めて感じていて、同時に、ほめることに対して前向きになっていました。

今日のレッスンだけでも、生きる元気を得られたようでした。

先生からの講評は、上田先生は「ほめるのが上手。それは皆さんの意欲の表れと思う。ほめるのは実は簡単なことではないので、練習が必要です。いいところを見つけるようにしていきましょう」、

諏訪園先生は「相手をほめようと思って相手を見ると、見え方が違ってくるもの。ほめようと思ってみるということは大切です」 と、実践の参考になるお言葉をいただきました。

今回の講演に参加した方も、できなかった方も、この「ほめ体験」を参考に、日々の生活のなかで少しずつ「ほめ実践」を積んでいきましょう。

諏訪園秀吾先生からのメッセージ

視点が変わると目の前の風景も困難も見え方が変わることは起こりうると思います。
病がありながらも、より充実した人生が送れますように。

上田幸彦先生からのメッセージ

「ほめる」ということは、相手の中だけでなく、今現在の中のすばらしいことに気づく、ということです。
日々の「ほめる」実践を通して、この素晴らしいことに気づく力を高めていきましょう。