2017年5月13日(土)、京都にて市民公開講座「慢性疾患のクオリティ・オブ・ライフを高めよう! 専門家と一緒に考える心理・社会的『セルフケア』」が開催されました。このレポートは前回(1)に続いて、さまざまな社会資源を活用するコツと、認知行動療法についての解説についてお伝えします。
講座の概要、前半部分のレポートは前回(1)のレポートで掲載しております。併せてお読みください。

慢性疾患のクオリティ・オブ・ライフを高めよう! 専門家と一緒に考える心理・社会的「セルフケア」
開講・協力してくださった先生方とスタッフのみなさん

障害者でなくても受けられる!こんなにある社会資源

京都府難病相談・支援センターの戸田真里さんからは「難病患者さんが利用できる社会資源と利用するコツ」の前半部分のお話しがありました。

難病の人は、以下の制度が利用できます。
・指定難病の医療費助成:難病の治療費などに関する医療費助成
・介護保険:介護(介護予防)サービス
・障害者総合支援法:障害福祉サービス
・障害年金:障害基礎年金・障害厚生年金

戸田さんからは各制度について詳しい説明がありましたが、ここではお話しの中で強調されていたポイントに絞ってお伝えします。

・指定難病の医療費助成は症状に応じている

患者さんの負担が原則2割で、所得に応じて自己負担の上限額があります。重症度は主治医に確認してください。
※患者や家族が「助成を受けるほどの症状ではない」と自己判断しないようにしましょう。

・介護保険サービスは自宅から施設まで幅広く

介護サービスの利用についての相談から、家事、リハビリ、ショートステイ、福祉用品の利用などさまざまなサービスがあります。

・障害者総合支援法は、難病患者も対象

障害者でなくても、難病患者であれば障害者総合支援法でのサービスが受けられます。
障害者手帳を持っている方であれば症状に応じた障害福祉サービスのほかに、税金や公共料金の減免があります。

・症状に応じて受け取れる障害年金

障害者手帳を持っていない患者さんでも、日常生活を送るのに何らかの支援が必要な方であれば、障害年金の受給ができる可能性があります。
初診日(確定診断を受けた日ではなく、症状について初めて受診した日)がわかっていること、初診日のときにどの年金制度に加入していたか、納付状況、障害の程度が障害等級に該当していて、主治医の診断書と申出書を提出する必要があります。

・「まず相談」それが社会資源を上手に活用できるコツ

症状の変化による不安、今の仕事を続けられるかどうか不安……漠然とさまざまな不安を持つ患者と家族。もっと早く相談してくれればと戸田さんが思うことも、しばしばあるそうです。

「本当にしんどい、相談できない、外に発信できるエネルギーがない、という患者さんが多いです。しかし、社会資源を上手に利用できるコツは、ひとりで悩まずに早めに発信することが大事です」と戸田さんは話しています。

保健所、保健福祉センター、福祉事務所、地域包括支援センター、障害年金支援ネットワークなどが相談に対応します。また、仕事については「ハローワークの難病患者就職サポーター」が支援をします。まずは相談してみましょう。

 

困っているときに相談できる「病院のソーシャルワーカー」

「難病患者さんが利用できる社会資源と利用するコツ」の後半は国立病院機構 青森病院の大平(おおだいら)香織さんがお話しされました。

大平さんは、青森病院の地域医療連携室に勤務しているソーシャルワーカーです。
困りごとを抱えている人の相談にのり、問題の解決に向けて手伝う社会福祉の専門職、それがソーシャルワーカーです。

多くの患者と家族が、整理が付かない気持ちや漠然とした不安を持ち、制度やサービスが自分に合っているかどうかわからない、医師や行政には相談しにくいと感じています。
大平さんはこんな時のコツを3点、教えてくださいました。

1.相談窓口をうまく活用する

患者と家族が「誰に相談したらいいか」を知っていることはとても大事です。
制度やサービスをうまく利用すれば経済的な負担軽減にもなり、暮らしやすくなります。まずは病院のソーシャルワーカーに相談してみましょう。幅広い相談を受け、適切な窓口につないでくれます。
公益財団法人日本医療社会福祉協会 「医療ソーシャルワーカーの紹介」
http://www.jaswhs.or.jp/upload/Img_PDF/190_Img_PDF.pdf?id=0608192226

2.ソーシャルワーカーを活用する

漠然とした相談でかまいません。ソーシャルワーカーと相談すると、問題を整理して一緒に考えてくれます。
ソーシャルワークとは個人の問題を具体的な社会福祉サービスにつなげる仕事です。

さらに、すべての人がより良く生きられるように、社会的なシステムや制度を作り出す、そのきっかけになることを世の中に啓発することも重要な仕事とされています。
そのため、あなたがソーシャルワーカーに相談することがきっかけとなって、ほかの患者の役に立ったり、当事者でないとわからない困りごとを世の中に知らせたりできるかもしれません。

3.セルフケアに「人に話す」「相談する」を入れてみる

疲れたら、ひと休み。深呼吸してリラックスしたり、患部を温めたり、冷やしたり……いろいろな「自分が自分にするケア」の中に、「人に話す」・「相談する」を入れることもコツのひとつです。
誰かに話すことによって、社会とつながり、より良く生きていく社会作りのきっかけになるかもしれません。
相談は、社会と課題を共有することでもあるのです。

患者も家族も「聞く」から「聴く」へ

最後のお話しは京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系の渡辺範雄先生から、「認知行動療法-考え方・行動を変えて世界を変えよう!」と題した講演がありました。

・気持ちは、出来事に対する「考え」から出てくる

認知とは、考え方を指します。たとえば、ある出来事があったとき、誰でも「楽しい」「悲しい」などの気持ちを感じます。しかし、気持ちは出来事があったから自動的に出てくるものではなく、一瞬の間に出来事に対する考えがぱっと浮かび、それが気分になっています。

病気があって弱っているときの思考パターンは、「自分はダメな人間だ、周りの人から嫌われている、これからもつらいことばかりだ」となりがちです。しかし、元気なときも同じように考えているでしょうか?

たとえば知り合いと会ったのに、挨拶がなかったとします。弱っているときは「わたしのことなんか気にかけない」と考え、悲しくなりますが、元気なときはどうでしょう?「考え事をしているのかな、大変だな」と考えるのではないでしょうか。

このように、出来事に対して自分の「考え」と「気分」、「行動」を分けて考えることがポイントです。

そして、ネガティブな気持ちになったときには、元気なときと同じ考えと気分かどうか、自己分析をしてみるといいでしょう。

・一番悲しいとき、不安になったときに浮かんだ「重要な考え」に注目する

とはいえ、弱っているときの考えは負の連鎖になりやすいものです。
そんなときには、一番気分が高まったときに浮かんだ考えに注目します。

たとえば、「知り合いから挨拶がなかった」という出来事があったとき、「私のことなんか誰も気にかけてくれない」と考えたとします。

この出来事に対して別な考えがあるかどうかを考えます。この例では「知り合いから挨拶がなかったが、以前は親しく声をかけてくれた」という事実から、「気が付かなかっただけかもしれない」という考えに変わり、気分も変わってきます。

・どんな気持ちが、どのくらいの強さで起きているのかを自己分析してみよう

人はいろいろな気分を持ちますが、その強さも実感してみましょう。
たとえば悲しいときに、悲しいか・悲しくないかという白黒をはっきりさせるのではなく、「一番悲しい」を100%とすると「すごく悲しい」が80%、「ちょっとだけ悲しい」が40%……というように自己分析して、どのくらい悲しいのかを自分で把握してみます。
自分が今、どの気分なのかを見つけたら、その強さを自分で測ってみましょう。その強さを、たとえば悲しい気持ちであれば下げることを自覚できれば、対処方法としては合っています。

・自分の考えの根拠と反証を考える:自分をケアするバランス思考

「今回は挨拶がなかった」という出来事があり、「だれも私を気にかけてくれない」という考えが浮かんだとします。そこで「しかし」と立ち止まり、根拠と反証を考えます。

「誰も私を気にかけてくれない」という根拠は、「今回は挨拶がなかった」という出来事です。一方、それを反証するのは「以前親しく声をかけてくれた」という出来事です。

「しかし」で根拠と反証をつなぐとバランス思考ができます。
「今回は挨拶がなかった」/しかし/「以前親しく声をかけてくれた」→「気が付かなかっただけかも」→「誰も私を気にかけてくれない、とまでは言えない」となります。

「誰も気にかけてくれない」というのは、100%正しいとは言えません
ひとつひとつの出来事に対してバランスの取れた考えにすることが大切です。
こうしたバランス思考が、自分をケアすることになります。

・行動もバランスが大事:「逃げろ」なのか「戦え」なのか

考え方(認知)だけでなく、行動にもバランスが大事です。
人の行動パターンは「戦え」と「逃げろ」に分けられます。
たとえば知り合いから挨拶がないとき、「戦え」という行動パターンばかりの人は無理して「いい人」を演じてしまい、疲れてぼろぼろになってしまいます。逆に「逃げろ」という行動パターンばかりだと知り合いに会いそうな場所を避け続け、本当に疎遠になってしまうかもしれません。
行動も、バランスを取っていきましょう。

・「自分をケアする」行動は、日常の小さなことから

人は達成感や喜びを見いだすと気分が良くなります。

本当に弱っているときには、ほんの小さなことから自分をケアしてみましょう。
片付けた、窓を開けたということだけでも達成感になります。ストレッチをした、アロマをしたということは喜びにつながります。

気持ちが沈んだ家族や友人をケアしよう

患者が自分について話すとき、「自分がつらい、というと家族が『わたしだってつらい』と言うので、どちらがつらいのか、よくわからなくなる」という人は意外と多いものです。

人は語ることで、緊張が和らぎ安心感が得られます。

このとき、周囲の人の「きき方」が大事です。
通常は「聞く」と書きますが、ケアの場合は「聴く」ことがポイントです。聴くという字には耳、目、心という字が含まれています。

相手の話を聴くときには、目で相手の表情や目を見ましょう。心で相手の心を想像し、共感しましょう

そして共感するときには、聴き手の自己流の解釈を入れないように、相手の言葉を使って繰り返すようにします。
その人の考えを受け止めることが「聴」です。感じていることや考えを聴き、受け止め、共感することで人は安心し、気持ちの整理がつき、自分を肯定的に考えていくことができます。

患者だけでなく、家族やケアをする人も日々不安な気持ちを持っています。自分で自分のケアができ、お互いのケアをしていければ、生活の質はもっと上がっていくことでしょう。