2017年5月13日(土)、京都にて市民公開講座「慢性疾患のクオリティ・オブ・ライフを高めよう! 専門家と一緒に考える心理・社会的『セルフケア』」が開催されました。

この市民公開講座は、心理・社会面に関する各専門家の知識と、病気を持ちながら仕事を続けている患者さんの体験談で構成されており、「筋強直性ジストロフィーの認知行動療法研究班*」と京都大学大学院医学研究科社会健康医学系が主催しています。

筋ジストロフィーのような慢性疾患の患者さんは身体的・精神的な困難を持っていますが、心理・社会面で「セルフケア」ができると生活の質(クオリティ・オブ・ライフ:以下QOL)が向上すると考えられています。

この市民公開講座のレポートは、前半を(1)、後半を(2)に分けて掲載します。前半はQOL調査と患者自身の体験、後半は社会資源を使うコツと認知行動療法についてです。併せてお読みください。
*平成29年度 日本学術振興会科学研究費助成事業

より良い毎日のために、患者自身ができることとは

国立精神・神経医療研究センター 遠藤麻貴子先生から「きっかけは、筋強直性ジストロフィーのQOL調査研究」として、現在進められている「筋強直性ジストロフィーの症状とQOLの調査研究」の紹介がありました。

筋強直性ジストロフィーは、筋力低下だけでなく、さまざまな臓器の病気が起きます。筋肉の症状を低減したいと患者と家族なら誰しも思うところですが、それとは別に「病気を抱えながら少しでも生活の質を高められるような、筋肉の治療以外の対応」も大事です。

「実は、国内には筋強直性ジストロフィーの患者さんがどう困っているのか、というデータがありませんでした」と遠藤先生。
それなら面接で、患者がどう困っているのかを調査しよう。
また、「患者も困っているけれど、周囲の家族やケアをする人も困っているのではないか」と考え、介護者の調査も同時に行っています。2017年5月現在、50組の計画のうち30組くらいの調査を行い、結果を2017年度内にまとめる予定とのことです。

遠藤先生は、研究途中で気が付いた点を紹介されました。

・患者向けの健康関連QOL(SF-36v2

 痛み:6割の患者があまり感じていない
疲労感:6割の患者が「疲れ果てた」としている
身体的・心理的理由で人付き合いが妨げられたか:9割以上の患者が「妨げられなかった」としている

・介護者向けの介護負担尺度(J-ZBI

介護者の約50パーセントが「自分を頼っている」・「患者の将来を考えて不安になる」という負担感を持っている

こうした回答をもとに、「患者自身が周囲の助けを借りながら考えてQOLの向上を目指すこと、そのために必要な考え方を身につける心理療法(認知行動療法)プログラム」の開発が検討される予定です。

遠藤先生は講義の最後に、こう話しています。
「病気を持ちながら、より良い毎日にするために、患者さん自身ができることがあります。ご自分の心の状態を把握し、ひとりで抱え込まず人と相談すること、適切な支援を受けることは、みなさんの心身の健康に大きな影響力があります。」

相談する・支援を受ける……。わたしが?どうやって?と思う方もいるでしょう。続く講義ではその考え方や方法が語られました。

「気持ちよく助けてもらう」ことから生まれたコミュニケーション

京都大学iPS細胞研究所で、筋疾患治療に関する研究をしている本田充さんは、ご自身が顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーを持つ患者でもあります。
本田さんからは「『病気だからこそ』の生き方-筋疾患の患者として-」というお話しがありました。

本田さんが自身の病気に気が付いたのは中学生のときでした。きっかけは、小学生の時からやっていたバイオリンを引くのにとても腕を重く感じ、楽器を構えるのも違和感があり、ひどく疲れ出したことです。それから半年くらい病院を転々として、ようやく診断がつきました。

高校・大学に進学しますが、当時は病気の知識も、同じ病気の患者に会うこともなく、将来自分がどうなるかもわかっていませんでした。自分のことを自分でわかっていないため、周囲にもどうやって伝えていいかわからず、理解されない状態でした。

病気でないように振る舞う日々。「自分でできる限りのことはしよう」と思っていても、症状が進んで、できていたことができなくなっていきます。
「人に頼ることへの抵抗がある一方で、自分に自信がなくなっていくという板挟みのような状況でした。病気を抱える人なら、多くの人が陥りやすい心理状態なのかなと思います」。

旅行が好きな本田さん。「歩けなくなる前に旅行に行こう」と考え、大学3年生のときに旅に出かけました。
ラオスに行き、メコン川沿いのパクベンという村に着いたときのことです。パクベンでは川岸から村へは崖のような場所を登る必要がありますが、本田さんはすでに階段を上ることも難しくなっていました。
“言葉が通じるかどうかもわからないラオスの人に、助けてもらえるだろうか。”
不安を抱えたまま、本田さんはパクベンでボートを降りました。宿への呼び込みをしていた青年に「崖を登れない」とゼスチャーで説明すると、青年は本田さんをかついで崖を登り始めました。周囲の多くの人々も協力して、みんなで本田さんを村に連れて行きました。
「強制的に助けられた(笑)。それがすごく新鮮で……。そのとき、気持ちよく楽しそうに助けてもらうことを知りました。これは、病気だからこそ起きたことです」。

その体験から、本田さんは大学を休学して世界一周をしようと思い立ち、実行しました。インドではバリアフリーとは言えない交通機関に乗るときに、近くにいる人がみんなで本田さんを手伝い、病気だというと祈ってくれました。「別な意味でのバリアフリーだと思いました」と本田さんは当時を振り返って話します。

“助けてもらうことは、ちょっとのアピールでこんなに簡単に、気軽にできるんだ!”

病気があったからこそできたコミュニケーションを体験して本田さんは日本に帰ってきました。

現在、本田さんは京都大学iPS細胞研究所 櫻井研究室で難治性筋疾患の治療法開発に取り組んでいます。患者の細胞からiPS細胞を作り、病気の原因を究明する研究に取り組んでいます。

本田さんは、患者として次のことを心がけています。

必要な時に遠慮せず、助けが必要だとわかりやすくアピールすること

・日ごろからアピールしていると、初めて助けをお願いする人にも、どのように頼めば的確に要望を伝えられるかがわかってくる

別の形で、人助けできることを探してみよう

・病気だからこその体験や人との出会い、その時の感情を大切に

・「病気だからこそ」という視点を意識する

自分ができないこと、できなくなってしまったことばかりに目を向けず、今できることを探してみよう

「病気だけど、ということも大事。病気だけど何とかがんばっていることは、周りの人から見ればすごいことで、何かを成し遂げられたら自信につながりますが、やはり限界はある。がんばってもどうにもならないことは、たくさんあります。

そんなときに、 “これは無理だけど、ほかにできることはないかな”と考えると、もし病気ではなかったら考えもしなかった別のことができるようになる。病気だからこそ、新しいことができるようになる、と考えています」と、本田さんは話しています。

市民公開講座 心理的・社会的「セルフケア」レポート(2)に続きます。