国内初「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会」を開催しました

2017年7月23 日(日)、筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)は東京都小平市の国立精神・神経医療研究センター 研究所3号館セミナールームにて、「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会」を開催、全国各地から100名もの方にご参加いただきました。
先天性筋強直性ジストロフィーだけに焦点を当てた勉強会としては国内初で、子どもたちに関する医療知識をはじめ、遺伝カウンセリング、社会サービス、治療法と患者登録、同じ病気を持つ親御さんへの療養方法、親子でできるストレッチ方法と、包括的な勉強会と交流会を併せて行い、先天性筋強直性ジストロフィー治療薬を開発中の製薬企業からもメッセージもいただきました。
※2017年10月筋強直性ジストロフィー患者会調べ



多くの子どもが独歩を獲得できる。継続的な合併症管理と筋力評価が重要

冒頭に「先天性筋強直性ジストロフィーの子どもを育てるときに気をつけたいこと」として、東京女子医科大学の石垣景子先生から講義をいただきました。筋強直性ジストロフィーという病気について丁寧な説明があり、「産まれたばかりの時期は一番症状が重く、心配される方も多いですが、新生児期を乗り越えれば、予後は悪くない。出生時にいかに後遺症を残さないようにするのかが大事」とのことです。

合併症の管理としては、年1回の血液検査と心電図・心エコーが強く推奨されたほか、歩行可能になっても理学療法士・作業療法士の受診を続け、定期的な筋力・関節・側弯の評価を行い、ストレッチや発達促進を継続する必要があります。

知的障害があるが、重度ばかりではない。無理なレベルで学ばせないのがコツ

先天性筋強直性ジストロフィーの子どもたちは知的障害を持っていますが、軽度から重度まで個人差があります。「理解」「歌唱」の能力は比較的高い子どももいます。「苦手な分野があることを理解し、子どもの自信を失わせないようにしましょう」と石垣先生。
とくに理解力や意欲の低下に加え、視覚認知が言語性認知より低下することにより、失敗を繰り返すと人間関係に対して無意欲になりがちです。そうならないように教育や療育が介入するよう、関係者に協力をお願いすることも必要です。



石垣景子先生

妊娠する前には、遺伝カウンセリングで相談を

「遺伝について知っておこう:遺伝カウンセリングで相談しよう」は国立精神・神経医療研究センター病院 遺伝カウンセリング室の杉本立夏先生から、遺伝の仕組みについての詳しい説明をいただきました。

生まれてくる子どもが病気を持つかどうかを調べるには出生前診断と着床前診断があります。いずれも「新生児期、もしくは小児期に発症する重篤な疾患」に限って実施されている検査です。家系内の患者が遺伝学的検査によって筋強直性ジストロフィーと診断されていることが条件です。限られた医療機関での検査となり、出生前診断は妊娠中の限られた時期に実施するため、妊娠前に検査を受けるかどうかを決めておく必要があります。遺伝カウンセリングを上手に利用しましょう。
遺伝子診断は患者家族と医師、遺伝カウンセラーが話し合い、さまざまな状況を踏まえて、その実施が判断されます。
「全国遺伝子医療部門連絡会議」の「遺伝子医療実施施設検索システム(http://www.idenshiiryoubumon.org/search/)」から、神経筋疾患を選ぶと全国の遺伝カウンセリング実施施設を探せます。
*検索結果の「筋緊張性ジストロフィー」は「筋強直性ジストロフィー」を指します。



杉本立夏先生

指定難病制度や障害者手帳取得で「出るお金は最小限に、入るお金は最大限に」

「子どもの養育や学校、いろいろな社会サービス」について、国立病院機構 仙台西多賀病院 医療福祉相談室の相沢祐一先生から多くの資料提供とともに講義をいただきました。

患者と家族が安心して治療を継続するためには、指定難病医療費助成制度や身体障害者手帳取得で助成を受ける・児童福祉手当や特別児童扶養手当、特別障害者手当を受けるなど医療費の負担を低減するといった取り組みが欠かせません。

筋強直性ジストロフィーは現在、小児慢性特定疾病の対象外ですが、自己負担上限額は指定難病の半分・食事療養費の減免もある小児慢性特定疾病の方が有利とのことでした。

*この講義の後、2017年7月31日に日本小児科学会が筋強直性ジストロフィーを小児慢性特定疾病に追加するよう厚生労働省に追加要望を提出しています。



相沢祐一先生

今すべきは、合併症を早期発見すること・患者の存在を示すこと

「もう治験が始まっている!治療薬の開発状況と、子どもにもできる患者登録」について、大阪大学大学院 医学系研究科の高橋正紀先生から講義をいただきました。

筋強直性ジストロフィーがなぜ起きるのか、その仕組みがわかってから治療薬の開発が進んでいます。さまざまな方法で治療薬が開発されていますが、治療薬ができるまでには、販売する国ごとに治験が必要です。
米国ではIONIS社の核酸医薬の治験第2相が実施されたほか、2017年現在はAMO Pharma社が先天性・小児期発症の筋強直性ジストロフィー治療薬として英国で治験第2相を実施し、安全性と忍容性を確認しています。

患者登録は、こうした治験を日本国内でも円滑に進め、患者に治療薬を届けるために実施されています。
筋強直性ジストロフィーのように、患者数の少ない病気での治療薬開発には、製薬企業としては患者のコミュニティーにつながり、市場規模や治験の実施計画、治験に参加する患者の募集をスムーズに進めたいと考えています。
一方、患者としては治療薬開発情報や、世界で進む治験に日本だけが取り残されないように製薬企業とつながっている必要があります。
この「つながり」を持つために患者ひとりひとりができることが、患者登録です。

治験を受けなくても、患者登録を行うことは定期的な受診につながり、合併症の早期発見・対応の機会になります。この病気の専門ではない医療者にも病気の理解を深めていただけます。
患者登録のデータから、心機能・呼吸機能に関する研究も進められています。2017年7月現在、患者登録数は600名を超え、さらに増え続けています。

*注:患者登録後に治験の案内が来た場合、治験は断ることができます。断っても患者に不利益はありません。



高橋正紀先生

AMO Pharma社Joseph Horrigan先生からメッセージ

この勉強会開催にあたって、患者会事務局では申込に加えてアンケートを行ったところ、患者登録について44パーセントの方が「知らない」、20パーセントの方が「知っているが登録していない」と答え、患者登録が治療薬に欠かせないことをご存じない方が約60パーセント以上という実情が明らかになりました。

「目の前で治験をしている国があるのに……。」事務局では、先天性筋強直性ジストロフィー治療薬の治験を実施中のAMO Pharma社に、この勉強会に向けてメッセージをお願いしました。多忙な最中にもかかわらず、勉強会直前に同社の小児医学責任者Joseph Horrigan先生からメッセージが届きました。

『(略)わたしたちの研究にとって何よりも重要だと思うのは、患者さんとご家族が今まで、そしてこれからも、決定的な役割を持っているということです。
患者会からのガイダンスやフィードバック、サポートは、筋強直性ジストロフィーの治験に参加したいという意思と同様、現在起き始めている進歩に欠かせないことです。(略)』

治らないと言われた病気が、治る可能性がある。
患者と家族ひとりひとりが、現在起き始めている進歩を押し進めていくことが大事です。



親の定期受診・親の患者登録も大切

当患者会副理事長で、現在、松山市民病院で研修医として勤務している明地雄司から「子どもを育てるパパ・ママも定期受診で健やかに」として、親の療養について説明が行われました。事前に、明地は当患者会の顧問、国立病院機構 刀根山病院の松村剛先生と大阪大学大学院の高橋正紀先生を訪ね、指導を仰ぎました。

「先天性筋強直性ジストロフィーは、ほとんどの場合が母親由来。お母さんは子どもの療養には熱心だけれど、自分のことは後回しにしがち」と、松村先生。

子どもと家族のために、お母さんたちこそ自分の健康管理をしてほしい。
明地は同じ患者として、ポイントをまとめた解説を行いました。

11の具体的な方法に加え、明地は自身の検査入院の写真を示しました。「軽症であっても、甘く見たりはしない」。筋強直性ジストロフィーは、見た目には症状がわからないような軽症であっても定期的な受診が必要です。明地は年1回、刀根山病院に検査入院を行い、全身のチェックをしています。

また、親の患者登録も大切です。
治験を推進するために重要なだけでなく、親世代のデータを患者登録システムに積み重ねていくことで、この病気の未解明部分に向けた研究が進み、子どもたちの世代に向けた治療法や療養方法に大きく寄与します。



明地雄司

次につなげよう!IDMC-11へ

明地から、続けて当患者会について説明を行いました。アラートカードや療養方法を解説した小冊子、市民公開講座レポート、各地で開催したストレッチ体験&交流会、研究班での発言……。この勉強会も、患者会内の活動の一環として助成金を申請、採択いただいて実現しました。

当患者会では9月に、米国サンフランシスコで開催される国際会議IDMC-11に参加することにしていました。先天性筋強直性ジストロフィーの患者と家族は世界中にいるはず。日本でも、この病気を持つ子どもたちを大事にしていることを伝えたい。
そこで、講義の最後に明地が呼びかけました。
「みなさんが集まった写真を、IDMC-11で展示させてください!」

患者会のスタッフが椅子を並べ、机を下げて勉強会に参加したみなさんを1枚の写真に収めました。患者会では顔を出したくない方に配慮をする予定でしたが、全員が「写ってかまわない」とのこと。患者会が、参加者全員に助けてもらい、IDMC-11に写真をパネルにして展示しました。



ストレッチは続けることが大事

「毎日しよう!親子でできるストレッチ方法」は、国立精神・神経医療研究センター病院の有明陽佑先生が、理論の説明と実技デモを行いました。
患者会会員の親子がテーブル上で実技モデルを務めました。子どものストレッチは、親が加減を見ながら手助けをしていくことが大事です。さらに親自身も関節を伸ばすストレッチを毎日続けていきましょう。



有明陽佑先生

90分にわたる質問時間

「先生方への質問タイム」は予定を大幅に超過し、90分もの長さに。さまざまな分野の先生がそろっているため、どの質問にも丁寧に答えていただきました。その後の交流会では自己紹介をするだけの時間しか取れず、ご参加いただいたみなさんにはこの場を借りてお詫び申し上げます。
お子さんを連れて来られた方が多く、会場外ではお子さんを休ませるお父さん同士の会話があったり、LINEの交換をするお母さんがいらしたりと、個別に交流の輪を広げていただく姿が見られました。



ご協力いただいた先生方

最後に、この勉強会への助成をいただいた公益財団法人洲崎福祉財団さまに、あらためて感謝を申し上げます。
多くの方からのご寄付も役立たせていただきました。
設立間もない当患者会にとって、手探りの中での開催でしたが、先天性筋強直性ジストロフィーを持つ子どもたちと家族にとって大きな意義ある会を開催させていただきましたこと、ここに深く感謝申し上げます。



なお、筋強直性ジストロフィー患者会内では全講座内容を非公開ビデオでご覧いただけます。プライバシー保護のため、会員限定とさせていただいております。ご了承ください。