先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 大阪レポート(1):知識と情報を力にしよう
2019年5月26日(日)、リファレンス⼤阪駅前第4ビルにおいて「先天性筋強直性ジストロフィー親子のための勉強会 in 大阪」を開催しました。当日は夏のような暑さの中、100名近くの患者と家族が参加し、長時間の講義を熱心に聴講しました。
歩けるようになってもリハビリを。不整脈などを定期的受診でチェック
最初の講義は、国立病院機構 大阪刀根山医療センターの齊藤利雄先生から「先天性筋強直性ジストロフィーの子どもを育てるときに気をつけたいこと」をお話しいただきました。
先天性筋強直性ジストロフィーは、出産直後がもっとも病状が重く、呼吸不全で亡くなる子どもが約20パーセントいるとされています。
新生児期・乳児期を乗り越えれば、ほとんどの子どもが歩けるようになりますが、歩けても筋力低下では説明がつかないバランスの悪い歩き方、薄い体幹なども見られます。
「最初はみなさん、がんばられますが、だんだん動けるようになってきたからリハビリはやめる、という方もいらっしゃいます。しかし病状はだんだん変わって行きます。リハビリを継続し、定期的に筋力・関節の硬さや側弯を評価し、必要に応じてストレッチをしたり、装具を検討したりする必要があります。青年期後の進行に早めに対応しましょう」と齊藤先生。「手先が不器用になる問題も起きてきたら、作業療法も入れていくといいでしょう」とも話されています。
また合併症管理も重要です。特に不整脈は致死性のものもあるため、定期的な受診をして心臓の検査をすることが欠かせません。
子どもが楽しく学べる環境で、しっかりほめる
先天性・小児期発症筋強直性ジストロフィーとも、知的障害が起きてきますが、この病気の子どもたちは、知能指数評価で動作性IQよりも言語性IQが高いことがわかっています。文字や文章の習得度は比較的高く、繰り返しの刺激を与えると、言語と結びつけて記憶ができるようになる子どももいます。
家庭でできるトレーニング方法を学ぶことも効果があります。
子どもがまねしやすい発音法、親が先回りをせずにじっと待ち、子どもが自発的に言葉を発信できる環境作り、舌や口の動かし方などで構音障害に向けた指導をするなどが勧められます。言語療法(ST)に一度はかかってみるのもいいでしょう。
保育園・幼稚園・小学校では、同年齢の子どもとの集団生活に積極的に参加し、楽しく学べるようにします。無理なレベルで学ばせず、できたことをしっかりほめることが大事です。患者と病気を良く理解してもらえる協力的な施設を探しましょう。
先天性・小児期発症筋強直性ジストロフィーでは、早期からの療育指導と教育との連携が大事です。
遺伝情報の特殊性を理解し、健康管理をするための遺伝子検査を
大阪大学医学部附属病院で認定遺伝カウンセラーを務めている佐藤友紀先生から、「遺伝について知っておこう」をお話しいただきました。
筋強直性ジストロフィーは、19番染色体上のDMPK遺伝子で、CTG反復回数が50回以上になっていることが原因です。優性遺伝形式で伝わるため、患者と血縁者では違った目的で遺伝子検査が実施されることもあり得ます。
個人の状況や気持ち、価値観に適切な対応をしつつ遺伝子検査を行う。それには検査を受ける人が遺伝子検査の特殊性と検査の種類、その意味を知っておくことが大事です。
最初に遺伝情報の特殊性を理解しておきましょう。
- 不変性:生涯変化しない
- 共有性:家族で同じ情報を共有している可能性
- 予測性:将来の発症を予測できる可能性
そして遺伝子検査には次の4種類があります。
- 確定診断:すでに症状がある人に対して行う(保険適用)
- 発症前診断:患者の血縁者で、無症状な人に将来発症する可能性があるか、子どもに疾患を伝える可能性があるかを調べる(保険外診療)
- 出生前診断:妊娠中の赤ちゃんが疾患を持っているかどうかを調べる
- 着床前診断:妊娠前の受精卵が疾患を持っているかどうかを調べる
すでに症状のある人は、正しい診断を受けるために遺伝子検査を行うことが重要です。
筋強直性ジストロフィーにおいて健康管理上、避けるべき薬などへの対応ができます。また筋強直性ジストロフィーを受け継いでいる可能性のある家族にも、そうした情報を共有することもできます。
発症前診断は、無症状の血縁者が将来の発症や次世代に遺伝する可能性を調べるために行うもので、確定診断とは意味が異なります。検査を受けることによるメリットとデメリット、遺伝情報の特殊性を十分に理解しておくことが必要です。
また、無症状の未成年の子どもには、一般的には発症前診断を行いません。子どもが無症状で成長した場合は、自分で判断できる年齢に達したときに自らの意思で発症前診断を受けるかどうかを決める権利があるためです。
出生前診断は妊娠中の赤ちゃんの細胞を採取して検査するものです。各病院での検討や準備に時間がかかるため、妊娠前からの相談が必要です。また出生前診断では重症度の診断は困難とされています。
着床前診断は、体外受精で得た受精卵から細胞の一部を取り出して検査を行い、疾患の原因を持たないと診断された胚(はい)を子宮に戻します。日本産婦人科学会への申請が必要なほか、高額な費用がかかり、着床前診断後も出生前診断が推奨される場合もあります。
また新しい技術のため、生まれた子どもに対する長期的な影響はわかっていません。
着床前診断の詳しい情報は「日本着床前診断コンソーシアム」をご覧ください。
http://www.fujita-hu.ac.jp/~japco/index.html
遺伝子検査を行う場合は、遺伝カウンセリングで相談できます。検査を受ける人の状況や目的に応じた対応をどうするか、患者と家族だけで悩まず相談しましょう。
進みつつある治療法開発。患者と家族の協力が必要です
大阪大学大学院 医学系研究科 高橋正紀先生から、「治療薬の開発状況と、親子でできる患者登録」について講義をいただきました。
治療薬の開発は進んでおり、他国では治験段階の薬もあります。核酸化合物、ウイルスベクターを用いた治療法、低分子化合物など、さまざまな方法による治療薬が研究されています。
治療薬開発は、治験で実際に患者に投与して安全性と有効性を確認する必要があります。治験には、健康な成人で試す「第1相」、少数の患者で試す「第2相」、多くの患者で試す「第3相」があります。この道のりを経て、はじめて国から治療薬として販売するための承認を得られます。
治験といえば、治療薬が他人より早くもらえるのではないか、と患者と家族は考えがちです。しかし高橋先生は、「治験は“薬をもらうこと“ではありません。研究であり、効果を確かめるために普段の診療ではしないことも行います。何度も約束通りに通院したり、さまざまな検査を行ったりします」と話されています。
もし患者が治験の対象者になった場合は、研究に参加する者として力を尽くす必要があります。
そして治験を実現させるために、患者と家族にはできることがあります。それが患者登録です。
治験には、「どこに」「何人」「どんな症状の患者がいるか」がわかっていないと進められません。そこで日本の神経・筋疾患患者登録システム「Remudy」では、患者のデータを国際協調した基準で収集しています。
2017年に、日本の患者登録数は世界4位に達しました。2019年5月には、900人超となっています。
患者自身が健康管理でき、担当医とのコミュニケーションで意識を変えてもらい、日本の医療の研究に貢献する……患者登録には将来の医療を拓くという大きな意味があります。
社会保障のおおもとは「生存権」。頼るのは恥ずべきことではない
国立病院機構 大阪刀根山医療センター 織田篤志先生から、「大阪の社会福祉サービス」についてお話しいただきました。
冒頭、織田先生から「生存権」の話がありました。
「生存権」とは憲法第25条で定められており、「国民が人間らしく生きるために必要な諸条件を国家に要求できる権利」を指します。
「持っている権利を使うことは、恥ずかしいことではありません。しかし、この権利を使う条件として“申請主義”があります。申請しなければ始まらないのです」と織田先生は強調されていました。
児童と成人にわけて、お金に関すること、日常を支援するサービスについて、小児慢性特定疾病医療費助成制度や特定医療費(指定難病)助成制度、身体障害者手帳について、制度の内容と利用方法が細かく示されました。
さまざまな制度は重複しているところもあるので、上手に使っていくためには保健師や大阪難病医療情報センター、医療ソーシャルワーカーとつながり、相談をしていきましょう。
呼吸リハビリを日常に取り入れよう
国立病院機構 大阪刀根山医療センター 寺田幸司先生から、「知っておきたいストレッチと呼吸リハ」について、デモンストレーションを交えながらお話しいただきました。
先天性筋強直性ジストロフィーの子どもたちは、さまざまな発達をしていきます。そのため、一人ひとりの症状に合わせて、二次障害を予防しながら発達を支援していくことが重要です。
ストレッチは関節の拘縮を予防するために、毎日少しずつ行います。寺田先生からは、患者会会員の子どもが協力して足関節の拘縮予防のためのストレッチを実演いただきました。
また、肺をしっかり膨らませ、痰のないきれいな状態に保つことを目的とした呼吸リハビリテーションも大事です。
専門病院などでは救急蘇生バッグを使って肺の中に肺活量よりも多い空気を入れ、最大強制吸気量(MIC)を維持する練習が行えます。MICを維持することは、痰を出すときにとても大事です。
日常的に呼吸リハを取り入れる方法として、以下のような点が示されました。
- 遊びの中で、深い呼吸をしてもらう:カラオケ、ハーモニカや笛を吹く、口の体操や口のマッサージ
- 痰を出さないのではなく、動いてしっかり痰を出す
- 誤嚥を防ぐために:むせているのに一口量が多すぎないか、十分に噛んで飲み込んでいるかを観察する
二次性障害をカバーするために、子どもをよく観察し、毎日できることを少しずつ行いましょう。個人差があるため、ストレッチや呼吸リハビリテーションは理学療法士にアドバイスをしてもらってください。
質問タイム:子どもの成長を待ってあげよう
最後に、筋強直性ジストロフィー患者会の顧問で、国立病院機構 大阪刀根山医療センターの松村 剛先生に司会を務めていただき、参加者の質問に回答いただきました。
- CTGリピート数は変動しますか?
- 変動します。CTGリピートが長くなると、DNAのコピーを取るときにズレが生じやすくなるため、CTGリピート数は同じ人でも時間経過とともに変化し、血液で測るか筋肉で測るかによっても違います。
CTGリピート数は、診断するときは意味がありますが、重症度とは高い相関があるわけではありません。このため、リピート数を強く意識しすぎるのはあまり意味のあることではありません。それよりも、ほかの子どもと比べず、時間をかけて成長するのをきちんと待ってあげてください。言葉は特に、かなり時間をかけて成長します。
- 食事の時に、よく噛まずに飲み込もうとします。どうしたらいいでしょうか?
- 筋強直性ジストロフィーの患者さんは、咀嚼力(噛む力)が弱いです。
噛む力が弱いので、噛むのが面倒になり、食べ物を丸呑みしようするため、窒息の原因になりやすいです。
噛む力が弱いことを考慮して食事を考えましょう。
また顎が弱いので、歯の噛み合わせが悪く、手の力も弱いためいため、歯磨きがしにくいという問題もあります。
口の中の衛生状態が悪いと、誤嚥したときにばい菌も一緒に入ってしまいます。できれば定期的に専門の口腔ケアを受けることを勧めます。
*一般社団法人日本障害者歯科学会
http://www.kokuhoken.or.jp/jsdh-hp/html/
そのほか、たくさんの質問が寄せられ、先生方から回答をいただきました。講師の先生方に、あらためてお礼を申し上げます。