ママたち、「助けて」と伝えよう:ウェビナー「ママ、パパ、元気でいて!」レポート

2022年7月24日(日)、DM‐familyウェビナー「ママ、パパ、元気でいて!」を開催しました。
7月23日は「国際筋強直性ジストロフィー家族の日(International Myotonic Dystrophy Family Day)」です。本ウェビナーはこの日を記念しています。
先天性・小児期発症筋強直性ジストロフィーの子どもを育てる親御さんに向けたお話しに、約40名の参加者が聴き入りました。

東京女子医科大学 石垣景子先生と、国立病院機構北海道医療センター 有馬祐子先生
お父さん、お母さん、自分のことをなおざりにしていませんか?

最初に、東京女子医科大学 小児科 石垣景子先生から、「子どものために、自分を守る方法」というお話しがありました。

先天性・小児期発症筋強直性ジストロフィーの子どもたちを育てるのは大変です。年齢が上がるにつれて、次から次へといろいろな問題が起きます。

「だからと言って、自分のことをなおざりにしていませんか?」

*なおざり:本気でないさま。おろそか。

95パーセントはお母さんから。しかしお父さんからのこともある

「この病気の子どもは、95パーセントくらいがお母さんからの遺伝子によって発症しています。しかし、実はお父さんからの遺伝子で発症することもあります」と、石垣先生。

先天性・小児期発症の筋強直性ジストロフィーを持つ子どもが産まれたら、両親のどちらかが原因となる遺伝子を持っています。

お母さんが診断されないままにしている状態(未診断)は、お父さんが原因となる遺伝子を持っている可能性もあることに、注意してください。お父さんに筋強直性ジストロフィーのケアが必要になるかもしれないのです。

お母さんに深刻なマタニティーブルー

先天性筋強直性ジストロフィーの子どもを妊娠・出産するときに、お母さんにはさまざまな症状が現れます。羊水過多、切迫流産・切迫早産があり、お母さんに筋力低下が起きる人が多いことなどが調査によってわかっています。
さらに、筋強直性ジストロフィー特有の問題として、深刻なマタニティーブルーが起きます。
単なるマタニティーブルーだから大丈夫、と軽視せず、お母さんに配慮をする必要があります。

遺伝カウンセリングは重要。両親も診断すれば、医療のフォローが受けられる

遺伝カウンセリングはこの病気を把握したり、病気であることを受け止めたりするときに大変重要です。
しかし、調査では多くの人が「遺伝カウンセリングを受けなかった」、と答えています。

重篤な子どもが生まれたことで、心理的配慮から、お父さんやお母さんの診断が行われないケースがありますが、未診断のままだと、その後の心理的なフォローにつながりません。 医療を受けられず、症状が重くなるだけでなく、マタニティーブルーから重症なうつになる可能性もあります。

命にかかわることに備えるには「定期健診」

筋強直性ジストロフィーは、さまざまな臓器に病気が起きます。

中でも命にかかわることは以下の5点です。

1.呼吸器感染,呼吸不全が最多で50%

→特に,嚥下障害による誤嚥性肺炎の影響

2.致死性不整脈や心不全が10~20%

3.原因不明の突然死が10%

4.悪性腫瘍(がん)の合併が一般人口の2倍以上

5.糖尿病,高脂血症の合併が多い

「このうちのほとんどが、年1回の定期検診で早期発見と早期対応ができます!」と石垣先生。職場や自治体の健康診断や特定健診を活用しましょう。

1.少なくとも年1回の心電図、循環器科受診

不整脈・心伝導障害は筋強直性ジストロフィー患者に多く、心電図検査は予測に効果があります。
測定する時間によっては症状が現れない場合もあるため、できれば循環器科でホルター心電図での検査をお願いしましょう。

2.少なくとも年1回の血液検査

HbA1c、中性脂肪、コレステロール値の測定を!
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は糖尿病の指標です。5.6%以上や空腹時血糖90mg/dl以上なら、さらに精査しましょう。

3.積極的ながん検診

悪性腫瘍(がん)の発生率は筋強直性ジストロフィーの場合、一般の人の2倍、死亡率は2.5倍とされています。
大腸がん、肺がん、胃がん、子宮がん、乳がんの検診を受けましょう。
甲状腺異常がある場合は、甲状腺がんに注意してください。

「ここまでは、とくに身構える必要はありません。専門医でなくても十分カバーできますので、ご自分の体を守るためにも年1回の心電図、血液検査とがん検診を受けましょう」と石垣先生は話されました。

40歳以上になったら、症状がなくても年1回の呼吸機能と嚥下機能検査

40歳以上、または何らかの症状がある場合は、年1回は睡眠時の呼吸機能と嚥下機能の検査をしましょう。自覚症状はほとんどなく、検査を受けないとわかりません

呼吸不全は、筋強直性ジストロフィーで死亡する原因のナンバーワンです。

日中の眠気やだるさ、朝起きたときの頭痛など、漠然とした症状しかありませんので、検査して早めの対応をおすすめします。

嚥下障害は筋強直性ジストロフィー患者の半分に起き、誤嚥性肺炎または窒息の原因になります。誤嚥性肺炎・窒息で亡くなる筋強直性ジストロフィー患者は25~36%とされています。これも、検査しないと命にかかわります。

「お子さんを元気に育てるには、親御さんも元気でいる必要があります。症状がなくても、年1回は検査をおすすめします!」と石垣先生。

続けて、家族へのお願いを話されました。

筋強直性ジストロフィーのお母さんには、家族の協力が大事

筋強直性ジストロフィーの子どもを持つお母さんは、出産後に筋力低下や筋強直(ミオトニー)が起きるだけでなく、半年以上の疲労回復の遅れ、重症なうつ状態になることがあります。

「お母さんは、日常生活に戻れなかったり、育児困難に陥ったりすることがあります。ご家族の理解と協力が必要です」

そして、先天性・小児期発症筋強直性ジストロフィーの親御さんに向けて次のように語りかけました。

育児にはご家族の全面的な協力が必要です!
お母さんもためらわずにヘルプを求めましょう!

珊瑚、お母さんには「無理をしない、させない」が重要
先天性のお子さんは成長に伴い異なるケアが必要。
お子さんのためにも親御さんは体調管理に留意し、最低でも年1回の検診を受けよう
無理して子育てしていませんか?

次に、国立病院機構 北海道医療センター 地域医療連携室副室長・看護師長 有馬祐子先生から「使おう社会サービス」と題したお話しをいただきました。

地域医療連携室では、医療ソーシャルワーカーや看護師が、病気などに伴って起きるさまざまな療養・生活上の困り事について相談を受けています。

「筋強直性ジストロフィーの患者さんは、さまざまな症状があります、ご自身の症状に気がつがずに過ごしていませんか?無理をしながら、子育てや生活をしていませんか?」有馬先生のお話しはこんな問いかけから始まりました。

社会サービスは、たくさんある

筋強直性ジストロフィーの患者が利用できるサービスはたくさんあります。大きく分けると、次の4種類となります。

医療に関すること:医療費の負担を減らし、通院を継続するためのサービス

生活に関すること:無理をしないで、生活・子育てを継続するためのサービス

就労に関すること:社会とのつながりを持ち続けて行くためのサービス

経済に関すること:年金や手当により、経済的負担を減らす+各種料金の割引・助成

本ウェビナーで示された社会サービスのリストは、こちらからダウンロードいただけます。

*サービスの利用については、各自治体によって異なる場合があります。ご確認ください。

社会サービスの利用には、まずは相談。どこに?誰に?

社会サービスは、目的や内容に応じてさまざまな種類があります。申込方法がそれぞれ違っていたり、症状や収入に応じたりなど、理解して申請するまでには大変な労力がかかります。

そこで、こうしたサービスを考える場合は、下記のような人に相談しましょう。

  • かかりつけ病院の医療ソーシャルワーカー
  • ケアマネーシャー
  • 相談支援専門員
  • 難病相談支援センター

お子さんやご自分の、かかりつけ病院に行って、医療ソーシャルワーカーと顔見知りになるといいかと思います」と有馬先生。お子さんの病院での相談が良いきっかけになるかもしれません。

相談の始め時:最近、こんなことはありませんか?
  • 重い物を持てなくなってきた
  • ペットボトルのふた、缶のふたを開けにくくなってきた
  • 目が覚めて体を動かし始めるまでに時間がかかるようになってきた
  • 腕が上がりにくくなってきて、洗濯物が取り込みにくくなってきた
  • 頭を洗いにくくなってきた
  • 足が上がらなくなって、ものにつまずきやすくなってきた
  • 日中の眠気が強くなってきた

「相談を始めるのはこんな時期だと思います。ぜひ相談をしてみてください!」と有馬先生は強くお勧めしています。

実際にサービスにつながった事例から

有馬先生は。北海道医療センターで実際にサービスにつながった例を話してくださいました。そのうち、ひとつをご紹介します。

~花子さん(お子さん)と、お母さんの事例~

花子さんは先天性筋強直性ジストロフィーで、A病院がかかりつけ。
お母さんも遺伝子診断で筋強直性ジストロフィーと診断されています。
忙しい日々。お母さんにはかかりつけ医がいません。

   ↓

花子さんの支援者から「お母さんの体調が思わしくない」と北海道医療センターに連絡があり、お母さんの診察を依頼されました。

   ↓

【当時のお母さんの様子】

  • 一人で歩いてきたが、手すりにつかまらないと長距離が歩けない。
  • 自宅はアパートの2階。階段の上り下りが大変になってきた。
  • 家事は花子さんに手伝ってもらいながら、何とかしていた。
  • ヘルパーさんなど、家に他の人が入ってほしくない

「他人に家に入ってほしくない、というお父さんやお母さんは、意外と多いのではないでしょうか?」と有馬先生はご自身の経験から話していました。

【そして、6か月後】

  • 立ったり、歩いたりなどが大変。200メートルくらいが限界です。
  • 何かにつかまらないと立てません。
  • 花子さんは、もともと放課後デイサービスなどを利用しています。
  • そこで、花子さんの相談支援員がお母さんもサポートしています。
花子さんとお母さんのサポートを、みんなで考えよう!

有馬先生は、花子さんとお母さんにかかわる関係者会議を開きました。花子さんの学校、市役所、花子さんのサービス担当者。病院からは主治医と地域医療連携室(有馬先生)が話し合いをしました。

そして次の4点が必要という結果となりました。

  • 安全確保のため、2階→1階に引っ越しをする
  • 不足しているサービスを整える
  • お母さんの体調を整える
  • お母さんがもともと持っていた、皮膚の病気の治療に向けて入院
入院後のお母さん

皮膚の病気の治療を行うために入院をしたお母さん。
呼吸障害が進んでいることがわかり、NIV(気管切開をしない呼吸管理)を開始しました。
また、車いすが必要となり、身体障害者手帳制度を使って車いすを作りました。
糖尿病も見つかり、食事療法も開始しました。

お母さんの体調が戻ってきたため、支援関係者が1階に移った住宅環境や動線の確認をしました。
お母さんも、花子さんも車いすで生活できるよう、段差解消をしています。
そしてお母さんの退院後には、図のようなさまざまな支援を受けています。

お母さんは、「家に他人に入ってきてほしくない」と言っていましたが、花子さんとの生活を維持するために、食事の支度や後片付け、入浴介助にヘルパーさんをお願いしています。
社会参加をするために、これから就労に向けたサービスを受ける予定です。

有馬先生からのメッセージ:人と話すことに慣れよう

「とにかく、まずはご自分の健康管理を大切に。お父さんとお母さんが元気でいないと、お子さんたちが悲しみます

「気になる症状がなくても、定期的に検査してください。そして利用できる社会サービスや制度をうまく活用していきましょう!」

そして有馬先生は、「少し苦手かもしれませんが、人と話すことに慣れてください。相談相手を見つけて、困り事を相談してください。」と話しています。

お母さんからのメッセージ:相談できる人を見つけて相談するといい

最後に、先ほどの花子さんのお母さんからのメッセージが紹介されました。

「たくさんの人に助けられました。わたしたちだけでなく、ほかの困っている人たちも助けてほしいです。みなさんも、相談できる人を見つけて相談するといいですよ」

サービスは多岐にわたります。ご自分だけで抱えず、良い相談をできる人を見つけましょう。

重要なポイントが示された質疑応答

本稿では、親御さんが知っておきたい内容に絞ってお伝えします。

先天性筋強直性ジストロフィーの子どもが、5歳になっても独歩を獲得しないのですが?

周産期のときにどのようなことが起きたかが重要です。産まれたときに呼吸障害を合併していますが、呼吸障害が強ければ強いほど、中枢神経系への影響が強くなるため、その後の運動発達機能に影響があります。

また、足の関節の内反が強いと、足のかたちが正しい位置ではないため、立たせたときに踏ん張りがきかず、独歩につながりません。それに対応したケアが必要です。 足の関節が正しい位置にあるかどうかを診察し、理学療法をしっかり受けましょう。場合によっては矯正手術を受けることもあり得ます。

なぜ重たいマタニティーブルーになるのでしょうか?

筋強直性ジストロフィーは、軽度うつの症状を持つ人が3割から5割くらいいます。そのため病気が影響して、重たいマタニティーブルーになると考えられます。

お子さんの症状への不安から、自分が同じ病気だと言われても頭に入らない、逆に自分を責めてしまうという方もいます。

出産のときに、自分も筋強直性ジストロフィーだとわかるのは、お母さんにとっては二重三重のつらさがあります。

もともと自分のことをうまくコミュニケーションできない方もいます。 こうしたお母さんの心に寄り添う家族の力が必要です。

アンケートから

終了後に寄せられたアンケートでは、多くの親御さんたちから「自分の健康管理が必要とわかった」「母親としての自覚が高まった」との回答を寄せていただきました。

とくに、「子どものことには敏感でも、夫婦や家族の間で自分たちが罹患しているかどうかという話題を避けてきたため、話し合うきっかけになった」という回答にはスタッフ一同、励みになりました。

また「日本は人に迷惑をかけてはいけない文化が強く、助けを求めにくい環境。だからこそ、声をあげにくい方も『このウェビナーを見て一緒に考えて欲しい』と周囲に言えればいいのでは」というご意見もいただきました。

ご回答いただいたみなさま、講師の先生方に、あらためてお礼を申し上げます。