大阪市民公開講座part2レポート(2):芦澤先生への問いと答え

2016年5月22日(日)の市民公開講座「知っておきたい筋強直性ジストロフィー@大阪part2」後半は、ヒューストンメソジスト研究所の芦澤哲夫先生と大阪大学大学院の高橋正紀先生が回答するQ&Aセッションが行われました。進行を担当された国立病院機構 刀根山病院の松村剛先生が驚くほど多数の質問が寄せられました。

治験中の治療薬「IONIS DMPK 2.5Rx」の今の状況について教えてください。

A:[芦澤先生]現段階の治験では、徐々に投与量を増やしています。どんな薬であっても、投与量が多すぎると副作用が出ますので、その少し手前の量がどのくらいかを測っており、その量で次の段階の治験を行うことになります。

ほかの薬は開発されていますか?

A:[高橋先生]核酸医薬や低分子化合物の薬が研究開発されつつあります。

[芦澤先生]治験に進んでいる薬はウェブサイトClinicalTrials.govで「Myotonic Dystrophy」を検索すると見ることができます。内容は英語ですので、そこはよろしく(笑)。

DM-familyサイトのリンク集からもリンクしています。

患者にできることは何ですか?

A:[芦澤先生]アメリカやヨーロッパでは、患者が率先して組織を作り、いろいろな行動に移しています。

アメリカでも、最初は草の根の活動でした。チャリティーなどで基金を積み上げ、ある程度まで集まったら資金を集めるプロを雇い、さらに基金を大きくしています。

アメリカで、わたしの研究に最初に資金提供をしてくれたのはシャノン・ロードさんという方で、お子さん二人が重い筋強直性ジストロフィーの患者さんでした。シャノンさんのご主人が親戚などから1千万円の資金を集め、それをもとに組織を作り、現在のMyotonic Dystrophy Foundation(筋強直性ジストロフィー財団)となっています。

患者の活動は、最初のモメンタム(推進力)を作るのが一番難しい。大きい荷車を、最初の1センチ動かすのは容易ではないけれども、一度転がり始めればモメンタムがつくでしょう。最初に動かしていくには相当の忍耐と力仕事が必要です。

どうしたらモメンタムができていくのでしょうか?

A:[芦澤先生]それは、メディアやウェブ、フェイスブックを使って行くことです。積極的に新聞や週刊誌に訴え、「美しい話」「悲しい話」を通じて筋強直性ジストロフィーが世間的に知れ渡っていくと関心が高まります。
メディア、フェイスブック、ウェブを大事にしないと、なかなかうまくいかないです。

[高橋先生]この病気の日本での患者会は、できたばかりで、まだ人数が少ないです。人数が集まってこそ、力になります。まずはみんなが集まることです。

なぜ治験に「自然歴」が必要なのでしょうか?

A:[芦澤先生]自然歴はとても大切なものです。
例えば、ペニシリンで肺炎が完治する、という場合など、症状が完全に良くなるものなら、治験は簡単です。

しかし、この病気のような慢性疾患を治療する場合は「完全に症状が良くなる」というホームランをかっ飛ばすことは、かなり難しい。最初は、進行をある程度遅くしていきたい、というのがねらいとなります。

そうしたときに「何に比較して症状が進むのが遅くなるのか」を測る必要があり、比較の対象となるのが自然歴です。治療薬を投与しなかったら、どのくらいの速さで病気が進行するのか、治験の前に把握しておく必要があります。

患者登録で、1回だけデータを取っても自然歴にはなりません。できれば1年~1.5年ごと。また、半年に一度でも検診を受けて、自分の病気がどう変わっているのか記録してもらうことも大切です。

トレーニングは有効でしょうか?

A:[芦澤先生] ある程度のリハビリは必要です。ただ、この病気は筋肉の再生機能がないので、激しいトレーニングをしないでください。
だからといって「ソファに座ってリモコンだけ操作しているだけ」が運動だと、筋肉は落ちていきます。適度な運動をしてください。

適度というのは、わたしに言わせると「翌日ベッドから出られない」のはやりすぎです。「翌日気持ちよく、動きやすい」ならば適度でしょう。何が適度なのかは人によるので、理学療法士の先生と相談してください。

この病気でやってはいけないことは?

A:[芦澤先生]転倒して骨折すること、肺炎は危ないです。転倒しても骨折しないように家を片付けましょう。言うまでもありませんが、タバコはいけません。過度のアルコールも筋肉を痛めます。
ストレスは避ける方がいいのですが、だからといってソファの上にいるだけでは、ストレスにはならなくても筋力が落ちます。ある程度、刺激のある生活を送りましょう。

ミオトニアの薬はどんなときに投与しますか?

A:[高橋先生] メキシチール(メキシレチン)を処方することがありますが、不整脈を引き起こすので、強くは勧めません。仕事での支障があるときなどだけ、心電図などでチェックしながら使います。

後の世代ほど症状が重く出る「表現促進現象」は必ず起きるのでしょうか?

A:[芦澤先生] 起こらない場合もあります。2世代間で起きることもあれば、4~5世代かかる例もあったり、親と子でCTGの繰り返し数が変わらないという例もあったりします。
また、なぜ先天性筋強直性ジストロフィーのほとんどが母親由来であり、父親由来の場合は小児期以降に発症することが多いのかについては、わかっていません。細胞内の環境の違いがあると考えられますが、解析が必要です。

アメリカでは出生前診断がありますか?

A:[芦澤先生]はい。一番の心配は先天性筋強直性ジストロフィーの子どもが産まれたらどうするか、です。父親が患者の場合は先天性筋強直性ジストロフィーの子どもが産まれる確率は低く、1%以下です。ただ、この場合「成人で発症する可能性がある」という理由で中絶するかどうかは、倫理的な問題があります。
アメリカでも、中絶をするかどうかについては議論があり、医者としてはこうした議論を促していくという立場です。アメリカでは、最終的には患者さんとパートナー個人に決断がゆだねられます。

[大阪大学大学院 加藤先生*]だからこそ、みなさんには患者会などで情報を持ち寄り、日ごろからアメリカではこう、日本ではこう、などいろいろな情報を知ってもらいたいと思います。

遺伝子診断には時間がかかりますか?

A:[高橋先生]発症前であれば、遺伝子診断は慎重に行う必要があります。いずれ発症するとわかってしまうと、メリットもデメリットもあります。遺伝カウンセリングを何回か受け「考える時間をかける」ことが必要です。

羊水検査、着床前診断の正確性は?

A: [芦澤先生]羊水検査の場合は確立している方法なので、診断的にはそれほど問題がないと思います。

[高橋先生]着床前診断(体外受精した細胞を調べる方法)は技術的には確立していますが、実施している施設は限られており、数が少ないので安全性の断言はできません。

[芦澤先生]アメリカでは着床前診断は実施されていますが、PCRという手法*で診断するので、技術的にはかなり高度です。
遺伝子検査を含め、こうした検査ではヒューマンエラー(人による誤り)が起きることがあります。1000人に1~2人のエラーがあり得ます。
*PCR法:ポリメラーゼ連鎖反応法。遺伝子を何倍にも増やしてから解析する手法

CTGの繰り返し回数と症状・年齢の関連性は?

A: [高橋先生]発症には個人差があり、CTGの繰り返し回数で発症年齢の推測をすることはまだできません。

[芦澤先生]90回くらいの繰り返し回数でも、個人差があります。ただ50~55回くらいであれば、間違いなく軽度と言えます。
CTGの繰り返し回数は年齢が高くなると変化します。白血球のCTG繰り返し回数が同一ではなく、ぶれ幅が大きくなって全体の平均では高くなります。これがどんな影響があるのか、まだわかりませんが、重い方向であることは事実です。

日本では「医師の言うとおりに医療を受ける」という考え方が主流です。
一方、多くの医師がこの病気に詳しいとは思えません。「やることがないから、病院に来なくていい」と医師から言われたこともあります。患者と家族は何を指針に医療を受けるべきでしょうか。

A: [芦澤先生]アメリカでも、一般の医師が全員、筋強直性ジストロフィーを知っているわけではありません。神経内科の医師でも3~4例くらいしか出合うことがなく、患者さんの方が詳しいことはよくあります。

こうした医師のレベルアップをするために、アメリカではいろいろなガイドラインを作り、Myotonic Dystrophy Foundation(筋強直性ジストロフィー財団)が「Care Recommendation」として配布しています。
「どんなときに何をするのがいいのか」が書かれている実践的なガイドラインで、一般的な神経内科医ならわかる内容。良いリファレンスになっていると思います。

[高橋先生]医師は患者さんを通じて勉強することが多いものです。患者さんを診て、医師の側がもっと勉強する。患者さんと医師は対等な立場でこの病気に向かって行くべきです。

[大阪大学大学院 加藤先生*]みなさん、患者がガイドラインを作るなんて難しいと思われているかもしれませんが、実は、日本でも小児のアレルギーで患者のみなさんと専門医が一緒にガイドライン*2を作っています。

「患者さんとともに医療を作る」ことは少しずつ動いています。ぜひ患者会に参加して、いろいろな活動をしてみてください。

*加藤先生は、大阪大学大学院 医療系研究科の教授で、フロアからの発言をされました。

*2 「家族と専門医が一緒に作った小児ぜんそくハンドブック 2012年改訂版」。日本小児アレルギー学会と特定非営利活動法人 アレルギー児を支える 全国ネット「アラジーポット」との協働により制作された治療ガイドライン。
参考サイト:ヘルスケア関連団体ネットワーキングの会(VHO-net)「ヘルスケア関連団体と日本小児アレルギー学会の協働から生まれた治療ガイドライン

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