2016年9月4日(日)、市民公開講座「知っておきたい筋強直性ジストロフィー@山口」が山口県セミナーパークにて開催されました。当日はこの病気への知識を求める患者・家族と医療関係者、約50名の参加があり、またWebでの視聴数も約70件ありました。
 現在、筋強直性ジストロフィー医療は変革期を迎えつつあり、新しい治療法が世に出ようとしています。これを成功させるために、患者・家族として協力できることの一つには、「患者登録」があります。「患者登録」が増えれば開発中の新薬を使えるようになる可能性が高まります。
 また、今できることもたくさんあります。例えば、定期受診による合併症の早期発見、様々な合併症に対する対処療法、指定難病として申請することで得られる支援、などがあります。
今回の講座では、12名もの先生が筋強直性ジストロフィーについて、今できる検査・対症療法、医療サービス、新しい薬の開発状況などをお話しくださいました。特に、「定期受診」の必要性について多くの先生が強調されていました。




※なお、混乱を避けるため、「Remudy患者登録」、「指定難病申請」、「当NPO法人筋強直性ジストロフィー患者会入会」は別物であることをご理解ください。

ゲノム編集は根本的な治療法になるかも?!

 同志社大学 石浦章一先生は「筋強直性ジストロフィーのメカニズムと期待される治療法」について説明くださいました。
筋強直性ジストロフィーはDNAの「ある部分」が長くなってしまう病気です。病気の原因はDNAやRNAであるため、核酸医薬やゲノム編集(病気の原因となっているDNAを修正する方法)というものが根本的な治療法になると期待されており、実際、研究や治験が進んでいるというお話をされました。

歩けても、苦しくなくても、実は呼吸の症状が出ている人もいる

 鈴鹿病院 久留聡先生は「呼吸機能障害」について、説明くださいました。この病気では、呼吸に問題があったとしても、苦しいという自覚が低下していることが多く、患者自身は平気なつもりでも、実は体内の酸素が不足し、二酸化炭素が増え、体に悪影響が出ます。こうした状態は、比較的早期の患者でも見られることがあるため、個々の患者の状態に応じて半年〜1年に1回ほど受診して呼吸に関するチェックを行い、早めに手を打つことが重要です。

突然死を防ぐためには、心臓のチェックが欠かせない

 滋賀医科大学 伊藤英樹先生は「心臓の問題」について説明されました。
 一般的な心電図だけでなく、ホルター心電図(小型の装置を身につけ24時間、心電図を調べる)も施行して、重大な異常が起こってしまう前に今できる治療を行うことが大切です。

糖尿病は放置しておくと怖い病気、定期検査で早期発見を!

 大阪大学大学院 岩橋博見先生は「代謝の問題」として、筋強直性ジストロフィーの合併症としての糖尿病について説明くださいました。
 糖尿病とはインスリンの作用不足によって慢性の高血糖状態が続く病気で、一般に最初は無症状ですが、放置しておくと重大な合併症が出現します。糖尿病の合併症として、神経の障害、目の障害、腎臓の障害と、心筋梗塞や脳梗塞などがあります。
 糖尿病に関しても、初期に見つけて軽いうちに治療を始めれば大事にいたらないことが多いです。そして、早期発見のためには定期受診・定期検査が重要です。

誤嚥性肺炎に注意

 柳井医療センター 宮地隆史先生は「嚥下の問題」について説明されました。
 筋強直性ジストロフィー患者は摂食・嚥下障害がしばしば起こります。唾液や食物を誤嚥して肺に入ると、誤嚥性肺炎になることがあります。
 嚥下障害、誤嚥性肺炎の予防・早期発見は筋強直性ジストロフィー患者の生活上、とても重要なことです。正しい知識をもって適切な対応を行いましょうと宮地先生は話されました。

成人型とは異なる症状を呈す先天性・小児期発症の筋強直性ジストロフィー

 刀根山病院 斎藤利雄先生は先天性・小児期発症の筋強直性ジストロフィーについて、お話しされました。
 小児型筋強直性ジストロフィーは、先天性を除いた、10歳以下で症状を呈する患者さんのことを指します。精神遅滞や学習障害をきっかけに受診することが多いようです。4〜5歳頃からミオトニアが出現し、精神遅滞の程度は先天性より軽いといわれています。
 なお、先天性も小児型も、成人型と同様、定期的な受診が重要です。

自覚がなくとも、病状は徐々に進行し、急変することもある

 山口大学大学院 川井元晴先生および、難病対策センターの穐枝優子さんは「山口県の筋強直性ジストロフィーの現状と相談窓口」についてお話されました。
 川井先生は、筋強直性ジストロフィーのある患者さんについてお話しされました。その患者さんは60歳代の方で、意識がもうろうとした状態と呼吸困難のために救急搬送されました。身長165cm、体重50kgとやせており、顔面の筋萎縮による斧様顔貌を呈し、ミオトニア、両手足の筋萎縮、誤嚥性肺炎、不整脈も見られ、典型的な筋強直性ジストロフィーの患者さんでした。よくよく話を聞いてみると、20歳代のころ周りから歩き方がおかしいと指摘され、40歳代になってやっと自分でもおかしいと気づき、その3年後に近くの神経内科を受診、筋強直性ジストロフィーと診断されていました。その時点で呼吸機能が弱っていましたが、本人の自覚はなかったそうです。定期受診を開始しましたが、受診の間隔が空いてしまい、その間に急変し、今回の救急搬送となったそうです。
 山口県では、平成27年9月より、山口大学医学部附属病院内に「難病対策センター」が開設され、専任の「難病医療コーディネーター」が相談を受け付けています。具体的には、難病医療に対する相談、情報収集・提供、入退院等の医療調整、医療機関との連携などを行っています。

  • 相談日時:平日9時〜16時まで(お越しの際は事前にご連絡を)
  • 相談費:無料
  • 場所:山口大学医学部附属病院 外来診療棟3階
  • 電話:0836-85-3236(または3237)
  • メール:nanbyou@yamaguchi-u.ac.jp

サービスは自ら申請しないと利用できません

 山口県健康増進課の長井詩乃さんは、利用できる制度やサービスについて、お話しされました。
 利用できる社会資源として主に難病制度、障害者の福祉制度、介護保険制度があります。平成27年7月から筋ジストロフィー(筋強直性ジストロフィーを含む)も指定難病として加わり、医療費助成を受けられるようになりました。
 留意点としては毎年更新が必要なこと、また、軽症者でも医療費負担が高額になれば「軽症高額」として助成対象になることもあります。
 障害者の福祉制度として、障害者総合支援法により障害福祉サービス等の提供(障害者手帳がなくても可)などを受けることができます。
 また、主治医と相談して障害者手帳が発行されれば、重度心身障害者医療費助成や障害年金、手当、各種料金割引・減免制度を受けることが可能になるが場合があります。
 最も重要なことは、上記の様々な制度やサービスは患者・ご家族からの申請に基づく制度であるため、申請されないと利用できません。まずは、かかりつけ病院で主治医や相談室・地域連携室の医療ソーシャルワーカーに相談し、制度やサービスを上手に活用しましょう。

転倒に気をつけて!

 刀根山病院 山本洋史先生は、「転ばない工夫」について説明されました。
 筋強直性ジストロフィーの患者の転倒の原因として膝折れが最も多く、次いで引っかかりが多いという調査結果が出ています。高齢者が転倒すると、5〜10%が骨折、約5%がほかの重大な障害を来すといわれていますので、十分気をつける必要があります。
 刀根山病院のホームページから、「転倒予防に関するパンフレット」がダウンロードできます。

期待できる治療薬が治験段階に!ぜひ患者登録を!

 大阪大学大学院 高橋正紀先生は「新しい薬の開発研究の現状」について、説明されました。
 筋強直性ジストロフィー治療法として、最も期待されているものは核酸医薬です。アイオニス・ファーマシューティカルズ社が開発している核酸医薬はこの病気の主要な原因を取り除く薬で、現在、第2相aが米国で進行中であり、2016年12月に終了予定といわれています。また、その他にも、AMOファーマ社が開発している治療薬は先天性・早期発症の筋強直性ジストロフィー患者で2016年中に第2相の治験が行われる予定です。
 このように、新薬の開発が進んでいますが、それが認可され使えるようになるためには、患者自らが「患者登録」を行うことが重要です。
また、患者登録は治験に参加しない場合でもメリットがあります。例えば、登録された臨床経過(自然歴)をもとに、薬の効果を評価する方法の確立や、多岐にわたる合併症への対症療法の標準化などにつながります。
 さらに、日本のみならず海外の製薬業者へのアピール(日本にもこんなに患者がいて治療薬を求めていることを知らせる)にもなります。

新しい治療法を得るためには

 刀根山病院 松村剛先生は、「筋強直性ジストロフィー治験推進のための臨床基盤整備の研究班」の活動内容や、患者さんの協力の重要性ついてお話しされました。
研究班では、市民公開講座や患者登録推進、患者登録で得られたデータによる研究などが行われています。
 新しい治療法を得るためには、わたしたち患者自身の主体的な協力も必要であり、患者登録や治験への協力をお願いされていました。



最後に:患者であるわたしがこの講座を受けて

 「病院に行っても診察と検査だけで薬がもらえない」「治らないのなら病院に行っても金と時間の無駄だ」「毎年患者登録を更新するなんて面倒だ」といった考えを持つ患者さんもいるようです。
 しかし、「患者登録(Remudy)」や「定期受診」は、貴方を含めたわたしたち患者や、これからの患者さんみんなのために、とても重要なことだと感じました。患者のひとりとして、ご協力をお願いしたいと思います。
 毎回、お忙しい中、休日返上で市民公開講座を開催してくださる先生方に感謝申し上げます。
 ご質問ご意見等ございましたら、当ウェブサイト「お問い合わせ」までご連絡をお願いいたします。



左から、松村剛先生、筆者、筆者父、筆者弟、高橋正紀先生
文責:筋強直性ジストロフィー患者会 副理事長 明地雄司