2016年10月16日(日)、市民公開講座「知っておきたい筋強直性ジストロフィー@名古屋」が名古屋国際センターにて開催されました。

今、治療薬の開発が進んでいます

 石浦章一先生(同志社大学)から「分かりやすい病気のメカニズム」と題し、原因遺伝子の影響で、全身に様々な症状が出ることが説明されました。

 また、最新の治療法の紹介がありました。その手法は大きく分けて2つ。1つ目はノーベル賞を受賞された山中教授でご存知のiPS細胞を用い、効果のある薬を探す方法です。2つ目は「ゲノム編集」というものです(ゲノム=遺伝情報)。本疾患では原因となる遺伝子の部分が判明していますので、例えば、その部分を切り取って正常化する、というイメージです。これはシャーレ内の細胞では効果があることが確認されています。他にもいくつかの手法が紹介されましたが、どの方法もとても希望を持てる内容であり、話を聞いていてワクワクするものでした。近年、世界中でこの病気の治療薬の開発が進んでいます。我々の手にいち早く治療薬が届くよう、患者登録データを活用した治験の開始が期待されます。

「呼吸の苦しさの自覚が少ない」これ、大問題です!

 久留聡先生(国立病院機構 鈴鹿病院)は「呼吸を上手く保つには」と題し、本疾患特有の注意点を挙げられました。

 やはり、最も重要なことは呼吸状態が悪化しても、呼吸困難感を感じにくい、という点です。自覚が無いなら、対処しなくてもよいか?答えはノーです。呼吸機能に問題があると、体全体に悪影響が出てきます。症状として不整脈や過度な眠気などが見られるようになることもあり、生活に大きな影響が出る恐れもあります

 症状がなくても定期的な呼吸機能のチェックを行うことがとても大切です。早期に対処(夜間の呼吸補助など)することが出来れば、予後の大きな改善が期待されます。
また、「よく噛んでゆっくり食べることで誤嚥を防ぐこと」、「咳が弱くなり痰が出にくくなるため、風邪などの際には注意を払うこと」といったことが紹介されました。

あなたの心臓機能。青信号?黄信号??それとも……

 瀬川和彦先生(国立精神・神経医療研究センター病院)から「心臓合併症の特徴」と題し、心臓の定期検査の重要性が示されました。本疾患では約1割の患者で、重度の心機能異常が見られます。

 心臓の異常は不整脈として現れ、その種類は2つに分けられます。1つ目は脈が遅くなることで「疲れやすい・めまい・息切れ」として自覚されます。2つ目は脈が早くなることで「動悸」として自覚されます。共に治療できることも多いものですが、合併症が現れることがあるので、専門医による判断が重要です。

先ほどの呼吸の問題と同様に、症状は実感しにくいこともあるため、自覚症状がなくても年に1度の心電図検査を受け、心機能の信号が何色かを知ることが大切です。24時間の心電図を記録できる「ホルター心電図検査」は、症状の出ない心電図異常や睡眠中の不整脈の診断に役立ちます。

意外な落とし穴。普通の糖尿病とはちょっと違う

 高田博仁先生(国立病院機構 青森病院)は「代謝障害の特徴」として、糖代謝と脂質代謝に特有の異常が現れることが紹介されました。

糖代謝については、多くの患者で高インスリン血症がみられ、昼から夜にかけて血糖が高くなる傾向があり、空腹時血糖が正常であったり、それほど高くなくても注意する必要があることが示されました。しかし、本疾患の糖代謝異常については十分にわかっていないことも多く、一般的な2型糖尿病と同じ治療法でいいかどうか、研究が進められているところです。

重要なのは治療を維持することで、糖尿病専門医での治療を受けている場合でも、本疾患の専門医と相談することが薦められます。

 また、脂質代謝異常によると思われる内臓脂肪の蓄積により、動脈硬化や様々な病気を併発するリスクが高まる「メタボリックシンドローム」も多くの患者で見られます(40%)。

なるほど、納得。「性格の問題」ではなかった

 諏訪園秀吾先生(国立病院機構 沖縄病院)は「中枢神経障害の特徴」として、患者における中枢機構の特徴が紹介されました。

 本疾患の患者は、医者からは「治療に協力してくれない」、家族からは「やる気がない」と言われることがあります。
これは性格の問題ではなく、中枢神経(主に脳)の障害によるものです。研究班で10歳代から70歳代の患者において調査を行ったところ、認知症と認めてよいくらいの方が約7%確認されています。我々の病気の認知機能障害の特徴としては以下のことが挙げられます。

・「間違っている」と指摘されても間違い続けてしまう。
→単に「間違っている」と言ってもダメ。上手に指摘する。

・注意機能(情報に対し、意識の集中・持続・分配・転換を行う機能)が劣る。

・抑うつ(悲しい)気分、無感情、快楽が無くなる。(ただし、楽観的で希望が強く、不安が少ない、という面もある)

ただし、これらの認知障害がいつでてくるか、ということ知ることは難しく、どの症状が・どのように・どういう変化で出てくるか、ということはよくわかっていません。ですので、個々の認知特徴をわきまえたサポートが必要であると言えます。そのためにも認知機能の問題がどの程度有るのか無いのかを正確に判断することが重要であり、そうすることで患者と家族、介護スタッフが病気として対応することができます。

先天型は成長段階ごとの症状に理解を。妊娠中は母体にも注意

 舩戸道徳先生(国立病院機構 長良医療センター)は「子供に関わる問題」として、先天性筋強直性ジストロフィーでの成長段階ごとの特徴について説明をされました。

 先天性筋強直性ジストロフィーは、多くの場合で一人歩きが可能となり、ほぼ人工呼吸器の必要もなく、嚥下障害も少ないです。しかし、小学生くらいまでに筋力低下やミオトニア、嚥下障害、発達障害が現れることがあり、段階に応じたフォローが必要です。

 妊娠時には羊水過多や筋力低下、子宮収縮不全などがあるため、専門環境が整っている医療機関での出産が必要です。また、遺伝カウンセリングを受け、病気の理解を深めた上で、出生前診断を行える場合があります。

自分にできる範囲で。柔軟性と可動域を保つことが大切

 鬼頭良輔先生(国立病院機構 長良医療センター)は「呼吸理学療法の実際」で、呼吸障害に対応するリハビリが紹介されました。

 肺を包んでいる胸郭(肋骨など)に付いている呼吸筋(例えば横隔膜や肋間筋)が動くことで呼吸が出来ます。本疾患では、呼吸筋の筋力低下により、以下の悪循環例がみられます。

呼吸筋の筋力低下 ⇨ 深呼吸困難 ⇨ 胸郭が動きにくくなる ⇨ 呼吸筋が固くなる⇨

この悪循環を断ち切るためにリハビリを行います。講座では体位ドレナージ、徒手による呼吸介助、胸郭の可動域を維持するためのストレッチなどが紹介されました。

「食事前の3分体操」で食べやすく

 佐藤伸先生(国立病院機構 鈴鹿病院)は「嚥下訓練の実際」と題し、食事の際の嚥下をスムーズにするための運動が紹介されました。

 本疾患では多くの方に嚥下障害が認められます。嚥下する(飲み込む)ためには、舌、唇、頬、顎、喉、いろいろな所が機能しています。日頃から、これら機能の体操を行うことで、動きがスムーズになります。今回、このような体操の例として「パタカラ体操」が紹介されました。また、食事前に行うことで嚥下をスムーズにする「食事前3分体操」も紹介されました。今回出席された方々は、言語聴覚士さんのトレーニングを体験ができ、非常に参考なったと思います。

食事の際には、1口量に注意し、よく噛んで食べることが大切です。むせる・飲み込みにくい・喉にひっかかる感じがする、このようなときには専門医や言語聴覚士に相談してください。

糖質のコントロールが大事

 森住蘭先生(国立病院機構 刀根山病院)は「栄養は健康管理の第一歩」として、栄養面からの食事についてのアドバイスがありました。

 本疾患はインスリンの効果が低くなる傾向があり、また、運動機能低下や加齢による影響もあって、耐糖異常(糖尿病)に注意する必要があります。しかし実際は、食べやすさの面から、米やパン、麺、芋など炭水化物を多く含む食事になりがちです。また、偏食があったりや嗜好品(お菓子等)を好む患者が多い傾向もあり、虫歯になりやすいという懸念もあります。よって、糖質に注目した食べ方が重要で、そのポイント3つが示されました。

①糖質の量を食事ごとに一定にし、食後の急な糖質上昇をさける
②糖質の吸収(血糖上昇)が緩やかな食品を選ぶ
③食物繊維が多い献立から食べる

 嚥下障害のある方(易嚥下食)の糖質の調整ポイントは、おかずに芋やパスタ等を使うときはご飯の量を減らす、野菜不足をジュースで補う場合は野菜100%の飲料(野菜果汁ミックスではなく)、糖質を減らす場合は栄養補助食品を追加、などがあります。また、栄養面だけを優先して誤嚥や窒息につながらないよう注意をしなくてはいけません。栄養のことも嚥下障害のことも、どちらにも気を配る必要があります。
体は食べたものから出来ています。栄養管理も非常に大切です。不明な点は病院等の栄養士に相談してください。

国際共同治験への参加に向けて、患者登録を!

 木村円先生(国立精神・神経医療研究センター)からは治療薬開発の流れと現状、および患者登録システム(Remudy:http://remudy.jp/)の重要性の説明があり、患者会と研究者、国(薬の承認等を行う)の連携の大切さについても説明がありました。

 病気のメカニズムが解明され、世界中で急速に治療薬の開発が進んでいます。しかし、本疾患のような希少疾患の治療薬の臨床試験について、どこに・どれだけの人数の・どんな人が・何に困っているのか、ということなどがわからない状態で行うことは困難です。これを実施するためには、患者を集め、疫学を知り、国際共同治験を行う必要があります。
その実現のために、患者ひとりひとりが患者登録システム(Remudy)に参加し、患者同士が協力し合うことが重要です。

本疾患には「自分の体の変化に気が付かない」という特有症状がある

 松村剛先生(刀根山病院)からは研究班の紹介および臨床研究・治験への協力のお願いがありました(ホームページ:http://dmctg.jp/)。日頃、多くの患者さんと接する中で体の変化に気が付かない患者さんが多いそうです。必ず定期的に診察を受けましょう。

 患者データは軽症者から進行者、若年から老年までと幅広いものが必要であり、「私には関係ない」ではなく、一人でも多くの患者登録が重要です。これは「変化をきちんと観察して記録を残す」という意味でも重要です。これらの積み重ねが研究成果・治療法の開発に繋がります。本疾患の医療は今まさに変革期にあります。

 また、社会的コストが許容(本疾患に関する社会保障等が充実)されるようになるためには、患者が連携・活動し、希少疾患への関心を高め、社会に認知される努力も必要です。待っているだけでは何も変わりません。

左後から、木村先生、佐藤先生、諏訪園先生、鬼頭先生、石浦先生、瀬川先生
左前から、森住先生、松村先生、船戸先生、久留先生、高田先生

左から、土田(患者会)、瀬川先生、松村先生、高田先生、久留先生、松井夫妻(患者会)、妹尾(患者会事務局長)
※先生方に患者会ポスターをお持ち頂きました。

文責:土田裕也(患者会事務局担当)