「難病教室 成人発症の筋強直性ジストロフィー」レポート

2019年8月1日(木)、兵庫県立尼崎総合医療センターの講堂にて「難病教室 成人発症の筋強直性ジストロフィー ~病気や合併症を理解し、より良い生活を送るために~」が開催されました。
当日は主に医療関係者の方、介護関係者の方、患者さんなど約30名の方が参加されておられました。
筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)の会員、小川晃佑と達野正子、達野康平も参加し、講義を聴かせていただきました。

兵庫県難病相談センター長兼兵庫県立尼崎総合医療センター脳神経内科科長の影山恭史先生は、「神経内科の難病教室として、筋ジストロフィーは大変重要なテーマ。中でも筋強直性ジストロフィーは筋ジストロフィーの中でもっとも患者数の多い病気」ということで今回の講座のテーマに選んでいただいたとのことです。

講義1「筋強直性ジストロフィーの臨床」:合併症にできるだけ早く気が付けるよう定期検査を受けましょう

お話しいただいたのは兵庫県立尼崎病院総合医療センター、脳神経内科の早坂有希先生。
患者数や病気の原因、遺伝について資料を参考に説明していただきました。
症状として筋肉に出てくる症状(ミオトニアや嚥下障害など)についての説明がありました。

合併症対策には、年イチの検査が必要
筋強直性ジストロフィーにはさまざまな合併症が起きますが、年に一回定期的に検査を受けると発見できるものが非常に多いとのことです。
また、呼吸器の合併症について、NPPV(非侵襲的陽圧換気法)というマスクを用いて陽圧をかける方法にて治療を行うと、睡眠の改善につながり体調が回復した例が紹介されました。
ほかにも合併症について、糖尿病、消化器障害・眼症状(白内障、眼瞼下垂など)、認知機能障害など、さまざまなお話しをいただきました。

当患者会のアラートカードが紹介されました
検査・診断、その後の検査について特に注意をしなければならない、と言われたのが手術時の対応です。
麻酔管理が難しいので、「緊急時に筋強直性ジストロフィーであることがわかるようにする」対策として当患者会が発行しておりますアラートカードが紹介されました。
こちらを携帯しておくことで、緊急時にも対応しやすくなるとすすめておられました。

先天性筋強直性ジストロフィーのことにも触れられました
特に妊娠については緊急帝王切開が可能な産婦人科、新生児集中治療が可能な小児科、神経内科がある医療機関での妊娠管理・出産が大事です。
妊娠中の腹部エコーで羊水過多、微弱胎動などが現れると、先天性筋強直性ジストロフィーの胎児ではないかと疑われ、さらに、ここで初めて母親も筋強直性ジストロフィーであることがわかる方もいらっしゃるということです。

神経・筋疾患患者登録「Remudy」・筋強直性ジストロフィー患者会(DM-family)の紹介もありました
病気のメカニズムや現在研究されている治療・企業による治験の状況の紹介のあと、患者登録「Remudy」や当患者会についてもお話しいただきました。

当患者会については副理事長、明地雄司の紹介もあり、自身が筋強直性ジストロフィーという診断を受け、医学部に編入して医師になったなど、その行動力を高く評価されておられました。
愛媛新聞に記事掲載
テレビ愛媛制作 副理事長 明地雄司のドキュメンタリー
筋強直性ジストロフィー国際学会IDMC-11で講演

講義2「楽しい食事のために」:誤嚥性肺炎を予防しよう

休憩をはさんだ後の講義「楽しい食事のために」をお話しいただいたのは兵庫県立尼崎総合医療センターリハビリテーション部言語聴覚士の平山翔太先生。

自分に合った食事形態を疲れにくい姿勢で食べましょう
摂食、嚥下のメカニズムをご紹介いただいた後、筋強直性ジストロフィー患者の嚥下の特徴についてとその対応策を教えていただきました。

筋力の低下に対して食べやすいものと食べにくいものの紹介がありました。
とろみをつけると食べやすい。※逆にとろみのない方が食べやすい人もいます。
パサパサしたもの、べたべたしたもの、固いもの、サラサラの液体などが食べにくい。

食事形態についてユニバーサルデザインフードなどの紹介をしていただき、飲み込みや噛む力が弱っても食べやすい食事を教えていただきました。

※ユニバーサルデザインフード(UDF) 詳細はこちらhttps://www.udf.jp/outline/udf.html

また、食事時の姿勢として出来るだけ頭が起きるような姿勢を取り、自分に合った疲れにくい姿勢で食事をとること、場合によっては車椅子座位・リクライニング位にクッションや体幹ベルトを使用することもおすすめされました。

嚥下体操をして安全に楽しく食事をするのが重要です
最後におすすめされたのが食事の前に口や上半身を動かして準備運動をすること。
頸部の緊張を取ったり、嚥下をスムーズに行ったりするための運動で、筋強直性ジストロフィー患者は筋疲労に注意しながら実施してください。

定期的に嚥下内視鏡検査や嚥下造影検査で自分の嚥下機能のレベルを把握し、誤嚥を予防しながら安全で楽しい食事をとることが重要ということでした。

講義3「日常生活の工夫」:病状とうまくつきあっていきましょう

お話しいただいたのは兵庫県立尼崎病院総合医療センターリハビリテーション部作業療法士、正垣明先生。

日常生活を上手に工夫すれば、良いサイクルにつながります
動くのが楽になる→体力が増す→筋力も増す→活動量も増す→身体精神機能も向上する→
という、良いサイクルが続けば日常生活の向上にもつながり、病気ともうまくつきあっていけます。

モノをつかむ時には握るように、自助具を利用するのもいいと思います
モノをつかむ際には全ての指の関節を意識し、できるだけ握るようにつかむことが大事です。

また、食事や整容などでは、手や指の変形や痛みに合わせてグリップしやすい食器、上下にハンドルが付いており、手から落ちにくい歯ブラシや電動ブラシ、後ろ髪が長い方でも髪をとかしやすい柄の長いヘアブラシなど、日常生活を便利にするためのグッズを紹介していただきました。

ストレッチ・深呼吸・HALを利用、疲労やストレスをためないで
ストレッチ・深呼吸をしっかり行って、関節の可動域を維持する。
その際に痛みを出さない、急激な力を加えないこと、そしてしっかりと深呼吸をすることがとても大事ということでした。

また、医療用ロボットスーツHALを使った治療は、尼崎総合医療センターでも実施しています。

「なにより疲労やストレスが症状悪化のきっかけになることがあります。
疲れたら無理せず休み、自分なりのストレス解消法を見つけることが大事です。
いつまでも自分らしい生活を楽しみ、心豊かな生活を楽しみましょう」とのこと。
身体のことだけでなく、心の豊かさも大切であることを教えていただきました。

講義4「公的サービスと制度について」:医療機関とのつながりを大切に

お話しいただいたのは兵庫県難病相談センター医療ソーシャルワーカーの二山千佳子先生。

障害福祉サービス、どのくらい利用できるかは患者と家族からの申請次第
障害福祉サービスは身体・知的・精神の障害者手帳を交付されている方だけでなく指定難病の患者も対象となります。
適切なサービスを受けるには医療機関としっかり連携していくことが大切とのことです。

障害年金や傷病手当についても支給についての詳細、成年後見人制度についての説明もありました。成年後見人制度については自治体の法テラスに相談されるといい、とも説明がありました。

また、公的サービスの一つとして、難病患者就職サポーターという制度があり、各都道府県に1~2名、「難病患者就職サポーター」が配置されています。
兵庫県では尼崎のハローワークを拠点に県内を回っているとのことです。
詳細についてはこちらを参照ください。
https://jsite.mhlw.go.jp/hyogo-roudoukyoku/var/rev0/0114/3984/201751817259.pdf

難病教室終了後に

質疑応答のコーナーでは、当患者会から「アラートカードは患者会の入会者のみに配布しておりますが、筋強直性ジストロフィーの麻酔・鎮静に関するメモをホームページに掲載しておりますのでそちらも参考にしていただきたい。また、それ以外にも患者の声やセミナーや勉強会の記録もホームページに掲載しているので、ぜひとも見ていただきたい」と、お伝えしました。

終了後に先生方とお話ししたら、当患者会についてはご存じだった様子でした。当患者会が多くの先生方にご支持いただいていることを実感いたしました。

兵庫県難病相談センターで筋強直性ジストロフィーを取り上げた講座は非常にありがたいです。

会員たちは「患者数は実は意外と多いのではないか」と感じることもあり、困っている患者と家族のために、先生方からも積極的にこのような活動を継続していただきたいとお願いいたしました。

先生方も、この病気について、また患者さんについても非常に関心をお持ちのご様子でした。

新たな発見がたくさんあった会となりました。

(小川晃佑)